『十三月のふたり姫』に100万ぶっこんだ話
私はゲーム業界に関わり、そうして出会ったなかで、グレートファーザーとして尊敬する人が多くいます。スーパースィープの細江慎治さんや佐宗綾子さん、アトラスの金田大輔さん、SIEの本村健太郎さんなどなど、きちんと思考するだけでなく、それを市場に向けてアウトプットできる人たちです(しかも性格が穏やか)。
その中でも増子津可燦(増子司)さんは私のなかで筆頭的存在で、企画を周囲へアプローチする力もあれば、陰日向で素晴らしい音楽を提供する能力も兼ね備えているハイパー超人です。最近でいうと『カリギュラ』では、心に残るスタート画面の音楽を差し込みながら、他の強烈なミュージシャンの後ろで、そっと基盤を築いている器用さには脱帽です。
■1本100万円のゲームを買いました
さて今回、本題となるのはキックスターターの企画『十三月のふたり姫』です。ぶっちゃけて言うと、私は100万円の投資をしました。増子さんを信じて。「結婚式の資金にとっておくの!」と隠していたタンス貯金です。「どうせ結婚なんてできないし……いいか……」という絶望は置いておいて、最近は収入が闘病生活のために少なく、まさに生死をかけた投資(笑)。しかしそれだけ、私はこのタイトルが「私の人生を変える1本になる」と信じているからです。
最初、この企画は(ページが英語ばっかりだったし、なんか分かりにくいし、あんまり拡散されてなくて)まったく目標金額へと到達していませんでした。500万円がゴールと定められていたが、私が見たときは確か、200万円ほどしか集まっていなかった。半分も越えれば、少しは呼び水になるだろうと思い、最高金額をぶち込みました。預金残高を確認して、正直「こいつはやべぇな!(生活的な意味で)」と少し後悔もしたりもしたけれど。
■『眠れる森の美女』というテーマに感じた運命
本作のテーマは、童話『眠れる森の美女』です。美しいお姫さまは魔女の呪いにかかり、100年の眠りにつく。その眠りを醒ますことができるのは、愛する王子さまのキス、ただひとつだけ。
私は、ディズニーアニメーションでこの物語に猛烈に入れ込みました。それまでのプリンセスをモチーフとした長編映画、『白雪姫』、『シンデレラ』では、基本的に王子自身がプリンセスのために手を汚すことはありません。『白雪姫』はたまたま通りかかった王子のキスがラストを飾ったし、『シンデレラ』では従者に委任してシンデレラを見つけ出しました。
しかし『眠れる森の美女』は、森でお互いの身分も知らないままの男女が恋に落ちる。そんななかで「あなたはじつは姫」「決められた婚約者がいる」と告げられ、オーロラは絶望もします。しかし、じつは婚約者が森で出会った想い人だった! なんてドラマチックな展開も私の心を震えさせました。
そして何より、今までになく、自ら剣を手に取り、姫のために戦う能動的な王子も描かれている。私はそんな物語が、ディズニーアニメーションのなかで一番大好きでした。
■もし、王子のキスで姫が目覚めなかったら
さて、本作のテーマはまさに『眠りの森の美女』。私の愛するタイトルです。しかし、シナリオを担当するのは、『女神転生』シリーズでおなじみの鈴木一也さんです。鈴木さんを使って、ただの焼き増しのような恋やバトルのお話を、ノベルゲームとして遊ぶのか? そんな訳ないやろ!
鈴木さんは、悪魔合体や悪魔対話を生み出した「メガテン」の立役者というべき方です。伝承や神話、悪魔に造詣が深く、とても神秘的な鈴木さんの作る物語は、今までにない『眠りの森の美女』となってくれるはずです。
――もし、100年の眠りの末、王子のキスで姫が目を覚まさなかったら。そしてまた100年の月日が流れ、それでも姫が目覚めなかったら……。100年ごとに訪れる王子は一体、何者なのか。「歴史上の英雄や、伝説に名を留める者……、あるいは異界からの使者なのかも……?」と鈴木さんならではの世界が、『眠り姫』で紡がれていくといいます。
今回の大きなテーマは「心の闇に迫る物語」「記憶に焼きつく不思議な世界」「愛さずにいられないキャラクターとの出会い」「怖くて、美しいゲーム体験」。私は本作において、万人に愛される物語性は求めていませんし、きっとクリエイターの皆さんもそうでしょう。だからといって人を選ぶわけでもなく、例え評価が大きく分かれたとしても、プレイヤーは何か心に刺さる棘を抱えることになるとを期待しています。
私は「メガテン」が好きだから、「メガテン」のような何かを求めて本作を支援したわけではありません。もちろん、「メガテン」で表現されている、宗教や神話、悪魔たちの謎や、彼らとの「異文化」感は鈴木さん独特のものなので、その味をたっぷり堪能できたら最高だな、とは思っています。
私は、本作を「鈴木さんの代表作って、『十三月のふたり姫』だよね。もう思い出すと、いろいろ心がしんどい」言われるようなタイトルにしてほしい。
■トラウマを私に植え付けてほしい
先述の通り、私は『眠れる森の美女』に深い思い入れがあります。ディズニーをはじめとして、童話としての『眠り姫』にも。それが今回モチーフになったことは純粋にうれしいし、何か運命的なものを感じています。
だからこそ、その原作を駆使して、私に「ゲームならでは」のトラウマを植え付けてほしい。増子さんにしか書けない曲、鈴木さんにしか書けない物語。それが、私の好きな童話をテーマに展開していく。こんなにうれしいことはありません。
だからこそ、私のなかのきれいな『眠れる森の美女』を打ち壊してください。ただの恐怖ではなくて、精神的に追い詰められるような感覚を味わいたい。今はまだプロットの段階のようですが、もはやそれすらも、楽しみでうれしくてワクワクしています。