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【詩】雲の話

  一緒に雲を見よう
  懐かしい不思議に
  しばらく心を委ねよう

  飛べなかった鳥の話をしよう
  柔らかに凝結した微細な粒子の集まりが
  すさまじい風にさらされる高空でしばらく形を保ち
  懐かしいものの残像とぴたりと重なっている
  雲の不思議
  飛べなかった鳥が短い生涯の中で
  見つめていたものの形
  感情
  
  たやすく動かなかったものが
  いつのまにか消え去っているというのは
  雲も心もまったく同じだと
  
  僕はむかし
  誰かにそんなことを伝えたくて
  伝えなかった
  僕はいつも間違っていて
  誰にとっても不用だったから
  でも今こうして食べている
  ローストチキンがまだ鳥だった頃
  見ていたものは確かにあの雲だ
  生きている限り
  そこに感情だってあった
  幻だけど事実だ
  
  見上げると
  死んだ僕自身が雲になって
  高いところで風に吹かれている
  もうしばらくは魂にもかたちがあるだろう
  
  それがわかるのはまだ生きて
  自分の未来を見ることができている
  僕だけだ
  
  

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