掌編小説・元カレMくんの話(後編)
第六章
アタシは中学3年生のT子。
ひょんなことから、片思いしてた同じクラスで同じ吹奏楽部のMくんと付き合うことになって、1週間が経ったよ♪
でもね。
この1週間、全然Mくんと喋ってないの。
お互い意識してるのは間違いないと思うんだけど、逆に意識し合ってるから喋れないのかな…。
夏休みの部活中も、目は合うんだけど、その瞬間お互いに照れちゃって、すぐどっちも下を向いたり逆の方を見たりして。
付き合う前の方が、気楽にお喋りとか出来てたのに、付き合うって難しいよね。
どうしよう…と思ってたら、部活のお昼休みに、後輩男子のAくんが、アタシに声をかけてくれたの。
「T先輩、M先輩が下の図書館の前で待ってるから、呼んできてって言われました」
えっ?
そういえばMくん、さっきから姿見なかったなぁ。図書館の前って、この真下じゃん。なに考えてるんだろう…。とりあえず行かなくちゃ。
「あっ、Tさん、ごめんね、こんな呼び出し方しちゃって」
「ううん、大丈夫。それよりこの1週間、全然Mくんと話せないのが寂しかったんだよ」
「ごめんね、本当に。俺がもっとTさんをリードしなくちゃいけないよね。これから頑張るからね」
「うん。せっかく付き合ったんだし、Mくんと仲良くしたいし」
「そこで、一つ提案なんだけど…」
「提案?」
Mくんは例によって顔を真っ赤にして、照れながら言ったの。
「今日からさ、あの、その、一緒に帰らない?なんて…」
「うん、いいよ!一緒に帰ろ♪」
「本当?やったー、嬉しい!」
Mくん、本当に嬉しそうだったなぁ。
「Mくん、音楽室の鍵を閉めた後、先生と話さないで、すぐ下駄箱に来てね。アタシ、下駄箱で待ってるから」
「うん、分かったよ!男子の後輩たちにも、先に帰ってくれって言っとくから」
「じゃあ今日から一緒に帰ろ♪」
やっとカップルらしいことが出来るって、アタシも嬉しかったんだよ。
で、やっとお話出来たから、Mくんにプレゼント💕
「プレゼント?えっ、ありがとう!嬉しい…けど何もお返しがない…」
Mくんは戸惑ってたから、
「お返しなんて要らないよ。その代わり、もっとお喋りしようね」
「あっ、うん。分かったよ。もっと話そうね」
「じゃあ…夕方、ね」
「うん、夕方、だね」
「バイバイ」
「バイバイ」
アタシが先に音楽室に戻ったの。アタシも照れちゃって、途中からMくんの顔を見れなくなっちゃって(*ノωノ)
音楽室に戻ったら、Kちゃんから早速聞かれたよ。
「Mくんと何か約束してきたの?」
「うん。今日から一緒に帰ることにしたの」
「おおっ、やるじゃん!TちゃんもMくんも。2人で一緒に帰るのは、やっぱり王道だよね、カップルとして…。うん、そうだよね」
「Kちゃん?」
Kちゃんはなんか思いつめた調子で言うから、驚いちゃった。N先輩と何かあったのかな。でもあまりこっちから聞くのも…。
で、その日の午後の部活で、早速Mくんはアタシがプレゼントしたミニタオルを使ってくれてたの♬
Mくんってすごい汗かきなんだ。合奏の時とか、見てて心配になるくらいに汗をかくんだよ。だから、初めてのプレゼントはミニタオルにしたの。
Mくんを見てたら、ふとMくんと目が合っちゃって、Mくんたら照れながらミニタオルを手にして振ってくれたよ。嬉しいな♪
そしてその日の放課後、アタシはあえてゆっくりと片付けて、Mくんよりちょっと前に音楽室を出て、下駄箱でMくんを待ったの。
Mくん、アタシを待たせちゃ悪いと思ったのか、必死に走りながら下駄箱に来てくれたよ。
「ゴメン、待った?」
「ううん、大丈夫だよ」
「じゃ、じゃあ、帰ろうか」
「うん!」
アタシ達は並んで歩き始めたの。
初めて2人きりで歩くから、色々お話ししたよ!
Mくんに聞きたいことも沢山あったから、質問攻めにしてたら、すぐにお別れの場所に着いちゃった。
「じゃあ、また明日部活で会おうね。バイバイ」
「あっ、ああ。バイバイ」
キャッ、Mくんと2人で帰れたよ💖
途中、誰にも見付からなかったけど、いつまで見付からずにいられるかな?
「お帰りなさい。T子、なんか凄い嬉しそうな顔してるけど、何があったの?」
「えっ、そんな顔してた?」
してた~と、妹や弟までお母さんと一緒になって言うから、白状しちゃった。
「アタシ、彼氏が出来たの」
「えーっ?いつの間に?相手の男の子は誰?」
「ちょっとお母さん、落ち着いて。先週からお付き合いしてるんだけど、同じクラスで同じ部活のMくん」
「Mくん?あら、部長さんじゃなかったっけ?アナタ、凄い人捕まえたのね」
「う、うん。なんかね、タイミングが合って…」
「良かったわね。でも勉強も頑張るのよ」
「分かってるよ~。じゃ、先にお風呂入ってくる」
体を洗って、シャンプーして、お風呂に浸かると、今日の楽しかったことが思い出されるの。
照れながら一緒に帰ろうって言ってくれたMくん、大好きだよ💖
第七章
せっかくMくんが誘ってくれた「一緒に帰る」だけど、一週間で終わっちゃった。
と言うか、アタシから終わりにしようって言ったの。
Mくん、勿論ビックリしてたけど、別れるわけじゃないよ。
ただ、2人で帰ってると、Mくんが凄い照れちゃって、なかなか話が噛み合わないんだ。
それに次々と部活のみんなに見付かっちゃったし。
だからちょっと冷却期間を置いてから、また2人で帰れるようになったらいいねって言ったんだけど、Mくんのこと傷付けちゃったかなぁ。
部活でも、物凄い落ち込んでたし、アタシの方をたまに見てくれてたのに、全然見てくれなくなっちゃった。
ごめんね、Mくん。
そのまま気まずくなって、吹奏楽コンクールまで、Mくんとは一言も話せなくって…。
そりゃそうだよね、アタシがせっかくMくんが勇気を出して一緒に帰ろうって言ってくれたのを、一週間で止めちゃったんだもん、Mくんはアタシに何を話しかけたらいいか、迷っちゃうよね。
だからなのか、男子の後輩君達が、吹奏楽コンクールに行くバスの中で、アタシとMくんが隣の席になるようにしてくれたんだけど、それも不発で…。
Mくん黙ってるし、黙ってるMくんになんて話しかけたらいいか分かんないし。
一回だけ、アタシが持ってきたお菓子食べる?って聞いて、Mくんがありがとう、って会話はしたんだけどね。
だからアタシ、殆どバスの中では、周りの女子と喋ってたの。
Mくんには悪かったけど、何かお話しするキッカケがあればよかったな。
コンクールの会場から学校へ戻ったら、Kちゃんが、何故かMくんとちょっとだけ話したいことがあるから、Mくん借りていい?って聞いてきたの。
それもアタシからMくんに伝えてほしいんだって。
何かよく分かんないけど、まさかMくんを奪おうなんてする話じゃないと信じて、KちゃんにMくんを貸したの(笑)
丁度Mくんと話せてなかったから、このことを伝えるだけでも会話出来て嬉しかったよ。
でもでもやっぱりKちゃんがMくんに話したいことってなんなのか、気になる~!
だからコンクールから帰った夜に、アタシ思い切って、Mくんのお家に電話したんだ。
Kちゃんとどんな話した?それとごめんね、2学期からまた一緒に帰ろうって言おうと思って。
でも最初に掛けたらMくん、お風呂に入ってたの。タイミング悪いよね。上手くいかない時は何やっても上手くいかない…。
でもその後、Mくんから電話が掛かってきたの!
ベルが鳴った瞬間、Mくんだと思って、アタシが取ろうとしたのに、お母さんが素早く取ったのはちょっと悔しかったけど。
でも電話で何を話したかは、アタシは舞い上がって殆ど覚えてないの。
Kちゃんについても覚えてない…。
だから、2学期からまた一緒に帰ろうってのも言えなかったんだ。残りの夏休みでデートしたい!って、もし言えたら言おうと思ってたけど、それも言えなかったの…。
実際、2学期が始まったら、クラスの班も班替えされて、Mくんとは離れちゃってクラスでお話しする機会が減っちゃったし。
部活も体育祭のマーチの練習で毎日大変だったから、なかなか話せないし。
あーん、全然会話すら出来ない!
Mくんは照れ屋だから、なかなかアタシと喋りたいのに喋れない、そんな様子が凄い伝わるの。
そんなことをKちゃんに相談したら、凄い怒られちゃった。
「んもう、何やってんの?結構沢山の女子が密かに憧れてたMくんと付き合ってるんだから、Mくんが照れ屋ならTちゃんが攻めなきゃ!」
「そうなの?Mくんって、モテてるの?アタシ、どうすればいいのかなぁ…」
「TちゃんもMくんも鈍いんだから!カップルの王道をやればいいのよ。交換日記とか、してる?」
「交換日記…してない」
「じゃあ、交換日記から再スタートしなよ。早速今晩書いて、明日Mくんに渡すんだよ」
「う、うん。やってみる…」
ってKちゃんには言ったけど、ノートに色々書くより、手紙にしてアタシの気持ちを伝えようって思ったんだ。
最近、アタシのせいかもしれないけど、クラスでも部活でもMくんが全然元気ないの。
だから元気出して!って手紙を書いてみたの。
次の日クラスでその手紙を渡したら、Mくん凄いビックリしてた。
お返事はすぐまた次の日に返ってきたけど、絶対別れを告げる手紙だと思ってたんだって。
それを読んでちょっと笑っちゃったけど、でもそう思わせてるのはアタシかもしれないから、しばらく交換手紙スタイルでMくんとコミュニケーションを取ってみることにしたの。
でもこれも…一ヶ月が限界だったかなぁ。
アタシ、全然受験勉強が出来なくなっちゃって。
家に帰ったら、2日に1回はMくんへの手紙を書かなきゃいけないでしょ?
段々とMくんには申し訳ないけど、重荷になっちゃったの。
だからお手紙も、アタシからMくんに送った手紙を最後にしちゃったの。お返事はもう要らないから、勉強頑張ろうって、前向きに書いたつもりだったんだけど、その手紙を渡した翌日、しばらくイキイキしてたMくんが、またドーンと落ち込んでてね…。
…アタシのせいよね。
でもさ、カップルなんだもん、照れたりとかしてないで、どんどんアタシに話しかけてほしいのも事実。
もうすぐ部活も引退だし、そうなるともっとアタシとMくんが話せる場面って減っちゃうしさ。
大体、カップルになってからの方が、全然Mくんとお話し出来てないんだよね。
カップルになる前は、他愛のないことを喋ったり、みんなで色んなこと話したりしてたなぁ。
アタシ達、付き合わない方が良かったのかなぁ…。
でもこのままお別れなんて嫌だから、最後の賭けに出てみる!
第八章
文化祭で吹奏楽部のステージを披露した後、次の部長を決めてから、アタシ達は引退するの。
去年はMくんが突然選ばれてビックリしてたけど、Mくんはよく頑張ったと思う。
だって2年生の途中で入ってきて、7か月後には部長だよ?
部長として1年間だから、部長だった期間のほうが長いんだよ、Mくんは。
色んな人が色々なことをMくんに言ったけど、よく耐えて頑張ったなって、アタシは思う。
そのMくんの次の部長は、チューバのIくんに決まったよ。
Mくんも肩の荷が下りたかな?
ほっとした顔して音楽室の鍵を、次期部長のIくんに預けてる。
会議も終わっていよいよ引退って時、後輩達がアーチを作って見送ってくれるの。
慣例で、副部長と部長が最後に歩くんだけど、Mくん、予想外に女子の後輩に泣かれてて、戸惑ってるよ。
そういえばKちゃんが言ってたなぁ…隠れMくんファンは沢山いるって。
本当なんだね。もしかしたらKちゃんも?なーんて。
彼は誰にでも優しいから、特に後輩の女の子がちょっとでも悩みとか相談したら、真剣になって一緒に考えてくれるから、その姿に惚れちゃうのかもね。
でも、今の彼女はアタシなんだから、最後の賭けに出てみるんだ。
外に出たMくんの姿を見付けて、後輩から囲まれてる間はちょっと隠れて待ってて…。
やっと1人になったかな?Mくん、音楽室の方を見て、目を潤ませてる。
ちょっと落ち着くのを待って、Mくんが下駄箱の方へ向かおうとしてるから、今がチャンス!
アタシは走って、Mくんに追い付いて、学ランの裾を捕まえたの。
「あっ、あれ?Tさん、帰っちゃってたかな、と思ってた。いてくれたんだね、ありがとう」
「うん。このまま吹奏楽部では夏以来喋らないままだなんて、嫌だったから」
「そうだよね。ごめんね、俺が不甲斐ないせいで…」
「ううん、アタシこそ。いつもアタシが勝手に手紙止めたり、一緒に帰るの止めたりして、Mくんを混乱させてたよね」
「いや、俺がもっとシッカリしなきゃいけないんだ。せっかくの彼女なのに、全然恋人らしいことしてないし、照れて喋れないからって、ついTさんを避けたり。情けないよね」
Mくんは下を向いて謝ってばかりだったから、アタシの最後の賭けを話してみることにしたよ。
「お互い反省してても先に進まないよ。あのね、来週からなんだけど、朝デートしない?」
「朝デート?」
「そう。国道の交差点で待ち合わせて、一緒に登校するの。ほんの数分だけど、2人で喋れるし、朝早く行けば教室にはまだ誰もきてないから、誰か来るまでお話しできるし」
「いいね、朝デート。じゃあその話に乗ることにして、何時に待ち合わせようか?」
「7時半でどう?」
「うん、いいよ。じゃ、来週の月曜日の朝、7時半に国道の交差点で待ち合わせようね」
よし!アタシの最後の賭け、上手くいきそうよ。
Mくん、このまま別れるなんて嫌だからね…。
第九章
2学期の後半は、期末テスト期間以外は、修了式までずーっとMくんと朝デートしたの。
楽しかったよ!
アタシ、この頃が一番カップルらしく付き合えてたような気がするの。
夏に一緒に帰ってた時のようなぎこちなさは、もうなかったよ。
前の日の話とか、テレビの話とか。
あっ、この時に2人で一緒に、同じ高校に行こうね、って決めたのよ。
アタシの志望校と、Mくんの志望校が偶々一緒だったの♪
だから朝デートも、盛り上がったんだ(*´艸`*)
途中でクラスマッチがあったんだけど、次の日にクラスの打ち上げとクリスマス会を兼ねて、忘年会をやったの。
もうみんな盛り上がって、1組の中で付き合ってるやつらは前に出ろ!って先生が言うくらいでね。
Fくんカップルと、Nくんカップルが前に出たんだけど、アタシの彼、Mくんは案の定照れて椅子に座ってる。
でも周りが許さなくて、結局Mくん、前に出さされたから、アタシも前に出たの。
そしたら先生が記念写真を撮るから腕を組めって言うの。
FくんカップルとNくんカップルは慣れてるのか、サッと腕を組んでたけど、最後になったアタシ達はお互いに照れちゃって(*ノェノ)キャー
でも最後は、腕組まなきゃ許してくれない感じになったから、アタシの右腕を、Mくんの左腕に絡ませたの(。>﹏<。)
きっと2人とも、真っ赤な顔になったと思うの。
その写真、結局どこに行ったのかなぁ。
そして2学期最後の日は、クリスマスイブ。
2ヶ月掛けて作ったアタシの渾身のプレゼント、手編みのマフラーと、安全地帯のアルバムをダビングしたカセットテープを上げたんだよ。
Mくんからは、オルゴールをもらったの。
アタシがマフラー上げた時のMくんの顔は、きっと忘れない。
本当に心から喜んでくれてたから。
Mくんとの朝デートは、3学期は高校受験直前だから止めることにしたけど、今回はMくんもガックリすることは無かったよ。
仕方ないよね、って言ってた。
高校受験で大変だけど、3学期もMくんと少しでも楽しくお話出来ますように♪
一緒の高校に行けますように🙏
第十章
3学期になったら、クラスの雰囲気もピーンと張りつめた感じ。
始業式の日、Mくんに話しかけようかな…と思ったんだけど、なんか、アタシのことなんか眼中にない感じで、無視されちゃった…。
最初は、えっ?と思ったんだけど、偶々だよね。受験で頭が一杯だから、アタシに気付かなかっただけだよね…。
でも次の日、その次の日も、Mくんとはお話出来なかったの。
なんで?
アタシ、朝デートは止めるけど、お話はしようねって言って、Mくんも納得してくれてたはずだよ。
なのに、なんでアタシと話してくれないの?
受験の話とか、志望校の話とか、Mくんとしたいのに。
そんな感じで悩んでたら、同じ班のYくんが、アタシの様子が変だと思ったのか、声を掛けてくれたの。
「Tさん、元気ないじゃん。Mと上手くいってないの?」
「あっ、Yくん…。うん、そうなの。3学期も仲良くお話とかしようねって言ったのに、アタシのことなんか眼中にないみたいに振る舞って、話し掛けてもくれないの」
「はぁ?それっておかしいよ。こんな時期だからこそ、付き合ってる2人は色々な相談とかし合ったり、勉強とかしたりすればええんじゃない?」
「でも、でも…」
アタシ、ウルウルしちゃって、ポロッと涙が溢れたの。
そしたらYくん、ハンカチ貸してくれて、
「無理せんでもいいんだよ」
なんて言うから、アタシ、ウワーッてYくんの前で泣いちゃったの。
Yくんはそんなアタシの頭をポンポンとしてくれて、
「元気出しなよ」
って、励ましてくれたの。
Mくんには悪いけど、この日、アタシはMくんを好きな気持ちを封印したわ。
代わりにアタシの心に入ってきたのは、Yくん。
辛い時に寄り添ってくれる男の子が頼もしく見えたんだ。
ただアタシは、Mくんに完全に見切りは付けなかったの。
自分で言うのも変だけど、1月24日は、アタシの誕生日なの。
もしMくんが、アタシの誕生日を覚えててくれて、どんなものでもいいから、手紙でもいいからアタシにくれたら、アタシを無視したのはアタシの思い違いってことにして、やり直すつもり。
誕生日に何もしてくれなかったら、もうアタシに興味がないんだと思って、別れる。別れて、Yくんに片思いさせてもらうわ。
そしていよいよアタシの誕生日が来たの。
そしたら朝の学活の前に、久しぶりにMくんが話し掛けてくれたの。
「あのー、Tさん、誕生日だったよね?プレゼントを下駄箱に入れておいたから、またお家に帰ったら開けてみてね」
「本当?嬉しい、ありがとう!」
アタシは一応そう答えたけど、気持ちは複雑…。
アタシの気持ちを元に戻してくれる?
前と同じようにお話出来る?
放課後アタシは急いで下駄箱に行って、Mくんからのプレゼントと手紙を確認して、お家に持って帰ったの。
期待しながら開けたら、目覚まし時計が入ってた。
一緒に置いてあった手紙が嬉しかったから、丁寧に封を開けて文面を読んだわ。
〘お誕生日おめでとう!Tさんには、今までプレゼントばかり上げてたから、今回は止めとこうと思ったけど、やっぱり誕生日だから、プレゼント上げるよ〙
……アタシ、悪いけど、この手紙が無かったらMくんとやり直したと思うの。
でも、何よこの手紙!
誕生日だから仕方ないけど上げる、そんなプレゼントなら要らない!
アタシ、Mくんと別れる。
でも学校の何処かに呼び出して、目の前で別れを告げると、Mくんはきっとその場でショックを受けちゃうから、手紙を書くわ。
《Dear Mくん。これは最後の手紙です。今までありがとう…》
ポタ、ポタと涙が溢れちゃう。
書き上げるのには時間が掛かるかな…。
手紙をやっと書き上げたのは、1月29日。
明日の朝、早く登校して、Mくんの机に入れておこう。と思ったんだけど、いざ30日の朝に早目に登校したら、Mくんの親友、2組のKくんとバッタリ出会っちゃった。
「あれ?何してんの?」
って聞かれちゃったから、手紙をKくんに預けることにしたの。
「分かるよね?これ、Mくんに渡して」
「手紙?何となく中身は分かるけど、なーんで俺が渡さなきゃいけないのさ」
「ここで出会ったのが運命よ。よろしくね」
アタシはそのままクラスに入って、様子を見てたの。
Mくんもいつも通り登校してきたけど、直ぐにKくんがMくんを呼び出してた。
廊下で何か話してるけど、話の内容は分かんない。
でも、どんな手紙かはMくんも分かるよね。
戻ってきたMくんの顔は、明らかに落ち込んでたから…。
その日の授業や休み時間は、何故かMくんはハイテンション。
でもアタシは反応しない。
前なら、Mくん何してんの!って突っ込んでたんだけど、今日は無視するのが辛かったわ。
逆にMくんは、アタシの近くでハイテンションになることで、アタシの反応を確かめてたと思うの。
で、アタシがなんの反応もしないから、それでもう全てを悟ってくれたのかもしれない。
次の日、Mくんはいつも通り登校して来たけど、明らかに泣き晴らした顔してたの。
そのMくんの顔を見たら、アタシまで泣きたくなっちゃった。
Mくん、ごめんね…。
どこでアタシ達は上手くいかなくなったのかな…。
照れ屋のMくんから話し掛けられるのを待ち過ぎたアタシが悪いのかな。
もっとアタシから話しかければ良かったのかな。
でももう、戻せない…。
アタシはMくんに別れを告げた以上、Yくんに片思いして、卒業式まで過ごしていくわ。
Mくんは昨日のハイテンションが嘘のように、全然元気がなくて、休み時間も机に顔を伏せたまま、ピクリとも動かない。
その様子は、次の日もだし、その次の日もだし、しばらく続いてた。
アタシがMくんから元気を奪っちゃったんだ…。
ゴメン、本当にゴメンね、Mくん。
アタシ、Mくんを物凄い傷付けたんだね。
3学期にあまりお話出来なかったけど、心の中ではそれだけアタシのこと、思ってくれてたんだね、ゴメンね…。
誕生日プレゼントの手紙が、アタシの中で思い出されるの。
照れ屋で不器用なMくんが、精一杯書いてくれた手紙だった。
でもその時のアタシには、あり得ない手紙だった。
あの手紙さえ無ければ…。
アタシは何とかMくんとやり直そうって思ったはず。
《Dear,Mくん、ありがとう。これがアタシからの最後の手紙です。アタシはMくんとカップルになれて嬉しかったよ。でもこれからはお友達関係に戻ろう。その方がお互いにとって、いいと思うの。
でも、お互いをもっと理解し合うようにすれば良かったよね。半年間、Mくんなりに一生懸命、アタシみたいな女とちゃんと付き合おうと頑張ってくれたのに。
いつかまたお話出来る日が来たら、Mくんのことをどれだけ好きだったか教えてあげたい。でもこれからはお友達として、なんて書いたけど、そんなの無理だよね?そんな日はもう来ないよね…。だから、手紙でアタシの気持ちを書いておくね。Mくん、大好きだったよ。本当にありがとう、ありがとう》
==================================
何とか今日で終わらせようとしたら、どえらい長文になりましたが、最後までお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m
元カノさんと和解して色々な後日談を聞いたりして、その時お互いにどう思ってたか、とかを飲みながら語り合ったのが2年前です(^_^;)
元カノさんは、2学期最後に一緒に登校してたことが忘れられない、と言ってくれました。
私はやっぱり最初の告白し合った日が忘れられないですね。
以上、ほぼノンフィクションの元カノさん視点での小説、終わりです。