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第10話:ミーちゃんの奮闘記② 〜食べるための工夫〜

 Nみさんがシェアハウス花に帰ってこられてから一週間が過ぎた。

ミーちゃん「やっぱり下痢が酷くて、今の栄養剤が合ってないんだと思ったわ。主治医の先生に相談して、いろいろ試してみることになったわよね。」

カエル「そうだね、本当にいろいろ試してみようってことになったね。」

ミーちゃん「Nみさんが病院から帰ってきた時、”一緒にもう少し生きることができるね”って思ったの。Nみさんとは昔からの長い付き合いだったから、余計にそう思ったの。」

ミーちゃん「胃ろうをすることで、しっかりと栄養が入るからって思っていたら、お腹の調子が悪くなったでしょ?吸収できてないなって。それにNみさん、随分痩せてきていたし・・・。」

 確かに、Nみさんは入院前と比べても痩せてきていた。頬はこけていたし、目もギョロっとした感じになっていた。
 腕や足は骨の形をしていたし、決して胃ろうをして改善したというような状態ではなかった。

ミーちゃん「とにかく必死だったわ。栄養剤の内容はもちろんだけど、口から食べることも、なんとかできないかと、寝る間も惜しんで考えたわ。」

カエル「ほんまに色々考えたよね。」

 ミーちゃんの工夫は多岐に渡っていた。

ミーちゃん「まずは主治医の先生と話して、胃ろうの注入を朝と夜に調整したの。」

 ミーちゃんはゆっくりと思い出しながら話し始めた。

ミーちゃん「どうしても一日三回注入すると、お腹いっぱいの状態が続いてしまうし。」

 胃ろうの注入は一回に”栄養250ml”と水分を”250ml”とかになるため、一回の食事で500mlのペットボトルを一本飲むことになる。しかも栄養剤は濃厚なこともあり、胃の小さくなったNみさんには重たい印象もあった。
 ミーちゃんは、それを朝夕の二回にすることで、昼に空腹の状態を作り出すことを考えた。

カエル「確かに僕たちでも満腹な時に、どんなご馳走を出されても、食べる気は起きないし、美味しくも感じないしね。」

 そして様々な栄養を試し、一回のカロリーが300kcalのものを選んだ。これで、一日に最低でも600kcalを摂取することができる。
 ほぼ寝たきりに近いNみさんの摂取カロリーとしては十分だ。水分は250mlを三回注入するので、一日に最低でも750ml摂取することができる。

ミーちゃん「Nみさんは、痰の量も増えてきていたから、摂取する水分にも随分考えさせられたわ。」

 摂取する水分が増えると、どうしても痰の量も多くなってしまう。しかし摂取量が少ないと、脱水状態になり、これもNみさんに負担がかかってしまう。

 ミーちゃんは、まずギリギリのラインを主治医とともに考え出した。

ミーちゃん「最終的に選んだ栄養剤で、Nみさんが下痢にならないこともわかったし、次はどうやって食べることをしていくかってことに悩んだわ。」

カエル「そうだね。やっぱり口から食べるってことはとても大事なことだからね。」

 二人が最初に選んだのは、プリンやゼリーなどの、喉越しの良い食べ物だった。これはNみさんにも合っていたようで、一度に食べられる量は限られていたが、むせることもなく摂取できていた。

カエル「この後も色々な食べ物を試すわけだけど、ミーちゃんの最大の工夫は、やっぱり食べる時の雰囲気作りだったと思うよ。」

ミーちゃん「それは本当に意識したわ。Nみさんは元々お話するのが大好きだったから、いっぱいお話ししながら食べてもらうことを心がけたわ。」

 ミーちゃんとNみさんの会話は、本当に多岐に渡っていた。Nみさんは元々お話し好きで、特に政治や社会の話をすることが好きだった。

カエル「ニュースを見ながら、選挙や政治の話をおもしろおかしくしていたもんね。」

ミーちゃん「Nみさんも、びっくりするほど詳しかったわ。昔の話ならともかく、今の話もしっかりとしていたから。」

 そうやって話をしている時のNみさんは、本当にイキイキしていた。

カエル「少しずつプリンとかゼリーを食べられるようになったね。それも同じものじゃなくて色々な味のものを食べていたよね。確かコンビニの全部の種類を食べたんだっけ?」

ミーちゃん「そうなの。何が食べれるだろう?とか言ってたのに、Nみさん”飽きた”とかいうのよ(笑)。だから”今日はこんなやつ”とか言いながら、毎回違うものを買ってきたのよ。」

 相変わらず体重は増えなかったが、少しずつNみさんにも”食べる”という気力が湧いてきたようだ。それでも、時折痰の量が多くなることがあった。

ミーちゃん「Nみさん、自分で痰を出すことができないから、看護師さんに吸引をしてもらっていたのよ。細い管が鼻から入るから、とても嫌がっていたわ。」

カエル「確かに鼻から管が入って痰を吸うわけだから、決して気持ちの良いものではないよね。よく頑張ってくれていたと思う。」

ミーちゃん「そんな風にしながら毎日がチャレンジだったわ。」

 Nみさんは、前述の通り、痰も多い。このため、食事をする際は、看護師さんと吸引機をスタンバイしてトライしていた。

 そうやってトライしているうちに、少しずつNみさんに変化が現れ始めた。”食べたい”という気持ちが、本当に少しずつだが生まれてきたのだ。

ミーちゃん「そしてある日、Nみさんが私に言ったの。”お肉が食べたい”って!」

 それはもう何ヶ月ぶりに聞く、Nみさんの”食べたい”という思いだった。

ーーー次回予告ーーー

 いよいよNみさんが、プリンやゼリーなどではなく、形のあるものを食べることになります。カエルとミーちゃんが諦めなかったように、Nみさんも諦めていませんでした。
 
 Nみさんにとって、”食べる”ということ、そして”美味しい”ということ。カエルとミーちゃんは改めてNみさんが”戦うおばあちゃん”であることを実感します!

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