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回るものたちとその哀れ

「地球が自転している、何人もの気狂いが犠牲になり地球が回っている。」
と言い続けたことを思い出した。

地球が回っていようが止まっていようがどうだってよかった。
飲み屋で煽った粗悪なハイボールが胃を熱くする。

視界が廻っている。視界が回っているのか、自分が眼球を中心に回っているのか。それもどうだってよかった。頭を否応なく叩き続ける金槌は夜の帳と共に打つことをやめた。
 
空が明るくなれば、目が覚め、空が暗くなり、喧騒が遠ざかって他の国を囃すころに眠くなる。

このサイクルも、自転であり誰かの公転だった。梅雨が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来る。
そして大嫌いな春が来る。自転でも公転でもどうだってよくって、ただ巡っている事実のみがあった。
 
生木が燃えるのを見たかった。

黒煙とともに松脂が炙られ異臭を放ち、幾万もの命が燃えるのを見たかった。

 「おはよう、おやすみ。ただいま、おかえり。」

すべてが回っているのに、夜の帳が明けるその数分は止まっているように感じた。
生も死もないまぜになり、厳かで静かで何もかもが赦されて、何もかもが赦されない時間。

太陽は無条件に凡てに影をもたせた、影すらも消したかったのかもしれない。

滴る汗の下で凪きながら啼いている女の顔が歪んでいく。

深夜のスーパーで見た消費期限間近のパック詰めされた肉。

悲しさは一定で、世界は広がらなくて、喜怒哀楽、感動ポルノ、定型化された性愛の世界を、靴がすり減るまで愛した。

息が白くなる中、自動販売機で買った、缶珈琲は泥水のような味がした。排水溝に流していくと、どこかで鳶が啼いた。

赦さない、赦さない、赦さない。

「おはよう、おやすみ。ただいま、おかえり。」
「おはよう、おやすみ。ただいま、おかえり。」
「おはよう、おやすみ。ただいま、おかえり。」
「おはよう、おやすみ。ただいま、おかえり。」

「地球が自転している、何人もの気狂いが犠牲になり地球が回っている。」
「地球が自転している、何人もの気狂いが犠牲になり地球が回っている。」

足がもつれたダンサー、黒光りする虫の羽音、気配を探る鼠、息を忘れるほどに、屋上から見た朝焼けは最低で

自転はいつの間にか止んでいたんだ。


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