海と空。某イラストレーターを日本のラッセンにしたい人々のはなし
ラッセンより普通に、クレーが好きのソールです。
誰かに誘われても何も調べず、二つ返事でのこのこ遊びに行くことがあり、何をどこで何をするかすらあやふやな状況でお出かけするのが好きだったりする。よく展覧会に誘ってくれる知人は、前回、神戸にて日本画家、北澤 龍の[ー吉兆の光ー]という展覧会を一緒に見たところ、ご本人に遭遇してお話しが聞けるというサプライズを引き当て、一緒に出歩くといろいろなものを惹きつける楽しい人です。
今回は天満橋のお洒落な宿カフェ、Hotel Noum Osakaでまったり食べてから、のんびり中之島バラ園(何百品種あるんだこれ?)をクンクンしながら移動したり、突然デザイナーの三木 健と鉢合わせしてドキっとしたり、会場に向かうだけでもなかなか充実したお散歩でした。
着いたのは梅田スカイビル、知人がインスタ広告で見かけた[mocha展(モカ展)-星しるべ- 宇宙からの贈り物]という展示会でした。各地で開催しているようです。
受付して、よし早速中へと思いきや、そこにはクリスチャン・ラッセンの説明文が提示されていた。
ん?
この展覧会、Art Vivant/アールビバン社がスポンサーしており、ラッセンの絵を同時展示しているのだ。つまりラッセンの絵を通らないとmochaの絵が見れない仕様になっているのだ。なんか初っ端から小賢しいぞ!
…
ラッセンは言わずもがな、「あの」クリスチャン・リース・ラッセン。ハワイで育った彼はサーファーでもあり、海や海洋生物などの自然をモチーフにした感情的な風景画の、平たく言えば大衆向けのコマーシャルアートを制作している。また、感情的な大衆向けで風景画をコマーシャルアートとして描くトーマス・キンケードやテリー・レドリンらと比べればラッセンの知名度は日本以外ではあまり知られていない(もちろん作品のモチーフや方向性は違う)。
正直ラッセン苦手なんだよなぁ。大自然の美化とかそれ以前に、フォトショップで色相と彩度を誤爆させたのかと思うぐらいに色彩がキショいのだ。似たような構図、似たような題材、そしてこの色合いとか、キッチの極みみたいな絵の良さがわからん。おまけにどこか宗教臭さすらあって絶対家に飾りたくない。自身の身近なところに存在したラッセンのイメージは、
クリニックの壁にかかってるか、クリニックの壁にカレンダーとしてかかってるかどっちかだ。
ラッセンの絵を見るだけで地元のクリニックの待合室が脳裏に浮かぶ。
全く知識のなかったアールビバン社について、この際調べてみたが興味深い。1984年に設立してから版画技術によってマスプロデュース可能な"版画マーケット"を展開し、バブルの波と共に日本のアート界に大きな影響を与えてきた。クリスチャン・ラッセンとの販売契約、ファイナルファンタジーの原画を担当した天野喜孝とのコラボレーション、シャガールの作品をリトグラフ(石版画)化、ディズニーとのコラボだったりと多方面にアートの幅を展開している。また版画なのでともかく安いのも売りだ。今回の展覧会に出回っていた作品も50〜150万円とかなりお手軽な値段。
とりあえず知人と巡回するも、やっぱ無理だわこれ。めちゃくちゃキラキラしてるやん?なんか奇抜な色の絵の上に更にラメなんか乗せちゃってたり、小さいダイヤ?のようなパーツを星や光の箇所に埋め込んだりしてて「センスねーなおい。逆に安っぽく見えないのこれ?」とか思ったり、額縁が全部テカテカしてて全然かっこよくないなと単純に思った。そしたら、スーツを着たスタッフのお兄さんが
「いいですよね!ラッセン!お気に召しましたか?」
と話しかけてきた。ラメに負けないぐらい、目がキラキラしてますやん...? こんなこと言われたら、私の叔母さんが好きでもないアーティストの感想を聞かれた時の言うところの、
「ぁ⤴︎あぁー⤵︎!!...頑張ってはりますねぇ!?⤴︎」
状態になりますやん。
ここでお兄さんのセールストークが炸裂。「みんなアート興味なくても好きになる」「みんな『良い』と言ってくれる」「家に飾りたくなるような絵」「心安らぐ」「初めて買う絵がラッセンの客が多い」だのなんだの。一方、知人は私が話を聞く間にスススッと距離を空けていく(なんてやつだ!)。
「印刷派手やん?」
なんて言ってみたら、「家の中に飾った時に、光が入って綺麗に見えるように印刷されている」とのこと。すると光を再現する為だかなんだか、額縁を上下に傾けて印刷とラメのキラキラの光の入り方を見せてくれた。
まって、ウケる。
なんでこの人わざわざ手袋までして額縁を傾けてるんだ?「入る光の角度によって見える色が違う」なら動かすのは額じゃなくて光源の方だろうが!とか思ったが「なるほどですねぇ(?)」と返答しておいた。一部オーロラライトで照らしてる絵については触れなかった。全然自然光ちゃうやん。
生まれて初めてラッセンの作品を間近でしっかりみたが、「やっぱだめでした」てのが正直な感想。「なんとなく良い」小屋と森の風景すらも、画面の大画面を占める核爆発みたいな夕日とクソデカ大海原に消されてしまう。またマンガ目みたいなイルカのカップル(?)の絵だったり、ディズニーコラボの絵はキッチ絵の二郎系かと思うぐらいにキッチさマシマシ、キッチキチの大衆アートの極みだなと思った。くまのプーさんと仲間たちが100エーカーの森には100%存在しない波打つ大河を前に、ミッキー形の雲の間から注ぎこむ光を全身に受けている絵を見て何を感じろというのだ。唯一、マシかな?と思ったのは波だけをドアップで描いた絵だった。
…
一方mocha(モカ)はゲーム[TrymenT]や[Re:LieF]、アニメ[錆喰いビスコ]など(全然わからん)、の背景イラストに携わり、2021年にイラストレーターとして独立したデジタルアーティスト。イラストレーターとなったきっかけに新海誠の"秒速5センチメートル(2007)"を挙げている。
うーんアニメ風景かー。これはこれで好きな感じではないしなーなんて思って見てると、こちらの絵にもラメやら偽ダイヤが埋め込まれている。するとお兄さん、キラキラした目でラメを振りかける職人のことを説明しくれた。
うっわー、ごめんラッセン。
ダイヤなんか絵にブチこんでセンスないやつだなとか思ってほんとごめん。これアールビバンのディレクションじゃん。でも作品一つ一つアーティストと念蜜に話し合って作成してますなんて言ってるから、そこで「ラメは勘弁してくれ。ダイヤ?は?」とせめて言って欲しかったよ。ラッセン絵のラメはまだマシだがmochaの絵にラメはかなり微妙だった、特に真っ白な雲の上に振りかけるのは、明らかに浮いて見える。(知人が指摘していたが、mochaは元背景イラストレーターという職業上、どうしても誰かの指示の元、ワークに修正する立場にいたので、声に合わせることのできるアーティストなのだろう。)するとお兄さん、
「すごいんですよ、mocha先生。若いのに一昨年デビューしてから今一番勢いのあるアーティストなんですよ!!業界では"第2のラッセン"が現れたなんて言われたりして…」
と、解説。いや、君らがラッセンライズ(?)したいだけでしょ!?マーケティングが上手だからそうなってるだけでしょ!?
mochaのイラストは日本的な風景を漫画的な構図で、それはそれは上手く描かれている(新海誠レベルか?と聞かれると、動いていないし、雨が降っている絵もなかったのでなんとも言えない)。でも感想が「上手い」ぐらいしか湧き上がってこないのはなぜなのか....ってちょっとお兄さん、頼むから真剣に見てる時に頻繁に話しかけないでくれよ!!
「ラッセンとmocha先生の作品、どっちが好きですか!?」
うっわ、でたよ。一番めんどくさいタイプの質問。ネコの💩とウマの💩どっちが好きとか聞かれても困るだろうが!
なんて言ってたらお兄さん、
「あー、なるほどです!!わかりやすい!!」
いや、お前が納得すんなや。
また、2人の大きな違いとしては"人間"を入れるかというのも大きなポイントだろう。ラッセンは大自然の風景に"人間"を描くことはない。画面の中心となる場所にイルカ、シャチや馬やらが主役のように描かれているも、これは"海"の一部であり、あくまで主役はこの風景を眺める"あなた"であり、この風景は"あなただけが独占できる幻想的な大自然の世界"だと解釈できる。そして、そこにストーリーはない。(ディズニーキャラクターをブチ込んだ作品も、"キャラ"だからセーフなのだ。おそらく….)
一方、現代的な漫画的なイラストレーション風景を描くmochaは"人間"を描く。それは決まってポップカルチャー的な"少女"だ。"少女"は画面のごく一部しか占めず、この存在が日本の自然と対比し、"少女"の小ささと自然、主に"空"の広大さを強調する。またラッセンと違い、完全な自然風景を描くことはなく、人工物が必ずといっていいほど描き込まれる。それは廃墟、工業地帯、そしてビル郡であり、"文明と自然の融合した理想の現代の日本"が描かれている。そこにはなんらかのストーリーが生まれている一方、mocha自身「誰が見ても難解に思わないものを意識して描く」スタンスを表明しているのも覚えておこう。また、まったく同じ構図で、人がいないバージョンと人がいるバージョンの作品も存在し、人がいるバージョンの方が安価に設定されている(わかってるじゃん...)。
…
小さな展示会場だったので、あっという間に見終わり、会場を後にした。作品を見ながら「うわーえげつないなー」みたいな本心が時々声に出てたようだが、気を乱さずに巡回できた自分、えらい。もちろんグッズすら買わなかったし、同じコマーシャルアートでもウォーホルとかと違ってこの人たちの作品は欲しくはならなかった。知人はお兄さんに「お店を経営するなら買っちゃうかも」みたいな逃げ方をしていた(上手いね!)。
また、お兄さんが版画なので丈夫で絵の姿が変わらない事をアピールしてくれていた。おそらくはジークレー印刷かシルクスクリーン印刷をベースに何か特殊な印刷方法(企業秘密)によってあのキッチな色合いの作品を量産しているのだろう。安物な版画とはいえ、作品にコミットして家の一角に置くってとこを想像すると、そんな価値がある?とか思っちゃうし、会場に来ていてた30代ぐらいのカップルが「これにしよっか❤︎」みたいなノリでディラーと話してる姿なんかみると、「まじかー。なんかすごいな、お前ら。」って思えてくる。
因みに私は「色褪せるのも、形崩れるのも"美"の一部」派です。陶器が欠ければ金継ぎでもすればいいし、木の器に酒が染み込めばそれをそれとして味わえばいいし。
普段絶対に見ようとも思わないアーティストの展示だったので、学びは多く、収穫としては大きかった。また2人のアーティストが対比する形で展示されてたので考えがまとまる。恐らくラッセンの人気はしばらくは続くだろうし、アールビバンはこれからもmochaのようなイラストレーターたちを採掘しながらお手軽アートを布教し続けるだろう。
会場を出ると、前日まで行ってきた2泊3日の台湾旅行よりも体力使ったように疲れが出た。気づけば16時という中途半端な時間なのでレストランは軒並み空いておらず、近くのカフェのピザで、その日を締めくくる事にした。
会場に溢れていた医薬品と消毒液の混ざった幻臭はしばらく消えなかった。
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