田舎暮らし
俺はわかってたぜ。
「自分はお前らとは違う」って態度で一線引いてたもんな。
今だって本当は「この程度のものを作って、この程度の小さな田舎町で満足できるやつは幸せだ。」って思ってるんだろ?
◇
ふとした瞬間に世界のすべてが反転してしまう。
以前の私が好んで聴いていたような音楽や綺麗な詩、
そんなものを見聞きしているといたたまれなくなってすぐにすべての情報をシャットダウンしてしまう。
美しい作品や空間、そんなものに対する興味も失われていっている。そういうものに近寄ろうとすると、耳の奥から体が張り裂けそうになる。
どうしようもなくなって意味もなく街に繰り出し、意味もなく知らない街で二時間も三時間も歩き続けたりする。
◇
「でさぁ、あそこのコンビニまた潰れるんよ。」
「あ、またオーナー変わったらしいよ。」
「そういや、今の彼女と将来どうするかって話がさ、」
「車を買おうか悩んでるんだけどさ」
◇
「で、どうなの、今でも制作続けているの?
実家暮らしって言ってもやっぱり売れるまで生活不安定だよね、、、」
「いいよなぁ、お前は不安定って言っても自分で決めた方法で少なからず生活を維持できてて。
俺なんてさぁ毎日毎日大変だぜ。
全然知らない金持ちに頭を下げてさ。」
「あ、嫌みでもなんでもないよ。
本当に尊敬してんだ。この年になってもさ、自分の意地とか覚悟みたいなものを貫くその姿勢。
俺なんかもうしんどくってさ、そういうときにお前みたいなやつのこと思い出すんよ。
ほんと、頑張ってくれよな。」
◇
「そんなきらびやかなもんじゃないよ、実際のところ行き詰ってるしさ。
与えられた仕事をそれっぽくこなして綺麗に取り繕って、格好よく見せて、なんで制作なんかにこだわってるんだろうね。
まあ他の事は知らないし今更選べないんだけどさ」
◇
気づいたら全部どうでもよくなってるんだよね。
いっぱい知り合いはいるし、知らない人もいる。そのほとんどが私のことを知っているようで何も知らない。
そういうのが煩わしくて、街を徘徊する。
で、私の事を知らない人しかいない街に繰り出す。
そこに行くとね。
なんでもあるけど、なんにもなくて、自分が何者なのか、どこで何をしているのか。なんてことにだけ向き会えるんだよね。
昔はこんなにめんどくさいことしなくてもすぐにわかったことなのに。
◇
今日こんなことを考えているのは多分寂しかったんだろうな、いや疲れていたのかな。
でもこのわずらわしさもめんどくささも心地がいいんだよ。
ちゃんと自分が生きてていいって思えるように世界に結び付けてくれる感じがしてさ。
◇
「まあ安心はしたよ、みんなそれぞれ生活があって、いろんな方向を向いていて、
改めて自分は一人で生きているんだよな。
って、どこにも居場所はないんだろうな。って
結局それに尽きるしね。」
◇
くだらないことをダラダラ考えてるよな。
お前は今でもそうやって自分の殻にこもって変な位置から人間をみているんだろうよ。
そういった苦しさは別にお前だけのものでもないよ。
それを今更、孤独だとか寂しいだとか、いったところで同情なんてできねえよ。
自分で選んだもんでしょう。
しんどいのも苦しいのもお前だけのもんじゃないんだよ。
お前だってはじめは楽しかっただろうし、別に逃げて始めたことでもないんだろ。
じゃあ頑張るんだよ。誰になにを言われようと頑張るんだよ。それ以外に道はないだろう。
◇
ふとした瞬間に世界のすべてが反転してしまう。
以前の私が好んで聴いていたような音楽や綺麗な詩、
そんなものを見聞きしているといたたまれなくなってすぐにすべての情報をシャットダウンしてしまう。
美しい作品や空間、そんなものに対する興味も失われていっている。そういうものに近寄ろうとすると、耳の奥から体が張り裂けそうになる。
どうしようもなくなって意味もなく街に繰り出し、意味もなく知らない街で二時間も三時間も歩き続けたりする。
好んで聴いていたような音楽もきれいな詩、
美しい作品や空間、目を閉じれば、脳にイメージがわいてきたのはいつが最後だろう。
やるしかないところまで墜ちてきたらしい。
気を抜くと明日の生活もままならないそうだ。
というかその類の重さに耐えれそうにない。
今日も頭の中で僕は僕と二人暮らし。
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