【詩】ハリガネ

ハリガネを曲げた人がいる。ハリガネを曲げてそれをハンガーという抽象的な概念に合致させようとした。だが、それは失敗に終わりハリガネのままのハリガネに僕は僕の白いワイシャツを掛けている。ボタンダウンの襟元から、かつて着られていた僕の肉体の痕跡を全て消し、ワイシャツはハリガネに絡んで裁断された布と、いくつかのボタンの組み合わせのままになる。乾いていく。僕はさっきからその有様を見ている。眼のついた造形物として僕は自分を何かの概念に合致させようと足掻いているが、ただかつてワイシャツに包まれていたものの痕跡としてハリガネに並置されているだけだ。恐ろしく当然なことであるが僕は何者でもない。ごめんね。かつてしっかりと何かであったこともなく、これから確かな何かになるわけでもない。


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