ギャルワ・ロンチェンパの、涅槃日
昨日はチベット暦十二月十八日でした。
この日はチベット仏教の古訳ニンマ(ニンマ派)の祖師にして、ゾクパチェンポ(ゾクチェン)の法脈をこの世に精緻に示されたギャルワ・ロンチェンパ(1308-1363)が円寂された日でした。
ギャルワ・ロンチェンパは、サキャ派のサキャ・パンディタ、ゲルク派のジェ・ツォンカパと並んでチベット仏教の「三文殊」の御一人、文殊菩薩の化身とされます。
ギャルワ・ロンチェンパの登場で、グル・リンポチェの系譜とヴィマラミトラの系譜に分かれていたゾクチェンの法脈は完全に1つになり、実に精緻な形で仏教教理として集大成されました。
それらの集大成にあたり、ギャルワ・ロンチェンパは2つのお立場を採られました。すなわち学者としてのお立場と、行者としてのお立場です。
前者の代表作は、史上最高難度を誇る七部の膨大な仏教論集『七宝蔵』(mdzod bdun)が挙げられます。
後者の代表作は、顕教からゾクチェンまでの全階梯をラムリム形式で記した実践書『三安息論』(ngal gso skor gsum)が挙げられます。そして灌頂を含んだ実践の体系としては『四箇心髄』(snying thig ya bzhi)になります。
他には心部からのアプローチ『三自解脱論』(rang grol skor gsum)、密教経典『幻化網秘密蔵タントラ』の註釈書『三除暗論』(mun sel skor gsum)、成就法や論文や祈願文などを集めた『小作品集』(gsung thor bu)などが現代に残されています。
私は20年ほど前、ギャルワ・ロンチェンパの上記の著作や『四箇心髄』大灌頂を含めたすべての伝授を、ネパールで受法する幸運に恵まれました。ちょうど今ぐらいの寒い季節でした。数週間にもわたる伝授で、お寺でのゆったりとしつつも濃密な時間は、今となっては大変貴重なものだったと思い出されます。
以前の投稿(2020年6月17日)に登場するA君に出会ったのも、この時でした。
世界はこんな状況になってしまい、自由に国内外を旅行しにくい世の中になって、私はよくあの日々を思い出します。
ギャルワ・ロンチェンパに関する特別な儀軌を修することで、こんな私の過去への執着に実体なんてないんだよと、気づかせてもらえます。
この日、古訳ニンマの寺院では伝統的に「ヤンサン・ティクレ・ギャチェン」という儀軌とそれに付随するツォク供養を執り行ないます。
これは「ロンチェン・ニンティク」に属する法脈なのですが、「ロンチェン・ニンティク」には4種類(外・内・秘密・最秘密)の本師瑜伽が設けられていて、「ティクレ・ギャチェン」はその中でも4番目、最も秘密の教えとされます。そのため「再密」と呼ばれているのです。
「ヤンサン・ティクレ・ギャチェン」には灌頂が存在し、私は過去に2度、別々の先生からこの灌頂をいただきました。よって私の中でも特に思い入れのある儀軌の1つです。
※「ロンチェン・ニンティク」については過去の投稿(2020年10月19日)を参照ください
儀軌は午後8時から執り行ない、ツォク供養を含めてちょうど2時間を要しまして無事満行しました。
今回サポートいただいた方には心より御礼申し上げます。ツォク供養の際にはお供物をたくさん供養することができました。
そして諸願成就・罪業浄化と、皆さまに真実の心の平安が訪れますよう祈念いたしました。