アイシャドウ
今日何回目のシャワーだろう、と思いながら男の身体を洗っていた(50代くらいだろうか、肥満体型だ)
安物のボディソープで荒れていく肌と、汚さすら感じる肌がこすり合っていく。
ホテルのシーツはパリッとしていて好きだ。よそ行きの感じがする。家に呼ばれると最悪だった。いつ洗ったのかと問いたくなるようなシーツの上で裸になるのは別途料金が欲しいくらい。
この後もロングで新規が入っている、早く帰りたいな。帰ったらなにしようかな、入れたがる客を躱しながらそんなことばかり考えていた。
「そういえばSABONの入浴剤まだあったかも」
と思った瞬間、性器を無理やり入れられそうになる。
あまりにもしつこかったから演技をやめて、やめてください。とはっきりと言った。
「なんだよ、こっちは金払ってんのに」
あぁ、最悪だ。
最悪な場所で、最悪な時間で、最悪な空気だ。胃が痛くなる。
こんなときにおどおどしてしまう自分も最悪で最低だ。
「いいよ、もう帰れよ。」
シャワーをする時間すら貰えない雰囲気のままホテルの部屋を追い出される。
客の汗やよだれが肌についたまま外へ出た瞬間、恥ずかしさで死にそうになった。
「しえさん、お客さん怒ってたよ。何したの?」
「本強です、断っただけです」
「…、そこはうまくやってよ」
「次あるからとりあえずドライバー回すから待ってて、今どこ」
「もう今日上がります、お疲れ様でした。」
電話の向こうではまだなにか話していたが無視して切った。
怒りを通り越してどうでも良くなってしまった。
ドラッグストアでボディシートを買って身体を乱雑に拭く、深夜の閑散とした駐車場は嗚咽を増長させる。
ラブホテルの入り口を眺めていると、一人の男と女、二人の男女が入ったりしていた。
「ばっかみたい」
乱暴に消したセブンスターの種火が消えていく。