詩「チャンネルを合わせる」
壁からにゅるっと黒い扉が浮かんできて、ふわふわと目の前を通り過ぎていくのを見る私は、放送終了のカラーバーの無音に起こされていて、その飛ぶ扉はリモコンで、また反対の壁にゆっくり溶けていくが、その後を追う気力はなくて、画面の黄色いバーから聴こえた小さい叫びに気づいて指紋をねじる、爪が割れそうなほど親指と人差し指の指紋をくっつけてねじっていき、身長を縮ませることに成功して、スズメバチの羽音に囲まれていくと、後頭部の傷口から活字が出る痛みに堪えなければいけないので、目は開いていこう、そんな夢を知らないまま、暗さは私の背中に三本目の手を生やしたりしたが、私はその手で粘土を捏ねて後頭部の傷口を治す人形を作りたかったのだと、どうも別れは活字を引きつける性質を持っていたため、逆さ吊りにされた私は大声で飛行を歌いながら澄んだ水槽の水面を震わせてきている、そんなことももう青いバーにかすかに消えていて、たまにまっさらな親指に仏眼が滲んでこないかを見る堕落を、思いながら懐かしさをねじって私の漂流を彼らに見せようとするが、電波は干ばつし、SOSが餓死しているのを見て、今度は前頭葉から活字を滴らせて、排水溝の故郷に落ちていくのを見送り、スズメバチの死骸もぞろぞろと鼻から漏れ落ちて、私は赤く細く揺れるバーに変わっていくのか、砂嵐、指をねじって、チャンネルを合わせると、誰かのドライブの様子が映っているが、車酔いしてしまっているのか歪み過ぎていて、それでも辛うじて見れるのは、あのノートみたいに薄っぺらいビルを並ばせる街が、私の造ったはずの街が、ああその街に住む人たちを私は救わなければ、彼らの言葉を色褪せた街に持ち帰らなければ、運転手の顔にゆっくりとカメラが動いていく、その手前で私の三本目の手がテレビを消してくれて、売っていく、しまっていく、煤けていく、表返っていく、いってきます