【無料公開】国際人権法の観点から考える入管収容・送還の3つの問題点
M-netにこれまで掲載された記事のバックナンバーから、一部の記事を無料で公開します。今回は入管長期収容問題についての連載最終回です。
(初出:Mネット2020年4月号 特集「どうする?入管収容施設での長期収容問題〜その実態と解決に向けて」)
(公社)アムネスティ・インターナショナル日本 樋口 利紀
移住(migration)に関する 拘禁と人権の世界的な傾向
アムネスティ・インターナショナルは、世界中で行われた非正規移民や庇護 希望者の拘禁が人権状況に及ぼした影響について、この10年間に多数の調査報告書やプレスリリースを発表してきました。ヨーロッパでは、増加する移民や庇護希望者を政府の管理下に置くため、個別の状況を考慮せずに収容を可能にする入管政策を採用する国が増加していることや、アメリカ合衆国が引き離し政策によって 2,000人以上の子どもたちを国境で親と引き離して収容している事実を調査により明らかにしました。最も深刻なケースとしては、リビアやオーストラリアの収容施設などにおけ る強かん、拷問、殺害、強制労働や自殺の事実が明らかになっています。拘 禁による非正規移民や庇護希望者の人権侵害に関する懸念は、今や世界中で深刻化しているのです。
収容に関する国際人権基準と アムネスティ・インターナショナルのポリシー
1976年の自由権規約や1951年の難民条約など日本に対しても法的拘束力のある国際人権法では、身体の自由および恣意的拘禁の禁止が規定されています。国際人権法のルールでは、収容などの手段で身体の自由を制限する場合、次の3つの原則が満たされなければならないとされています。
1 合法性(principle of legality): 制限は法律に則ったものであること。
2 必要性(principle of necessity): 法律に規定された目的の達成のために必要であること。
3 相当性(principle of proportionality): その目的を達成するために相当な手段が用いられること。
しかし、移住に関わる拘禁については、日本の長期収容問題がそうであるように、多くの国が国際法上の義務を果たさない傾向が見られます。アム ネスティ・インターナショナルは、移住(migration)に関わる拘禁については、合法性、必要性、相当性の3原則が満たされることに加え、次のいずれかの目的が正当化される場合のみ許容されるべきだというポリシーを掲げています。
A 本人の身元を確認するため (verifying identity)
B 逃亡を防ぐため (preventing absconding)
C 退去強制命令の順守を確保するため (ensuring compliance with a deportation order)
この3つの条件は、国連の恣意的拘 禁に関するワーキンググループの立場に基づく考え方によるものです。このような国際人権法上の原則や補 完的な国際的ルールを日本の収容や送 還の手続きと運用に当てはめてみると、いくつかの問題点が浮き彫りになります。
問題点その1: 収容期間の上限が定められていない
「退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは、送還可能のときまで、その者を入国者収容所、収容場その他出入国在留管理庁長官又はその委任を受けた主任審 査官が指定する場所に収容することができる。」出入国管理及び難民認定法
第52条第5項)に定められているこの法律では、収容の期間に上限が定められておらず、「送還可能のときまで」無期限に収容することが運用上可能だという解釈ができるようになってしまっています。福島みずほ議員が法務省に照会して入手した資料によると、全国の入管施設には2019年6月末の時点で約1,200人の外国人が収容されており、そのうち約半数は6ケ月以上もの長期にわたって収容されています。国際人権法上、すべての人の身体の自由は守られなければなりません。そのためには、退去強制命令に基づく収容は、飛行機や船に乗るための手続きや待機の時間など、すでに移送が決まった人たちの送還手続きを具体的に実行するために必要な数時間に限られるべきです。日本の出入国管理上の収容期間が無制限であることについては、国連人種差別撤廃委員会からも問題だと指摘されており、収容期間に明確な上限を設けることが求められています。
問題点その2: ノン・ルフールマンの原則の軽視
自国での迫害や生命の危険から逃れた難民を本国に送還することは、国際法上で明確に禁止されています。これは 「ノン・ルフールマンの原則」として知られ、難民を人権侵害から守るための国際的保護の仕組みを担保する非常に重要な国際的ルールです。日本も批准している難民条約の基本原則の一つでも あり、すべての国はいかなる場合でもこ の原則を遵守する義務があります。 日本の法律もこのノン・ルフールマンの原則に則っており、入国管理及び難 民認定法には「送還禁止規定」があります。しかし、法務大臣の私的懇談会である「出入国管理政策懇談会」の下に設置された「収容・送還に関する専門部会」では、被収容者の送還を促進するために、難民認定申請者を強制 的に出国させることを禁止するこの法規定の改変が検討されています。このままでは、せっかく日本にたどり着いた難民や庇護希望者が日本から追い出され、本国で迫害や命の危険にさらされる事態になりかねません。難民を保護するためには、ノン・ルフールマンの原則はいかなる場合でも遵守されなければなりません。
問題点その3: 表現の自由の侵害
長期収容は心身に過度のストレスを与えます。長期収容のストレスに耐えかねた被収容者が抗議のためハンガー・ ストライキを決行するケースが近年急増し、2019年6月には餓死者が出る事態に至りました。出入国在留管理庁は、ハンガー・ストライキをやめさせるために仮放免(一時的に収容を停止して被収容者を釈放する)措置をとりましたが、対象者は短期間で再収容されています。問題の解決につながらない出入国在留管理庁の対応は、身体の自由に加えて、表現の自由をも侵害する行為に他なりません。自由権規約第 19条は、すべての人は表現の自由についての権利を有すると規定します。また、表現の自由に対する制限は、法律によって定められ、かつ、国家の安全、公の秩序、公衆の健康やその他、他者の権利を守るためなど限られた理由に基づく場合のみ行えると規定しています。日本政府には、ハンガー・ストライキという手段を用いた抗議活動を含め、被収容者の表現の自由を尊重する義務があります。 2週間の仮放免の後に再収容するという手段をもってハンガー・ストライキをやめさせることは、表現の自由についての権利の侵害に他なりません。
(注)表現の自由についてのアムネスティ・ インターナショナルのこの見解には、ハンガー・ストライキという手段を支持する意図も、ハンガー・ストライキをやめるよう求めるような意図も一切ありません。
外国人の長期収容に終止符を! 署名にご参加ください!
出入国在留管理庁は「長期収容の問題は送還の促進で解決していくべき」 との立場をとっています。専門部会における議論が、移民・難民を日本社会から排除する方針を強化することを念頭に進められているのではないかと、ア ムネスティ・インターナショナル日本をはじめ、入管施設長期収容問題に関わっている弁護士、支援団体、国際人権NGOは危惧しています。アムネスティ・インターナショナル日本は、移住連のみなさまとも連携し、移民・難民の基本的人権を守るための署名活動を開始しました。この署名活動は法務大臣及び専門部会に対して次の3点を要請するものです。
1 出入国管理上の収容は送還の準備に必要な短期間に限るよう、収容期間に上限を設けること
2 ノン・ルフールマンの原則をいかなる場合でも遵守すること
3 抗議活動を行う収容者を仮放免で釈放し、短期間の後に再収容するのはやめること
ひとりでも多くのみなさまからの賛同の声が必要です。ぜひ、署名にご参加ください。
アムネスティ・インターナショナル日本による署名「外国人の長期収容に終止符を!」は2020年10月25日まで。
https://www.amnesty.or.jp/get-involved/action/jp_202001.html
〔編集部注:この署名は現在は終了しています〕
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