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流行語大賞発表!と新語の誕生
今年の新語・流行語大賞はド本命の「ふてほど」でした
気づけば12月も半ばを過ぎ、今年の新語・流行語大賞が発表されました。
「ふてほど」、確かに流行りましたね。たまに街に出るとふてほど屋さんだらけ。ふてほどはSNS映えするし、インバウンドの外国人旅行者にも浸透していると聞きます。芸能人がTikTokに公開した「ふでほどダンス」も話題になり、「ふてほど界隈」の若者たちが急増しているとも聞きます。
ただ、「ふてほど詐欺」などの問題に対しては国としての早急な対策が望まれますし、さすがに「異世界転生したらふてほど無双した件」「パーティーから追放されたので、ふてほどスキルで美少女にモテまくる人生を歩みます」などはやりすぎだと思うのですが…。
言葉の「ちょうどよい隙間」に定着する新語たち
新語にはいろんなパターンがあるのでしょうが、「当該のものを直接参照する言葉がなくて不便な場所」にぴったりはまる言葉が発明されたり、または別の分野から転用されて定着するパターンが多いように思います。
最近、私がこのタイプの「新語」だと感じたものをいくつか挙げてみます。
機序
この単語は、もともとは医学・生理学の分野で、化学物質が生体内で何らかの作用を起こす仕組みとか、病気が進行する仕組みなどと言った意味でつかわれていた単語だと認識しています。
しかし、最近はこうした分野の枠を超えて、「ある原因現象からある結果現象がおきるまでの、一連の作用についての順序だった仕組み」というような意味でつかわれ始めているように思います。
下記にいくつか例を示します。
とはいえ、体育の教師を目指す人の「目指すに至った機序」ってあんまそういう経験してるとは思えないから、なかなか難しいのかもしれないなって思ったりもした。
— どもきけんじ (@ShuRo_ShuRo) December 13, 2024
"自分の欲求に沿って自分のために行動し、自分に降りかかってくる結果について受け止める" ができなくて、「やらされ感」でいっぱいで、他人の挙動をキョロキョロ盗み見ては機序も理解せず上っ面を雑になぞり、それで失敗すると手本を逆恨みする人のことを「隣の爺症候群」と当番は呼んでいる>RPs
— 星見当番☕️アストロお嬢様部活動日誌 (@kaori_stargazer) November 28, 2024
今日最後の訪問地は、秋吉台の近くにある江原ウバーレ。カルスト大地にできた窪み(ドリーネ)が集まった大きな窪地を、ウバーレというらしい。地表を流れる川はなく、降った雨は窪地の底にある吸い込み穴から地下に流れて、秋芳洞のような地下河川を形成する、という機序。地球の神秘だな。 pic.twitter.com/mqPTcfHkN3
— Felix the Worm 🇺🇸 (@fmxogr) December 9, 2024
あまり良いたとえではないのでしょうが、「風が吹けば桶屋が儲かる」の説明がここでいう「機序」に相当するのだと思います。これまでも「仕組み」だとか「メカニズム」という言葉で代用されてきた内容ではある(そして「機序」は一般的には「mechanism」と英訳されます)のですが、「序」の部分が順番に起きる反応機構のような含意があり、便利に使われるようになりつつあるのでしょう。
アプリ
このことばはもう定着して10年以上が経過しているようですが、現在「アプリ」と呼ばれているものは、かつては「ソフト」と言われていました。
ただ、この「ソフト」という単語は
Windows、Android、iOSなどの、ハードウェアの基本的な機能をまとめた「基本ソフト」
基本ソフトの機能を利用して動作する、特定の目的のために使われる「アプリケーションソフト」
の両方の意味を含んでいたために、後者の意味だけを抽出した「アプリ」という単語が使われるようになったのだと言われています。
かつて、Apple社が自社のスマホアプリDLサイトを開設する際に、「Apple」の社名の一部を取り入れて「App Store」としたことも、「アプリ」の単語が広まるきっかけになったと聞いたことがあります(真偽は保証できませんが)。
30本の「アプリケーション」と、30本の「ゲーム」
と表現されており、この時点ではまだ「アプリ」という単語が今ほど定着していなかったことがうかがえます。(現在なら、「ゲーム」を含めてすべて「アプリ」と呼ばれていたことでしょう)
○○世代
「昭和一桁世代」「しらけ世代」「バブル世代」「氷河期世代」「ゆとり世代」「Z世代」などに類する単語は、時が進むにつれて新たな世代が発生するために常に追加生成され続けています。
(昭和一桁世代より前になると、「大正世代」という言葉よりも「戦中派」という単語のほうがよくつかわれたようです。)
「Z世代」の次は「α世代」「β世代」と続くそうです。そもそも「Z世代」以降は英語の「Generation Z」等を直訳したものであり、「団塊の世代」のような日本固有の名称が使われなくなったそうです。
グローバル化に伴い、世代名も他国でつかわれているものがそのまま輸入されるようになったのでしょうか。
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「言葉の隙間」が埋められないこともある
一方で、そうした言葉のエアポケットのような「隙間」が長らく存在しながらも、それに該当するぴったりした単語が発明されないケースもあるように思います。
姓名の「名」の部分
皇族を除く日本人の名前は、基本的には苗字と名前に分かれます。「苗字」といえばそれが指すものは明確なのですが、「名前」という単語は「苗字+名前」で構成される人の固有名詞全体を指すのか、またはいわゆる「下の名前」と呼ばれる部分を指すのかがはっきりしません。
ノートPCの開けたり閉めたりする、ディスプレイと一体になっている部分
英語ではよく「lid(ふた)」と呼ばれる部分です。
日本では「カバー」と呼ばれることが多いのですが、ここで問題なのは英語でも「top cover」というと
ノートPCを閉じた状態で外部に露出している、ディスプレイ裏面のPCブランドのロゴが刻印されている面
キーボードと同一平面上にある、キーボードやタッチパッド、電源ボタンなどを含む面
のいずれかを指す場合があり混乱しやすいという点です。
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また、「ノートパソコンのカバー」というと、ノートパソコンを保護するためのバッグやケースを指す場合もあり、これも混乱のもとです。
英語直訳で「ふた」と呼ぶのがいいのでしょうか?このあたり、世間的にどの程度合意が取れているのかが私にはあまりよくわかっていないのですが…。
「島」としての北海道、四国、九州
一見すると、北海道という単語の示す範囲は明白に思えるのですが、実は北海道という単語が
北海道という島
北海道という島と周辺にある離島を含む領域
のいずれも指して言う場合があり、明確に「北海道」という島を示す言葉はないのだと思っています。
そのため、「北海道最西端」といった場合に、
「北海道島」最西端の尾花岬
「北海道島」の西にある奥尻島の「北追岬」
いずれを意味するのかは不明確なのが実情です。
同様のことは四国、九州でもいえます。
四国最東端
「四国島」最東端の蒲生田岬
「四国島」の東にある伊島の黒崎
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英語圏の「新語」について
日本の「新語・流行語大賞」と似たようなものはほかの国でもあるようで、いくつかの機関が個別に2024年の「Word of the year」を定めています。
Cambridge Dictionary
「manifest」
https://www.theguardian.com/media/2024/nov/20/celebrities-make-manifest-appear-as-2024-word-of-the-year
「夢がかなうという信念を持つことが、実際に夢がかなう原動力になる」というような意味を持つ単語のようです。「manifesting」で「未来の成功した姿を具体的にイメージする」というような使い方をします。Oxford University Press
「brain rot」
https://corp.oup.com/news/brain-rot-named-oxford-word-of-the-year-2024/
直訳すると「脳の腐敗」。SNSで低品質なコンテンツ(YouTubeのショート動画など)を大量に消費することで、思考能力が低下することを意味します。Merriam-Webster
「polarization」
https://www.merriam-webster.com/wordplay/word-of-the-year
これは日本でもよく言われている「分断」を表した単語です。Merriam-Websterはアメリカの会社なので、大統領選挙における共和党支持者と民主党支持者の二極化を意識したのでしょう。
いずれも、日本の「ふてほど」同様にそれなりに流行した言葉が選出されています。
たとえば、Cambridge Dictionaryで2017年に選出された「populism」やMerriam-Websterで2020年に選出された「pandemic」は、その後日本語としても定着したので2024年の「Word of the year」も日本に輸入される可能性もあるかもしれません。
個人的には「brain rot」あたりは日本に輸入されてもおかしくないようには思います。日本語にはすでに「脳死プレイ」という言葉があるのですが、「脳死」という単語はややセンシティブな単語でもあり、英語に言いかえて緩和されることもあるかもしれません。
最近数百年の「新語」の頂点に立つと思われる単語
「日本も外国も常に新語が生まれ続ける」という超当たり前のことをつらつら書いてきましたが、個人的には1839年に誕生したと言われる「OK」という単語が殿堂入りの新語大賞だと思います。
初めて「OK」という単語が印刷されたのは1839年のボストンの新聞で、当時の記者が冗談まじりに「All Correct」を表わす略語として書かれていたそうです。
OKという単語が生まれてからまだ200年も経過していないというのは信じがたいことですが、「良い」という意味を表す使いやすい言葉がそれまでになかったということなのでしょう。
「ふてほど」もこのように、世界でつかわれる言葉になる日も近いと思います。
カバー画像について
猫部ねこ「きんぎょ注意報!」の第7話に出てくる「貧民パン」です。この言葉はとてもよい単語だと思うのですが、最近「片親パン」という残酷な言葉に置き換えられてしまったのが残念ではあります。