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第4話:シェアハウスでの新たな日々
カエル:「Nみさんがシェアハウスに移って、最初の数週間は結構大変だったよね。」
ミーちゃん:「そうね。彼女自身は『ここなら大丈夫』って言ってたけど、周囲との距離の取り方には少し苦労してたわ。」
カエル:「まあ、それまでずっと“自分のやり方”で生きてきた人だからな。共同生活に慣れるには時間が必要だったんだろうと思う。」
Nみさんがシェアハウス花に移住してから、最初の数週間はまさに“試運転”だった。彼女はこれまで長い間、一人暮らしを貫いてきた。そのため、他の住人と一緒に生活すること自体が新しい経験だったのだ。
彼女は自分のペースを大事にした。朝はゆっくり起きて、好きなラジオを聞きながら過ごす。昼は訪問介護のスタッフと話をしながらリハビリを兼ねた動きをする。
そして夕方には、住人たちと食堂で顔を合わせることが少しずつ増えていった。
カエル:「最初の頃は、食事の時間になってもなかなか食堂に来なかったよね。」ミーちゃん:「ええ。でも、無理に誘うことはしなかった。彼女が自分のタイミングで来るのを待つことにしたのよ。」
新しい人間関係の構築Nみさんは、少しずつシェアハウスの住人たちと関わるようになっていった。特に仲良くなったのが、同じく独自の人生を歩んできたAさんだった。
ミーちゃん:「Aさんとは最初から意気投合してたわね。あの二人、性格は違うのに妙に波長が合ってたのよ。」
カエル:「そうそう。最初はお互いに強がってたけど、結局“戦友”みたいになったよね。」
Aさんもまた、波乱万丈な人生を歩んできた人だった。長年の職業経験を経て、最終的にシェアハウス花にたどり着いた彼女は、Nみさんとは違う形で“戦う人”だったのだ。
カエル:「二人で百貨店に行った話、覚えてる?」
ミーちゃん:「ああ、思い出した。あの日はNみさん、本当に楽しそうだったわね。」
ある日、Aさんの提案で、Nみさんを連れて近くの百貨店へ買い物に行くことになった。
Nみさんは「私は行かん!」と最初は強がっていたが、最終的には「まあ、付き合ったるわ」と言って参加したのだった。
店内では、自分で洋服を選んだり、お菓子を買ったりと、久しぶりの“お出かけ”を満喫したNみさん。
普段は「私は何もいらん」と言い張る彼女だったが、その日はAさんと並んで楽しそうに買い物をしていた。
ミーちゃん:「彼女は、自分が“楽しんでいる”と悟られるのが嫌だったのかしら?」
カエル:「かもな。照れ隠しってやつだろ。でも、楽しそうにしてるのがバレバレだったけどね。二人でお互いの帽子を選んでいる時なんか、まさしく「笑顔がこぼれ落ちている」って感じだったね。」
“施設”とは違うシェアハウスの生活Nみさんは、他の住人とも少しずつ打ち解けていった。特に、毎晩の食事時間には誰かと会話を交わすようになった。
カエル:「最初は食堂にも来なかったのに、気がつけば自分から『ご飯の時間やな』って言うようになったよね。」
ミーちゃん:「ええ、それも自然とそうなっていったのよね。」
シェアハウス花は、一般的な“施設”とは違い、決まった時間に一斉に何かをする必要はなかった。自由度が高く、住人それぞれの生活リズムを尊重していた。
それが、Nみさんにとっては心地よかったのだろう。
彼女は、ここが“家”だと感じ始めていた。
カエル:「彼女が『施設には絶対に入りたくない』って言ってたのが、今ならよくわかるよね。」
ミーちゃん:「そうね。彼女にとって大切なのは、ただ“住む”ことではなくて、“自分らしく生きる”ことだったのよ。」
問題児扱いされた彼女の真実Nみさんがシェアハウス花に移ってしばらくした頃、以前の市役所の職員や地域包括支援センターの担当者が彼女の様子を聞きに来たことがあった。
カエル:「あのときの『問題児のNみさんはどうですか?』っていう言葉、今思い出しても腹立つよね。」
ミーちゃん:「ええ。まるで、彼女が“厄介者”として扱われるのが前提みたいな言い方だったもの。」
確かに、Nみさんは周囲と衝突することも多かった。しかし、それは彼女なりに必死に生きるための“戦い”だった。
シェアハウス花での彼女は、確かに頑固なところはあるが、笑顔も増え、仲間と過ごす時間を大切にするようになっていた。
カエル:「僕は言ってやったよ。『彼女を取り巻く環境が変わったから、毎日笑ってますよ』ってね。」
ミーちゃん:「……あなた、若かったわね。でも、間違ったことは言ってないわ。」
結局、人の問題行動は、その人自身ではなく、環境の問題であることが多い。Nみさんは“問題児”ではなかった。
彼女を理解し、彼女の生き方を尊重する場所がなかっただけなのだ。
シェアハウスでの生活が始まってから数ヶ月後、Nみさんはすっかりここでの暮らしに馴染んでいた。
カエル:「彼女、シェアハウスに来る前より、表情が柔らかくなったよね。」
ミーちゃん:「ええ、きっと“生きやすくなった”のよ。」
Nみさんは、ここで新しい日常を手に入れた。それは、彼女にとって“終の住処”ではなく、“これからの人生を楽しむ場所”だった。
次回予告
次回は、彼女が迎える新たな試練「胃ろうの決断」について描きます。