ルーゴン=マッカール叢書と挿絵の話
「ルーゴン=マッカール」叢書をご存じですか?
19世紀を代表するフランスの作家エミール・ゾラが、ナポレオン3世の統治下(第二帝政)におけるすべての階層の市民を描くことを目指して、23年間をかけて発表した全20作のシリーズです。有名な「居酒屋」「ナナ」もこのシリーズの中の作品です。
当時のパリは今の日本と比べ物にならないほど貧富の差が激しく、最上層に位置する大臣、投機家から最下層の娼婦、炭鉱夫の間には全く違った世界が広がっていました。そしてまた、セーヌ県知事ジョルジュ・オスマンによるパリの再開発や、鉄道の普及、投機熱、労働運動、などそれまでとは異なった世界が広がりつつあった時代でもあります。ゾラは、これらの同時代的な要素を見事に取り入れ、自らが提唱する自然主義文学を実践したのです。
2000年代に論創社と藤原書店から、20作品のうち18作品に対して相次いで新訳が発行されました。残念ながらその多くは早々に絶版となってしまい、amazonなどで見るととんでもないプレミア価格がついているようですが…。(興味ある方は、文末に20作全部のリンクを貼っておきます)
個人的に20作の中で最も面白いと思うのは、「ボヌール・デ・ダム百貨店」です。世界初の百貨店といわれるボン・マルシェ百貨店を題材として、百貨店の隆盛と個人商店の没落、物欲に支配される客たちがみごとにえがかれています。藤原書店、論創社両方から2000年代前半に新訳が発行されていたのですが、このたび論創社から23年3月に新版が発行されました。しかも、電子書籍化もされており、気軽に読めるようになって素晴らしいことです。
また前置き長くなりましたが、本題です。
この「ボヌール・デ・ダム百貨店」の新版を本屋さんで見つけたのですが、こんな帯がついていました。(よそのサイト、具体的にはフリマサイトからの借り物画像ですが。)
一番目立つ背表紙に「挿絵31点」の文字。これを見て、昔のことを思い出しました。
子供のころ、私にとって「本」というものは「絵のある本」と「絵のない本」の2種類に分かれていました。そして、大人は「絵のない本」を読むものだと思っていたのですが、これが勘違いだと分かったのは自分自身が大人になってからでした。
こちらはみんな大好きヤフーニュース。コメント欄でレスバトルするのが流行りだそうです。ニュースにはことごとく画像がついていて、ニュースの内容となんとなく関連性がありそうなのですが、しかし画像を見たからと言って理解が深まることはなさそうに思います。
そしてこちらは、日本を代表するトヨタ自動車のニュースリリース一覧。こちらもヘッドライン1個に対して画像が必ず1枚付いています。そして、中には同じ画像が使いまわされているものもありますが、こちらも画像にはあまり意味がありません。
これらが意味することは、「大人であっても、文章に絵がついていたほうが読みやすい」ということだと思います。そりゃあそうだろと言われればそれまでなのですが、私にはなぜ「絵がついていたほうが読みやすい」のかが理屈だって説明できないのも事実です。余計な絵があると、情報にノイズが混じって読みづらいという考え方もあるはずなのですが、実際は絵があるほうが読みやすい。
このあたり、何かうまい説明がないか、結構長い間考え続けています。
おまけ ルーゴン=マッカール叢書 新訳一覧
1 ルーゴン家の誕生
2 獲物の分け前
3 ムーレ神父のあやまち
4 プラッサンの征服
5 ムーレ神父のあやまち
6 ウージェーヌ・ルーゴン閣下
7 居酒屋(新訳がありません)
8 愛の一ページ
9 ナナ
10 ごった煮
11 ボヌール・デ・ダム百貨店
12 生きる歓び
13 ジェルミナール
14 制作(新訳がありませんが、1990年代の訳が存在します。)
15大地
16 夢想
17 獣人
18 金
19 壊滅
20 パスカル博士
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