【無料公開】難民申請者と収容・送還問題
M-netにこれまで掲載された記事のバックナンバーから、一部の記事を無料で公開します。今回は入管長期収容問題についての連載第7回目です。
(初出:Mネット2020年4月号 特集「どうする?入管収容施設での長期収容問題〜その実態と解決に向けて」)
今回は、全国難民弁護団連絡会の渡邉彰吾弁護士による、「日本の難民申請者が収容という事態に追い込まれていく制度的な枠組みについて」を解説記事を転載します。
全国難民弁護団連絡会議 弁護士 渡邉 彰悟
はじめに
出入国在留管理庁は、令和元年10月1日に「送還忌避者の実態について」と題する資料を公表し(1.)、その中で、長期収容は、退去強制を命じられているにもかかわらず日本からの退去を拒んでいる「送還忌避者」がその原因であり、その中の多くに難民申請者が含ま れることを明示した。当該資料では、「送還忌避者」の68パーセントが難民認定申請を行ったことがあるとし、このうちの約4分の3 が複数回申請者か退令発付後に初めて難民認定申請をした者であるとして、「難民認定制度の濫用的利用者の存在は、早期送還にとって大きな支障となっている」等と述べている。
これに続き、「収容・送還に関する専門部会」が設置され、難民問題に関連して複数回申請の制限や送還停止効の撤廃等の議論がされている。しかし、送還を忌避して身柄を拘束され続けてまで争うことを選択した根本的な理由は何か、難民条約や人権条約による保 護は適正かという問題についての検討なしに長期収容の問題を適切に解決することは不可能である。以下では、この根本問題のみならず、日本の難民申請者が収容という事態に追い込まれていく制度的な枠組みについて論じる。
1. なお、 同資料は、現在同庁のウェブサイトから閲覧できない状態になっている。その理由は、同資料において、被退令仮放免者が関与した社会的耳目を集めた事件として「神奈川県警警察官殺人未遂事件」として同庁が記載していた事件が、実際は、銃砲刀剣類所持等取締法違反によってのみ有罪判決がなされた事件であることを同庁が認めたことによる。同庁は、捜査段階の通報内容に基づいて上記事件名を記載したとするが、かかる説明は推定無罪原則に反し、当初の記載を正当化しえないことは明らかである。
庇護希望者の上陸手続き
本来、庇護を希望する者が上陸時に庇護を求めることは自然なことである。しかし、日本では、その求めが容易でない実態があり、上陸時に庇護を求めるとかえって困難が待ち受ける。
2015年以降、港湾での難民認定申請は173人(2015年)、152人(2016年)、133人(2017年)、12人(2018年) と推移している。2018年は6か月の統計だが、極端に減っている(2018年後半以降、入管側は統計を出していない。本来は公開すべき重要な情報である)。 庇護を求める者は、一時庇護上陸申出を行うが、その申出も同様に171人(2015年)、110人(2016年)、98人(2017年)、24 人(2018年)と減っている。しかも、ほとんどが許可されず、上陸許可数は年次順に4人、1人、2人、2人となっている。
つまり、以上のような結果、港湾での庇護を求めるとその後の在留は正規化されず退去強制手続きに入ってしまうことになるので、収容という問題も含めその後大きな困難を抱える結果となっている(2.)。“自然なこと”が許されない状況になっている(3.)。空港における庇護申請者の扱いも長期収容の一因となっていると考えられる。
2 . 実際、2006年に空港を通過して難民申請をしたロヒンギャと、空港でそのまま収容されて難民申請をしたロヒンギャとでは、その後の扱いにおいて、後者の者たちの置かれている状況は悪い。
3. 「セカンダリ審査又は口頭審理において「短期滞在」の在留資格を決定して上陸許可を行うことなったスリランカ人に対する取扱いについて」(平成30年11月16 日付け東京入国管理局成田空港支局第一審判部門首席審査官事務連絡)は、上陸時の庇護の困難さを物語る一例であった。
仮滞在許可制度の機能不全
仮滞在許可制度は、2005年に創設された。本来、難民申請者は収容すべきではないというのがUNHCR執行委員会の原則でもあり、非正規滞在の難民申請者が収容という事態に直面することへの批判があった。仮滞在の許可を受ければ、難民認定手続中は退去強制手続きが進まないとされ、退去強制手続の進捗による収容の問題を回避するということになる。
ところが、実際はほとんどこれを生かした運用はされておらず、最近はほとんどが不許可で機能しておらず、制度としての存在意義を失っている。その結果、非正規滞在で難民申請をする人たちは、収容されるか、収容されないなら仮放免という大変な状況で難民申 請手続きを受けざるを得ない。
正規在留者の難民申請者に対する運用見直し
2005年以降、正規在留資格を持つ者が難民申請すると、特定活動で在留資格に繋がり、就労も許可される運用となった(4.)。2004 年以前は、非正規滞在者の難民申請の比率が高かったが、次第に正規滞在者の比率が高くなっていった。そして、このことが背景となって、「誤用・濫用」問題が取り沙汰され、運用の見直しと、更なる運用の見直しが行われた。
申請者をABCDに分類し、2018年1月15日からの更なる運用の見直しで、就労制限と在留制限が課されるようになり、在留が制限されれば当然収容の問題に直面する。在留制限は、BとCにかかり、Dのうち、本来の在留活動(留学や技能実習)を行わなくなった後に 申請するとD1ということで就労制限をかけるようになった。この見直しによって、在留資格の維持が厳しくなり、非正規化が進み、 行きつく先は収容になる。この運用の見直しの大前提には案件振分があるが、分類そのものの専門性も確保されておらず、その適正さは十分に検証されているとはいいがたい(5.)。 見直しが収容を増大させていることに関係している。
4. 但し、この運用は行政手続きの段階のみで、裁判手続段階では基本的に及ばない。
5. 実際,2015年以前については難民認定者に占める複数回申請者の割合はいずれも15%前後となっており、複数回申請者への難民認定が出にくくなった 2015年以降でも複数回申請者で難民認定を受けた者はいる。ちなみに,2020年3月10日に東京地裁で勝訴判決を受けた原告の争った処分は3 回目の難民申請であった。
仮放免制度の硬直化
平成30年2月28日に「被退去強制令書発付者に対する仮放免措置に係る適切な運用と動静監視強化の更なる徹底についての運用方針」が出され、その中で「被退令仮放免者の動静監視を強化」することが指摘され、「仮放免を許可することが適当とは認められな い者(注3)は、送還の見込みが立たない者であっても収容に耐え難い傷病者でない限り、原則、送還が可能となるまで収容を継続し送 還に努める」としている。仮放免が困難な対象者には、「難民認定制度の悪質な濫用事案として在留が認められなかった者」や「退 去強制令書の発付を受けているにもかかわらず、明らかに難民とは認められない理由で難民認定申請を繰り返す者」が含まれている。 しかし、これらの判断の適正さを客観的に担保する枠組みはないし、入管独自の判断に因っているのが実態である。その結果は別表のとおり仮放免許可数の激減という数字に表れている。
在留許可の道が狭いこと
収容が回避され得る道として、在留許可ももちろん重要である。本来、日本に家族がいるという場合など国際人権条約による保護 等によって在留が認 められるべきケースがあるにもかかわらず、近時は、個別的な在特(在留特別許可)の判断も非常に厳しくなって いる。
しかも、日本では、一般的な要件で広範な人々を対象にアムネスティ(非正規滞在者の正規化)を実施した過去もない。そのため、問題が長期化し、被収容者の精神も肉体も蝕まれている状態がみられる。非正規滞在の継続は本人への圧迫はもちろんのこと、闇の労働力となり、社会の歪みを生む。この状況を是正する道を選択することも真剣に考察すべきである。
おわりに
ここまで運用面を中心に論じたが、法規上も入管は全件収容するのが前提とし、しかも退令のもとでは無期限収容が許されるとしており、憲法の令状主義はまったく及んでいない。人身の自由を制約することを怖れない状況が生まれている。
司法的な抑制がないままに、しかも適正な難民認定手続きが施行されていない状況下で、長期収容を一面的な問題とし、難民申請を制約したり、さらには現状認められている申請中の送還禁止条項を見直すことなどはあってはならない。
人身の自由を保障する司法的抑制こそが求められている。 そして何よりも、難民の保護の実践の適正さを担保することによって、長期収容問題の解決の道を探るべきである。収容者に対してではなく、法を執行する側の自省的分析こそがいま直視されなければならない。
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