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第11話:胃ろうと焼肉。塩胡椒であっさりと。
ミーちゃん「本当にNみさんの一言にはびっくりしたわ‼️」
カエル「プリンでも精一杯なのに、”お肉”だもんね💦」
ミーちゃん「しかも、いつものように”塩コショウでな”だもの。」
Nみさんは、にやっと笑いながら二人を見てそう言ったのだった。確かに一人で暮らしていた時、当時ヘルパーだったミーちゃんに、よく馴染みの肉屋さんから、薄切りのすき焼き用の牛肉を買ってきてもらい、自分で焼いていた。
しかも300gとか、結構な量を食べていたのだ。
ミーちゃん「正直びっくりしたけど、”食べたい”って言ってくれたことが嬉しかったわ。」
カエル「そうだね、まだまだうちは生きたるでっていう風に聞こえたよね。」
カエルはミーちゃんに店を聞くと、すぐに買いに走った。もちろん買ってきたのは当時と同じ牛肉を300gだ。
ミーちゃん「買ってきたお肉を店の包み紙ごと見せると、Nみさん目を細めて喜んでいたわ。」
包み紙を見たNみさんは、本当に嬉しそうで、喉が鳴っているような気がした。
ミーちゃん「私が、昔と同じように台所で肉を焼いていると、カウンターキッチンの前に車椅子で座って、嬉しそうに眺めていたわ。」
そう、Nみさんはカウンターキッチンの前に車椅子でやってくると、焼き加減をあれこれとミーちゃんに指示し始めたのだ。
ミーちゃん「私も、フライパンで焼いているお肉を見せながら、Nみさんに”これぐらい?”なんて聞きながら焼いたもの。」
カエル「Nみさんは味にうるさかったからなぁ💦」
カエルは、ミーちゃんが肉を焼いている間に、シェアハウスの1Fにある喫茶店に行き、白い大きな丸型のお皿を持ってきた。
ミーちゃんが焼き上がったお肉を、食べやすいように一口に切ろうとすると、Nみさんは、もう動かしにくくなった右手を横に振って「何すんねん、そのままでいいがな」と笑っていた。
ミーちゃんもカエルも、少し躊躇いながら、言われた通りに白い丸いお皿に、焼きたての少し塩胡椒の効いたお肉を綺麗に並べていった。
ミーちゃん「できたお肉をNみさんの前に置くと、本当に嬉しそうな顔をしたわ。」
カエル「あの時の顔は、家にいた頃のNみさんの顔だったね。なんとも言えない”ニヤッ”とした顔だったね。」
しかしNみさんは、体力も落ちていて、箸を持つこともできない。食べさせてあげようとミーちゃんが箸を持つと、Nみさんはまたしても動きにくい右手でそれを制した。
そして、手づかみで一切れお肉をつまむと、それを口に放り込んだ。
カエル・ミーちゃん「⁉️⁉️⁉️」
Nみさんには、歯がない。義歯もあったが、痩せてしまった彼女には合わず、今はしていない状態だ。
それでもNみさんは、お肉を一切れ、口の中に放り込んで噛み締めていた。
ミーちゃん「時々”ゴクッ”って音が聞こえるのよ。その度にヒヤヒヤしたわ。喉に詰まってしまうんじゃないかって・・・」
カエル「僕も同じだよ。だってもう飲み込むことが辛くなっているのを毎日見ていたから。まさかお肉を食べるなんて、想像もしていなかったんだ。」
ひとしきり噛み締めた後、なんとNみさんは、口の中からすっかり味のなくなったお肉を取り出した。
そして、白い皿の隅にそのお肉を置くと、次の肉をまた摘んで、口に中に入れた。
カエルもミーちゃんも、本当はわかっていた。Nみさんが、もう口から食べ物を飲み込むことなんかできなくなっていることを。
それでも、しきりに噛み締めては、皿の隅に取り出し、次々と新しい肉を口の中に入れていく。
カエルとミーちゃんは、喉の奥に何か詰まったような、胸の奥が熱くなるような、なんとも言えない気持ちに包まれていた。
ひとしきり噛み終えると、Nみさんはカエルとミーちゃんの満面の笑顔で”ご馳走さん”と笑っていた。
白い丸いお皿の隅っこには、すっかり色の薄くなったお肉が山積みになっていた。
ーーー 次回予告 ーーー
お肉を”完食”したNみさん。カエルもミーちゃんもそのことに驚いてばかりもいられなかった。
日々、Nみさんの命の炎は小さくなっていく。
次回、命の炎を燃やし続けるNみさんの戦いは続く。「Nみさんの願い」をお送りします。