蟹座のスターシードさんへ
奇しくも、また蟹座のあなたに会ったのは、蟹座の満月の数日前だった。
お互いに連絡先は知らない。
不思議なことに、いつも予想せぬ時にばったりと会う。
その日、彼女は震えていた。怒りと憤りと怯えがあった。
私は、どうやら彼女の人生の転換期に遭遇してしまったらしい。
彼女は、知り合ってから間もない私に、堪えきれない感情をぶつけまいと、滔々と状況だけを説明し始めた。
本当はぶちまけてしまいたいだろうに…。
私は何もできなかった。
なぜならば、彼女の強さを知っているから。
不器用な彼女は、きっと人に上手に頼る術を知らず、真っ直ぐに自分と向き合い、一歩一歩自分の足で歩んできた。
誤魔化さず、ものすごく丁寧に自分に忠実に。真に強い人しかできないこと。
悲しい程に研ぎ澄まされたその感覚は、空気の振動で簡単に嘘を見破ってしまう。
それが、スターシードの美しさであり、生き辛さなのだ。
私が今、常識的な慰めの言葉をかけたのなら、月並の励ましの言葉をかけたのなら、親切心としてそれらを受け取ってくれるだろう。
けれども、心にフィットしない言葉は、ろ過し切れていない言葉は、彼女に雑味しか残さないだろうことだけはわかっている。
今にも破裂しそうな感情をかかえている彼女に、必死に堪える彼女を前に、私にはかける言葉の持ち合わせがなかった。
だから私は、ハグをした。
私は味方です。
どうか、彼女の心の震えが止まりますように。
どうか、彼女の心が温かく安らぎに満ちていきますように。
そんな想いをのせて。
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