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社会人を題材にした漫画は少ない?

ちょっと前にプチバズ?炎上?したポストです。

英語で書いている人がいた」「日本人は高校で人生が終わってしまう」という言葉が、正しい海外出羽守的な作法にのっとっていたこともありそこそこな量の返信や反論が寄せられています。(個人的にはこれらのポストは絶許狙いの側面もあると思っていますが。)

私も上記のポストには同意しないのですが、ただこれに対して

  • 社会人を題材にした漫画やアニメもたくさんあるぞ!

という反論はあまり妥当でないように思います(そしてそういう反論が多く寄せられているようです)。何をもって「たくさん」とするかは難しいところですが、

なので、現実世界では高校生の数は社会人の1/20以下。一方で、2024年秋アニメの一覧から独断で判断してみると

  • 社会人を題材としたアニメ(8作品)
    MFゴースト
    株式会社マジルミエ
    結婚するって、本当ですか
    ケンガンアシュラ
    トリリオンゲーム
    ねこに転生したおじさん
    百姓貴族 2nd season
    来世は他人がいい

  • 高校生を題材としたアニメ(14作品)
    アオのハコ
    甘神さんちの縁結び
    オーイ!とんぼ
    君は冥土様。
    新テニスの王子様 U-17 WORLD CUP SEMIFINAL
    ダンダダン
    とーがね!おまつり部
    夏目友人帳 漆
    ひとりぼっちの異世界攻略
    ブルーロック VS. U-20 JAPAN
    放課後少年花子くん 続編
    村井の恋
    ラブライブ!スーパースター!!
    らんま1/2

ということで、少なくとも高校生を題材としたアニメが現実世界における高校生の人口割合よりも多いのは確実だと思います。

そこで、この記事ではなぜ社会人を題材とした漫画が少ないかを考えてみようと思います。


理由候補1:高校卒業後には人生がなくなるから

これは、冒頭引用したポスト主の主張です。
しかし、高校卒業と社会人の間には、現実では「大学生」というモラトリアムが挟まることが多いのですが、大学を舞台にした作品は高校を舞台としたものより少ない印象があります。

人生があるないの話であればもっと大学を舞台とした漫画があってもよいとも考えられることから、「人生がなくなる」という要素だけでは説明しきれない、そしておそらくはこの要素の寄与は小さいようにも思います。

理由候補2:漫画家に社会人経験がない人が多いから

これは、漫画家は就職経験がないまま漫画家になってしまったために、社会人の描写ができないという理屈です。これと似たような発想のポストを2つほど貼り付けておきます。

これは、4年ほど前に少し盛り上がった「作家は経験したことしか描けないのか?」という話にも関連します。

漫画家に限らず作家が自分の経験したことしか描けないとしたら、エッセイくらいしか作品のレパートリーが存在しないことになります。1980年から連載が続いているサラリーマンが主人公の漫画「かりあげクン」の作者である植田まさしに社会人経験がないことからも、社会人経験がないからといって社会人を題材とした作品を書けないということにはならないと考えます。

一方でタイムリーな話なのですが、週刊少年ジャンプが「社会人少年漫画賞」を創設して話題となりました。

社会人経験のある作家にのみ応募資格がある漫画賞なのですが、佳作2本のうち片方は明らかに高校生を題材とした作品、もう一つは判定が難しいですが社会人と言えなくもない?くらいの作品です。
そもそも、この漫画賞の審査員は篠原健太、附田祐斗、白井カイウ、甲本一はいずれも社会人経験者なのですが、4人とも最新作は社会人を題材としたものではありません(むしろ篠原健太の「ウィッチウォッチ」、附田祐斗「食戟のソーマ」は高校生を題材とした漫画といってよいと思います)。このことから、社会人経験がある漫画家であっても社会人を題材にした漫画を描くことは少ないとも言えるでしょう。

よって、「漫画家に社会人経験がない人が多い」ことは、全く影響がないとは言えないかもしれませんが、社会人漫画の少なさの主要な原因ではないと考えます。

理由候補3:社会人は高校生に比べて「世界観の共有」が難しいから

高校生活はどの学校に行くかにより内容に多少の差はあるとはいえ、部活があり、文化祭があり、修学旅行があり…というように、イベントの種類はおおむね似通っています。そのため、描く側にとっても世界観の説明が簡略化できるし、読む側にとっても描かれている内容が想像しやすいです。

一方で、社会人生活はどの会社に所属するか、どの部署に所属するかによって、イベントの種類が全く異なります。PCに向かう仕事、現業系の仕事、出張がある仕事、ない仕事、個人でやる仕事、チームでやる仕事など…。

たとえば、失敗体験を例とします。
高校生にとっての失敗は、

  • テストで悪い点を取る

  • クラス替えで友達ができない

等、その状況が想像しやすいです。

対して、社会人にとっての失敗は、

  • 客からクレームされる
    →人事、経理部門などの間接部門には該当しない

  • 会議資料が間に合わない
    →現業系には該当しない

など、社会人全般に該当するようなものが設定しづらいです。よって、その内容を想像できない読者のために事前説明が必要であり、世界観設定の難度が高いように思います。

神絵師JKとOL腐女子」1巻より。
この人たちはいったいどんな仕事をしているのだろうか…。会議の準備でもなさそうだが。

理由候補4:社会人の生活には機密事項が多すぎるから

学生生活には機密事項があまりないのに対して、社会人生活は機密事項だらけです。自社の人事情報、技術情報、顧客情報、セキュリティ関連の情報など…。そしてこれらの機密事項を回避したうえで社会人生活を題材とした作品をつくろうとすると、具体性がなくぼんやりした内容になりがちです。

例えば商社の仕事などは、外部に明かせないものばかりだと思います。そのため、商社マンを題材とした漫画で描かれる仕事は、ほとんどが具体性に欠ける内容ばかりです。
私の知っている唯一の例外は「商社マンは今日も踊る」です。

この作者の方は商社出身だとのことですが、前職から文句言われたりしないものなのでしょうか…。

ドカ食いダイスキ! もちづきさん」第一話。
23:00のオフィス。営業事務の望月さんはいったい何のエラーに苦しんでいるのか?
営業事務と言いつつもプログラマーのようなこともしているのか?それともエクセルのマクロでエラーが発生しているのか?

理由候補5:学園物が人の心をとらえる神話の物語構成と相性がいいため

これは、下記記事に書かれているものです。要約してみます。

国や文化を問わず、好まれる神話の物語構成として下記のようなものがあるそうです。

  1. 旅立ち・冒険の始まり
    →日常生活→冒険への誘い・きっかけ→冒険の拒絶、賢者との出会い、第一関門突破→冒険を決心し、旅立つ

  2. 試練・通過儀礼
    試練・仲間(友情/裏切り)・敵対者の出現→危険な場所への接近→最大の試練

  3. 帰還帰路
    →偉業をなしとけ→成果・宝を持って帰還

そして、学園物も

  1. 旅立ち・冒険の始まり=物語導入部

  2. 試練・通過儀礼=ヒロインやライバル、大人との人間関係

  3. 帰還帰路=成長

と考えるとこの神話の法則にあてはめやすいから、学園物が多いということのようです。
個人的にはやや無理やりに思えますが…。

まとまらないまとめ

社会人を題材にした漫画が少ない理由について、私自身は

 3. 社会人は高校生に比べて「世界観の共有」が難しいから
 4. 社会人の生活には機密事項が多すぎるから

の二つの寄与が大きいように思っています。

ただむしろ外国の作家による作品は、学園物が少ないとかいうことがあるのかが気になります。上記の理由だとしたら、日本も外国も事情はあまり変わらないはずだと思うのですが…。

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