良い作曲家のマスト能力1:頭の中で、演奏家が生きているかのように再生が出来ること
作曲家を長年やっていると、だんだん自分の中に
良い作曲家ってこんなだよね、という像ができてくる。
私がスゴイな、こうありたいな、と思うのは「共演者が最高に輝く曲がいつも書ける作曲家」。
その人が書いた曲で、演奏家たちが大スターばりに輝いて、演奏家もお客さんも嬉しくて、そんな公演大人気になるに決まってるから会場もハッピーだろうし、共演者も嬉しいし、そんなすごい曲が書けたら、それってもう芸術じゃなくて世直しに近い。
そういうのが私はやりたい。
作曲家の中には「とにかく自分が作りたいものを作るんだ!という観点で曲を作り、出来た曲を演奏出来る人を集めていく」人もいるし
私のように「相手が輝くように作ることに楽しさと美学を見出し、そこに自分らしさを混ぜ混ぜしながら曲を作っていく。だから演奏者は先に決まっている」人もいて
ひとりの人がこの両方をやるというのは、まあほとんど見たことがなくて、だいたいの作曲家がこのどちらかをずーっと作曲家人生のあいだ続けている。
作曲にもアテ書きがあり、それってすごく、楽しい!
どちらかと言うと前者が多く、後者は少ないイメージ。私はめちゃくちゃはっきり分かりやすく、後者だ。誰が演奏するのかが分かっているほうが、圧倒的に燃える。いわゆる、アテ書きってやつだ。アテ書きは演劇でよく使われる言葉だけれど、音楽にもアテ書きはある。
アテ書きは本当に素晴らしい。なにせ、大好きなプレイヤーが自分の曲で更にキラキラ輝くのだから!その人と一緒に音楽を作れている喜びを、魂の底の底から感じることができる。
このアテ書きをするために、絶対的に必要な能力が、「書きたい対象の演奏家の音が、頭の中で鳴らせる能力」。私の場合、Miggy Augmented Orchestraの16人の音が私の中で鳴らせたり、その中の複数の人を組み合わせた音が想像できること。
KYMNの場合だったら、副田整歩(なおむ)・コテツ・寺尾陽介の全員の音が、頭の中で鳴らせること。過去に一緒に演奏した曲はそりゃあ、頭の中で鳴らせるわけだけれど、そうじゃなくて新しいものを書いている時に、脳内で彼らが演奏をしてくれないと、彼らがベストにサウンドする曲が書けない。
地味な努力をコツコツするのが名作づくりへの道!
なおむはアルトサックスと、ソプラノサックスと、フルートを吹くわけで、その全てが私の脳内で鳴らせる必要がある。音域が上でも下でも、バラードでも、激しいものでも。コテツちゃんは、とても音域が広いけれど、上から下までどこでも彼の声が再生できること。寺尾くんについても同じで。
鳴らせるようになるためには、たくさん一緒に演奏することが大事。あらゆる音楽を一緒にやっておくこと。
かつ、その人の演奏を圧倒的な分量で聞く必要もある。私はSteve Wilsonにこの曲をあて書きしたときは、Steveのライブが有るたびに会場に通って、五線紙にメモを取って、各音域での音色の違いを目と耳の両方から頭に叩き込んだ。結果この曲はSteveにも他のメンバーにもお客様にも愛され、Village Vanguard他世界のジャズクラブで演奏されまくり、翌年突然Steveから「あの曲、ファンが一番大好きな曲になっちゃったよ。録音させてね」と連絡があり、世界中のジャズファンが憧れるVillage Vanguardでライブ・レコーディングしてくださったのだった。
KYMNについては、なおむ&寺尾両氏の演奏はもう20年くらい聞きまくっているので、何の苦労もなく再生できるのだけれど、ボーカルのコテツちゃんとだけ付き合いが10年未満なので、コテツ摂取量のバランスが今は悪い。
だからここ最近はずーっと、コテツちゃんを聴いている。一緒にレコーディングした音源も聞くし、それから喋り声も。お話している声を聴いておくと、より、セリフのような歌詞が書けるからすごくいい。
それを11月頭から約2ヶ月ずっとやってきたら、ここ最近書いた2つの新曲が、ものすごくコテツになった。すごーくコテツ感がするのだ。
我ながら地味な努力が本当に得意だなと思う。コツコツ、コツコツ。それがないとやっぱり何事も成し遂げられないよな。
これから1月までの間にあと3曲、コテツくんが歌う曲を書き上げる。この2ヶ月の努力が実って、良いものが書けますように。毎日祈りつつ、努力しつつ、書きすすめるのみだ!
追伸:
「コテツくんに歌ってもらうためにゼロから書いた」曲のリハーサルの様子がこのビデオに収められているからぜひ見ていただけたら。
同曲のレコーディング