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第13話:生きるということに命をかける

カエル「しばらくすると、Nみさんは食べることができなくなったよね・・・」

ミーちゃん「そうね、”大丈夫やで”って言ってくれてたけど、呼吸をするのもしんどそうに見えることがあったわ。」

 実際にNみさんは、呼吸をする時に肩を大きく揺することが増えてきた。穏やかに寝ているかと思うと、急に咳き込んで大きく息をすることが増えてきた。

ミーちゃん「”今日はしんどいからご飯はいいわ”って言うの。見ていて本当に辛かったわ。」

 そんな日々の中、カエルとミーちゃんは何度も娘さんに「会いにきてあげてほしい」と電話をします。今のNみさんには、車に乗って娘さんに会いにいくことはできません。

カエル「でも返って来るのは”忙しいから”だったね。Nみさんも一言も”会いたい”とは言わなかった。」

ミーちゃん「私たちがヤキモキしていただけね。」

 Nみさんのそばには、SNSから印刷した娘さん夫婦とお孫さんの写真、そして大好きな歌の歌詞が飾られている。

 カエルも、Nみさんのそばでその歌を口ずさむことが多くなってきた。

カエル「Nみさん、めっちゃしんどいはずなのに、”あんた以外と歌上手いやん”とかって笑うんだよ。」

 Nみさんが寝息を立てている時、ミーちゃんはそっとNみさんの額に手を当ててみた。

ミーちゃん「なんとも言えないじっとりとした汗をかいていたわ。」

カエル「それでも、Nみさんは僕たちに心配をかけないように”大丈夫やで”って繰り返していたね。」

 元々痩せていたNみさんだが、さらに見てわかるほどに痩せていく。胃ろうの注入も、痰の量が増えてしまうので、主治医の先生の指示のもと、徐々に最低限生命を繋ぎ止めるものへとなっていく。

ミーちゃん「なんていうのかな・・・命が少しずつ抜けていくような気がして、胸が締め付けられたわ。」

カエル「それから何度も娘さんに電話したけど、結果は”NO”だったよね。娘さんの旦那さんにもお願いしたけど、首は縦に振ってくれなかった。」

ミーちゃん「Nみさん、”孫の結婚式見るまでは死なへんで”って笑ってた。」

 そんなある日、Nみさんの容体は急変する。今までに見たこともないぐらい呼吸が激しくなり咳き込み始めたのだ。

 経験から、肺炎を起こしていることは一目瞭然だった。

カエル「救急車!!って思わず叫んでた。まだ死んじゃいけないって思いがはしったんだよ。」

 カエルは救急車を呼ぶと、すぐに娘さんに電話をかける。

カエル「”今度こそ本当に危ないかもしれない。生きている時に会えるのは最後になるかもしれない。一目でいいから会ってあげてほしい”。そうやって、電話口で叫んでしまってた。」

ミーちゃん「でも・・・来なかったわね・・・」

 カエルとミーちゃんは、Nみさんに付き添って救急病院に行った。救急車の中で酸素マスクをしながら、言葉にならない声を、Nみさんはカエルとミーちゃんに投げかけていた。

 その間も、呼吸の音は激しく、モニターの”ピッ、ピッ”という音と、Nみさんの呼吸音が救急車の中に響き渡っていた。

 病院に到着すると、Nみさんはタンカで運ばれていく。その時に、カエルとミーちゃんに投げかけたNみさんの視線が何かを告げていたような気がした。

 一通りの手続きを済ますと、待合室の椅子にカエルとミーちゃんは腰をかけた。

 救急の医師から「ご家族さんは?」と聞かれたが、事情を説明すると「わかりました、ではこちらから連絡するので連絡先を教えてもらえますか」と言われた。

 娘さんの電話番号を伝えると、医師は戻っていく。

カエル「あれほど時間を長く感じたことはなかったね・・・」

ミーちゃん「そうね。救急室の扉が開くたびにドキッとして。」

 しばらくして、先ほどの医師が救急室の扉を開けて、カエルとミーちゃんの方に歩いてくる。そして二人を救急室の中へ入るように声をかけた。

 二人が救急室に入ると、そこにはおそらく生命を終えたであろうNみさんが、タンカの上で眠るように横たわっていた。

 救急の医師から、Nみさんの”生命の終わり”を告げられる。医師から、ご家族と話をし、延命治療を行わないことになったことや、急性肺炎であったことなどが告げられたが、カエルとミーちゃんは、ただNみさんを前にして呆然としていた。

ーー次回予告ーー

 ”戦うおばあちゃん”として最期まで生きるために戦い、命をかけてきたNみさん。その80年にわたる戦いの人生が、ようやく幕を下ろした。

 Nみさんの思いとは?娘さんの思いとは?そしてカエルとミーちゃんは何を感じ受け止めたのか?

 次回いよいよ最終回「別れの刻」をお送りします。

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