虚が実に変わる時
トップの写真は、
2020年の作品「曖昧な記憶」
画仙紙に墨、縦23cm×横94cm(横長〜)
今、世の中は何かと仮想の世界が幅をきかせてきていますが、時々この現実の体や生活はどうなっていくのだろうとかいうことを考えたりします。
映画「マトリックス」や「インセプション」のように、すでに何が現実なのかもわからないしなぁとも思ったり・・・
もともと、夢か現か、虚か実か、SFっぽいテーマに興味のある私としては、これから先、世界はどうなっていくのかとても見てみたいと思っています。
その為には長生きするか、タイムスリップするしかないですね。
しかし、何故そんなことに興味があるのかというと、一つには子供の頃の体験が大きい影響を及ぼしているのではないかと思うのです。
それは、私が記憶喪失になったという経験をしたこと。
といっても、ここはどこ?私は誰?という類のものではなく、ある衝撃でその日の記憶を失い、それをきっかけに次から次、起こることが、全く記憶できなくなるという症状が続いたというものです。
小学四年生のある日の放課後(もしくは昼休み)、私は運動場の端に埋められたタイヤを馬跳びのように飛ぶのではなく、上に乗って端から端まで飛び移っていくという遊び方をしていた時のことです。
その時、同じく運動場で野球をしていた男子たちのうちの一人が、端の方まで勢いよく転がってきたボールを取りに走ってきて、タイヤとタイヤの間を飛んでいる瞬間だった私とぶっかったのです。
私は地面に倒れ、しばらく経っても起き上がりませんでした。
心配した友達が私を保健室に連れて行ってくれ、しばらく横になって休んでいたのですが、目が覚めた時「私はなんでここにいるの?」と妙なことを口走り、ん?これはおかしいと思った保健の先生は担任の先生に連絡し、そのあと変な確認をされることになりました。
何かの教科書をペラペラめくりながら「ここは?これはわかる?ここ今日習ったけど覚えてる?」というような質問をされました。
そして、次の場面は病院のベッド。
目が覚めた私は隣にいる母に「おトイレに行きたい」というと、母は「今、行って帰ってきたばかりやん」と泣いているような声で答えました。
また次の場面、これも病室、母が私に
「今、誰が来てくれたか分かる?」と聞くので、「誰も来てない」と答えると「〇〇のおばちゃんが来てくれてたやん」と、母の姉にあたる叔母の名前を言った母の声は、これまた泣きそうな声でした、いや泣いていたかも。
それがどれくらいの期間続いたのかは定かではないのですが、とにかく私の脳は数分前の記憶も留めることができない状態がしばらく続いたようなのです。(母が悲嘆にくれたのもよくわかります、って言っても彼女の中では無かったことになってるようですが)
しかし幸運なことに、どうにか起こったことが少しずつ記憶できるようになり、また学校に登校するようになりました。
たぶんとても強い脳震盪のようなものだったろうと思われるこの出来事は、子供たちにとってはかなり衝撃的なことだったのでしょう、学校ではしばらく「やーい、記憶喪失、記憶喪失」と心ない男子にいじめられたりして、ある程度大きくなるまで私にとってこのことは暗い過去で、思い出したくもなければ語りたくもないものでした。
しかし今言いたいことは、そんなトラウマになるような暗い話だったということではなく、記憶の不思議さについてなのです。
上に書いた体験談の、二つの病室の場面はかろうじて断片的に私が実際に覚えている瞬間で(本当か?)、
タイヤ飛びのところで頭を強打することになったいきさつや保健室に連れて行ってもらった件なんかは、本当はこの部分が全くもって記憶がすっ飛んでいたところなのです。
なのに、その部分が小学生の記憶のなかで最も鮮明にくっきり映画のように脳裏に写し出すことができるのです。
なぜなら、この失われた部分は一緒にタイヤ飛びをして遊んでいた友達から聞いた話で、もともと自分の記憶ではないのにもかかわらず、
高校生になった頃から、自分が記憶喪失になった経験を友人に話したりするようになり、そのうち面白話のように語りだし、現代に至るまで数え切れないくらい何度も何度もいろんな人に同じ話を繰り返ししているうちに、どんな記憶よりも鮮明な記憶となっていたのです。
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「虚と実の入れ替わる時」
2021年 紙・墨(半紙大)
全く記憶になかったことが、事実となる。記憶とはいとも簡単に操作できうるものだ、ということは身をもって経験して、人間の記憶に興味を抱くようになったのだと思います。
最近よくある異次元や、パラレルワールドをテーマにしたアニメ映画を見るたびに、ひょっとして、タイヤから落ちた時、私は違う人生にシフトしたんじゃないのか、とか思ったりもしています。
それはそれで面白い。
少し先でこの寿命が尽きた後、同じようにパラダイムシフトを起こして違う人生を送るのでしょうか。その時はほぼ今の記憶は失くしているのかもしれませんけれどね。
#気候喪失 #虚と実 #仮想現実 #マトリックス #インセプション #夢かうつつか