人を冥人へと堕とすゴースト・オブ・ツシマ
先の四連休の間ひたすら蒙古兵どもを殺戮しつづけて、ようやくゴースト・オブ・ツシマをクリアしたので感想を。
だいぶホットな大型タイトルなのでご存じのひとも多いだろうがまずは軽くツシマについて説明しよう。
ゴースト・オブ・ツシマ(以下GOT)は合衆国のサッカーパンチプロダクションズが開発して2020年7月17日に発売されたPlayStation4用ゲームだ。
時は文永11年、フビライ・ハーン率いる蒙古が海を渡り日本に攻めてきた。日本人なら大多数のひとは知っているであろう歴史的インシデントである元寇、そのファースト・キャンペーン、文永の役だ。
元寇といえば九州での戦いが有名だが、その前段階として蒙古は対馬・壱岐にも侵攻してきている。そう、このゲームは蒙古襲来時の対馬を舞台にしたオープンワールド・サムライアクションゲームなのだ。
大軍たる蒙古軍を相手に立ち向かうは対馬の武士約80。圧倒的な数の蒙古軍を相手に奮戦するも、武士たちは全滅――しなかった。
プレイヤーは蒙古を討ち滅ぼすため冥府から蘇った冥人(くろうど) 境井仁となり、蒙古どもを全滅だ!というゲームだ。とてもわかりやすい。
美しいファンタジー対馬
GOTの舞台は先ほどもいったとおり対馬だ。だが、なんか日本っぽい?美しい風景をいい感じにごちゃまぜにしてちょっと北へ行くと雪景色にもなるファンタジー対馬だ。
時代設定的に少々変なところ(鎌倉時代にはない当世具足っぽい鎧があったり)もあるらしいが、まあその辺はいわゆる時代劇時代みたいなもんだとおもえばこのへんの時代専門でなければあまり気にはならないかと思う。
オープンワールドゲームはこういう圧縮をよくやる――せいぜい数十kmくらいの範囲なのに地形や気候が劇的に変化するみたいなやつだ――ので、今更驚くところでもないが、こういうのなんかお得な感じなのですき。
僕の持論として、オープンワールドは観光ゲーとしての要素もかなり大きいと思っているので風景がいいというのはとても強力な加点要素だ。
さいきん流行りのフォトモードも実装されていて、被写界深度やら露出補正、天候やゲーム内時間などなどをいじれるのでかなり自由度が高いスクリーンショットを撮影できるのもうれしい。
また、マップ関係のシステムも雰囲気づくりにはかなり貢献している。
未発見の場所などに近づくと黄色い鳥がやってきてそこまで導いてくれたり、タッチパッドを上にスワイプすると目的地のほうに向かって風が吹くなど、雰囲気を壊さないようにはしつつプレイヤーが迷子にならないようになっていて気遣いを感じる。
斬新さはないがよくまとまった戦闘システム
GOTの基本的な戦闘システムは4種類の型と□ボタンの弱攻撃と△ボタンの強攻撃、あとはガードと回避を組み合わせた、わりとありがちっぽい感じのやつだ。
各型はそれぞれ剣、盾、槍、デブに対してつよいという特徴があるので、ぶち殺すやつにあわせて型を切り替えて戦うのが基本となる。
だからといってつまらないかというとそういうわけでもなく、火矢で草原ごと敵を焼き尽くしたり、こんらんさせる毒で同士討ちさせたりといった搦め手も使えるので、戦術の幅はけっこう広めだ。
ただし、風の型の最終技である足蹴り改はデブ以外のやつを問答無用で吹き飛ばし、そいつが立ち上がるまでに近づけば一撃で殺せるというカラテ至上主義のバランスブレイカーなので、あまり多用しているとちょっと味気なくなってしまうと思う。
また、元寇といったら絶対に外せない武器であるてつはうも使用可能というファンサービスもにくい。(ファンとは)
他にもいくつか蒙古由来のものを使えたりするのでそのあたり期待してほしい。
また、敵の背後から闇討したり一騎討ちを申し込んだりという鎌倉武士めいたムーブもできるので戦闘面でも雰囲気づくりに重点をおかれているように感じる。
蒙古を討ち滅ぼすための物語構造
突然だがオープンワールドゲームといえばどんな物語構造を思い浮かべるだろうか。
ジャンルを代表するThe Elder Scrollsシリーズなんかは、本筋のメインクエストと、それとはあまり絡まない大量のサブクエストが独立した物語として存在しているが、まあオープンワールドというとだいたいそんな印象だと思う。そういう何者にでもなれる構造というのはそれはそれでとてもいいものだと思うし、僕もすきだ。
だが、そういうタイプのゲームは様々なサブクエストに手を出しすぎてプレイヤーキャラクターが何者なのかわからなくなってしまうということが起こったりしてしまう。魔術師ギルドと戦士ギルドと盗賊ギルドのすべてのトップになるとかそういうアレだ。
こうなると、どうにも一本の物語として見るには厳しい印象になってしまう。
GOTもメインクエストと数多くのサブクエスト(とはいえTESだのゼノブレイドクロスだのと比較すると少なめだとは思うが)で構成されているというのは変わらない。が、すべてのクエストが蒙古を打倒するためという単一の目的のためにあるという点は特筆すべき点だ。
あらゆる行動――さすがに完全にゲーム的な要素である収集物集めなんかは例外だが――蒙古どもを駆逐するために繋がっているため、多少の順番が前後や面倒くさくて無視したクエストがあったりしても全体で一本の筋がなんとなく見えるような構造になっているのは本当によくできていると感じた。
主人公である境井以外の登場人物は彼ほどの蒙古をスレイする意思を持っているわけではないが、蒙古を全滅させる協力者として仕立て上げるために彼らの目的達成にも協力するという形になっていて、やはりすべては蒙古打倒につながっている。
誉れおじさんこと志村、対馬からの脱出をねらって境井に協力するゆなとたかの姉弟、性格クソ悪弓取りの石川先生、一族郎党を皆殺しにされて復讐鬼と化した政子など、一癖も二癖もある登場人物はとても魅力的だ。
百合もあるよ!
人を冥人に堕とす巧妙な誘導
ここまで少々かかったが、GOTで一番やべえと思ったのがこれだ。
冥人とは最初にも書いたが蒙古を討ち滅ぼすために冥府から蘇ったものという意味の言葉で、サムライとはまた違う存在だ。
誉れを最重要視するサムライ――近年のインターネットでは鎌倉武士蛮族説が大勢力となっているが、一般的な印象としてはやはりこちらのほうがつよいだろう――とは違い、蒙古打倒が第一なので戦闘まわりにも書いたように闇討や毒殺といった手段もつかう。
物語上の境井も最初はこういうきたない手段には拒否感をおぼえているのだが、話が進むにつれてもう手段とか選んでられねえ!となっていくのだが、プレイヤーもそう思うかはまた別の話だ。
僕もそうだが、サムライらしく正々堂々と真正面から蒙古兵をぶちのめしたいというプレイヤーはそれなりにいるんじゃないかと思うが、そのプレイヤーに対してシステムがかなり強めの誘惑をしてくる。
これは後半に解禁される要素だが、ダメージを一切受けずに一定数の敵を倒すと問答無用で3人斬り捨てることができる冥人の型というものがある。
GOTは一対多の戦闘が基本になるが、蒙古兵は正々堂々戦うということを知らないので目の前にいるやつ以外は攻撃をほぼしないみたいなことはなく、文字通りの横槍を入れてくる。
このころには敵のしぶとさもだいぶ上がることもあり、正直いって普通に戦っていてはなかなか冥人の型を発動することができないのだが、手段を選ばなければその限りではない。
闇討、毒殺、くないなどの暗器……こういうきたない手段をフル活用すると、あっという間に敵を殺していくことができる。
戦闘中でも煙玉を使って敵がむせている間に連殺するとかできるし、あらゆるシステムがプレイヤーを冥人に堕とすために誘導してくるのだ。
発売直後にトゥイッターでこんなことを書いたりしたあたりからも察してほしいが、本作は戦闘中のカメラワークがお世辞にもいいとはいえないので、死角から攻撃されるなんてことも頻繁にある。
その上、デフォルト設定では敵の弓兵が射ってくるときに警告アイコンてきなものが出ないので矢も避けにくいったらもう。
全体を通してプレイヤーを冥人に仕立て上げる誘導をしていることを考えると、このあたりも意図的なんじゃないかと思わざるをえない。
つまり、ゴースト・オブ・ツシマは冥人養成ゲームだったのだ。おそろしい。
最後に
プレイヤーを冥人に堕とすおそろしいゲームであることが明らかになったが、よくある中華要素つよめな勘違い日本(これはこれで大好物なんだが)ではなく、かなり精度の高い和風オープンワールドで強固な物語構造がある本作は他にはなかなかない魅力にあふれていると思うのでかなり積極的におすすめしていきたい。
最後に、モノクロにしてフィルム粒子エフェクトもかける黒澤モードは神。