400m
400m
何も無かった、つい数時間前までは。
存在そのものが希薄に漂っていた。
「別に可愛くないよ、死んだ方がいい笑」
ふいに投げつけられた言葉、
数分考え込んだあと私は、この言葉を吐いた人の呪詛になろうと思った。
生き甲斐が、生きていた理由がようやく出来てホッとした。私はこの人の呪詛になるために死のう。
生きていた理由と死ぬ理由は同義だ、
私はこの人の呪詛になるべく生きてきた。
薄っぺらい好意ばかりを投げつけられる、画面越しの純度100%の悪意に塗れた下心。スマートフォンに止まる羽虫を指で潰した、画面には体液が伸びていく。
氷の溶けきったシャンパンのような毎日、吐瀉物と爆音が響いていたキラキラした空間。
300m
自分より年上の女性だった。
32歳の既婚の女性だった、結婚もしていて専業主婦らしい。
私には無いものをたくさん持っていて、それなのに私の投稿を見てコメントを残す。どういう神経だったんだろう。結婚はストレスがたまるのだろうか。
小さい頃に幼稚園で描いた夢がお嫁さんだったことをふと思い出した。
いつからお嫁さんって書かなくなったんだろう。
私は今からこの人を呪うことにした、きっかけなんてどこにも転がっているんだ、なんて思いながら死ぬ方法を模索していた。できるだけ自然にかつ綺麗に死にたかった。それか顔の原型がなくなるくらいの方法。
200m
地方都市は本当に人が少なかった、蝉が五月蝿い、いつ振りに蝉の鳴き声をちゃんと認識したのだろうか。
この場所で生まれたんだ、と思うと私もこの場所で生まれたら結婚できたのかな、なんて思えてきた。
きれいな制服を着て勉強をして友達と遊んで、受験して。好きなひとができて、想像だけでも楽しくなる。
軽い足取りで歩いていると、目当てのショッピングモールが見えてきた。
とても大きい。
私が見ていた東京の倍くらいの大きさを感じさせた。
中に入ると、ガランとしていた。
蛍光灯が乱反射して室内は白く、無感情な店内放送が流れている。
ポイントが5倍らしい、ちゃんとした生き方をしていたらポイント5倍とかで嬉しくなってたのかな。
こんなに空いているスタバは見たことなかったからいつものチャイラテを頼んだ。周りを見渡すと、私を不審そうに見るおばさんが居た。じっと見ているとそそくさと消えていった。
どこへ行ったって、同じだった。
100m
屋上駐車場から見た景色は、山が連なっていた。郊外を走る車や人の声はしないけれど人がたくさん生活をしている感じ。
馴染めなかったけれど、こういうのがしたかった。
泊まるところが無いからTinderで泊まるところを探した、こんなにひとけの無い場所なのに、男は蝉の数よりも多いくらいに寄ってきた。
ついでにこの男も呪おう。
裸のまま寝ている男を放っておいて、免許証だけもらってホテルを出た。
最後までセックスで気持ちよくなることなんてなかった。誰も目をみてくれなかった、目を見てしてほしかっただけなのに。
0m
朝焼けがとても綺麗だった。
あまりにも綺麗で生きてちゃいけないなって思うくらい。
大声で叫ぶ。
「わたしは、このふたりを呪うから、XXXXXXX、△△△△△△△△△」
「死ぬけど忘れないで」
女が昔歩いたであろうショッピングモールの入口
男が来たであろうショッピングモールの入口
蝉の鳴き声がいつまでも血を揺らしていた、眼球だけがずっと空を見上げている。