石橋みちひろ議員(超党派難民議員懇談会会長)インタビュー:あるべき難民等保護法と入管法改正を求めて
昨年は、ウィシュマさんの事件などに象徴的に表れた入管収容問題が社会的にも大きな注目を集め、政府が提出した入管法改定案は廃案になった。現行の入管制度と、昨年の政府による改定法案の問題点について伺いたい。
現行の入管法の問題点は、ごくシンプルにいうと外国人の方々を「入れない、居させない、追い返す」という建て付けであることだ。昨年政府が国会に出した改正法案の背景には、2年前の大村でのナイジェリアの方の餓死事件、それ以前からの被収容者の方々の大規模なハンガーストライキなどに象徴される長期収容問題や収容所内における人権侵害とも言える待遇問題があった。この問題が社会的にも注目される中、何らかの対応を迫られた政府が、「入れない、居させない、追い返す」という基本姿勢を変えずに、どうやって帰ってもらうかを考えて出てきたのが、政府の改正案だった。新たな罰則を設けたり、送還停止効の例外規定を設けたのも、その姿勢を明確にしたものだった。
結局、現行制度の問題の根幹は、本来であれば難民認定や保護されるべき方々が、適切に認定・保護されていないという厳然たる事実があることだ。長年に渡ってこの問題を放置したまま、在留特別許可も仮放免も厳しくした結果、収容の長期化を招き、収容施設内での処遇の悪化にもつながってきたのではないか。入管庁はまずその反省に立つべきなのに、それをやろうとしていない。
昨年の政府案に対しては、ウィシュマさんの死亡事件があったことで、若い世代のみなさんも含め、大きな世論の声が上がり、結果として廃案に追い込むことができた。ただ、残念ながら、現行の収容制度、難民保護制度の問題点はそのまま残ってしまっているので、早期に抜本的な改正が必要だ。
私たちは、すでに昨年2月、政府の入管法改正案に先んじて、本来あるべき難民認定や保護制度を実現するための難民等保護法案、入管法改正案を国会に提出した。それまでに半年かけて、移住連をはじめ、支援団体、弁護士、有識者の方々にも議論に参加いただいて、あるべき姿をどのようにつくっていくかを提案させていただいたつもりだ。
野党共同提出の難民等保護法案・改正入管法案はどのような内容か。
「難民等保護法案」では、先ほど指摘した現行制度の根本理念を根底から変えて、国際基準に則って、保護すべき方々を適切に保護する制度にするという大前提をつくった。最大のポイントは、法務省の出入国管理行政から難民認定・保護行政を完全に切り離し、独立した第三者機関としての「難民等保護委員会」を立ち上げることだ。そこに専門家や有識者の方々に委員として入っていただき、客観性・透明性・納得性ある形で保護すべき方々を適切に判断して、難民認定を行っていただく。補完的保護についても在留特別許可についても、対象者を現状の制度から広げ、保護すべき方々を積極的に保護していこうという方向性も提案している。これまで日本の難民認定制度は、認定率が0.4%とか0.5%という、国際的に本当に恥ずかしいレベルにとどまっていた。今回のウクライナ戦争や昨年からのミャンマーの軍事クーデターもそうだが、世界中でこれだけ戦争・紛争難民が増大し、厳しい状況に置かれている中で、難民の受け入れと保護について、日本が国際社会の一員として、当然に果たすべき役割を果たすための制度を提案させていただいた。独立した第三者機関とすることで、特定の国や民族の人たちを認定しないような政府による恣意的な判断を排除し、難民条約やUNHCRの基準等に則った認定基準の設定と審査を行うことを原則にする。
収容制度についても、現行の全件収容主義や期限の定めのない長期収容にメスを入れるため、全件収容主義の撤廃を改正入管法案に謳い、原則収容しないことを明記している。日本にもこれまで、民間団体と連携した収容代替措置の取り組みなどがごく一部試行的に行われたが、先進国ではもうそれが主流になっている状況をふまえて、収容しないことを基本に、例外的に収容する場合にも、司法の判断を入れて、真に必要性がある方のみ収容を可能にするという制限をつけた。また、収容期間についても上限を設けて、長期収容問題にも終止符を打つ設計にしており、政府案とは根本的に、理念・思想もアプローチも違う制度を提案させていただいた。
政府案で改善をアピールしていた監理措置や在留特別許可制度と野党案との違いについてはどうか。
政府案の監理措置と野党案の収容代替措置は、根本的に違う。政府案は、基本は収容しないという考え方ではないため、新たに監理措置をつくっても、結局は入管側の恣意的な判断に委ねられてしまう。在留特別許可も、政府案では、手続的には申請できるとしているが、積極的な許可の基準が不明瞭のままで、むしろ不許可基準が強められている。野党案では、許可の基準を国際人権諸条約等に基づいて明記し、また、アムネスティの特別措置規定をおくことにより、長期の非正規滞在者なども救済からこぼれ落ちないようにした点で、大きく異なる。
今国会における野党の取り組みについて伺いたい。
私たちは、昨年3月6日に亡くなったウィシュマさん死亡事件の原因究明と真相解明を引き続き求めている。入管収容施設内における死亡事件は、これまでにも何度となく繰り返されてきた。徹底的な原因究明、真相解明がなされないまま、体裁だけ整えたような改善策を毎度発表するだけで、何ら抜本的な改革がなされなかった結果、同じ失敗、過ちが繰り返されてきた。ウィシュマさんの事件についても、結局、法務省内でのお手盛りの調査・検証になってしまった。昨年8月に公表された最終報告書は、形式上、有識者を入れただけの内部調査に過ぎず、死因さえ特定できていない代物だ。これでは、また同じ過ちが繰り返されてしまう。今からでも遅くない。第三者による調査検証機関を立ちあげ、徹底的に原因究明し、責任者の処罰を含めて、本当に絶対繰り返さないという決意をしなければいけない。
真の原因究明と責任追及がないままにまた入管法改正案が出てきても、全く意味をなさない。昨年末、衆参の法務委員に対して限定的なビデオ開示があったが、それを視聴した議員からはあまりに酷い入管職員の対応に驚きと怒りの声とともに、あらためて抜本的な制度改革が必要不可欠だという意見が強く出されている。引き続き、政府には、第三者機関による真相究明と、その結果に基づく抜本的な制度改革をする責任があることを訴えていきたい。それがないまま昨年の法案と同様のものを出してきても、到底、国民が受け入れないだろう。
また、私たちも、昨年の野党提出法案をさらにバージョンアップするために、関係団体の皆さんと協議を続け、修正案を準備している。今通常国会の間に、あらためて本来あるべき難民認定・保護制度を国民のみなさまに投げかけていきたい。
さいごに、外国人をめぐる政策全般についての展望を伺いたい。
この2年は難民・収容の問題が大きくなり、その議論を先行させていたが、私たちはこれまでにも、多文化共生社会をつくるために必要な施策を盛り込んだ「多文化共生社会基本法案」を提案している。すでにこれだけ多くの外国人の方々が、さまざまな在留資格で日本におられるが、労働者や生活者として適切な保護を提供するために必要な法制度上の措置が行われてこなかった。これからもっと多くの外国人の方々に安心して日本に来ていただくためにも、法案を出して多文化共生社会の確立を急ぎたい。
また併せて、外国人技能実習制度や留学生の資格外就労の問題も、抜本的に改革したい。具体的には、技能実習制度を発展的に解消して、新たな外国人労働者の受け入れ制度を構築していく。つまり、社会の基盤となる多文化共生社会の構築のための基本法、外国人労働者の権利や安心を確保するための雇用法、そして難民等の適切な認定・保護のための立法措置を三点セットで進めることにより、外国人の方々にかかわるさまざまな問題を根本から見直し、よりよい日本社会の構築に貢献していきたいと考えている。
2022年2月22日インタビュー・まとめ山岸素子
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