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【たべもの九十九・み】水羊羹〜おせち料理は買う派?作る派?

(料理研究家でエッセイストの高山なおみさんのご本『たべもの九十九』に倣って、食べ物の思い出をあいうえお順に綴っています)

今年も残り2日。おおかたの家では掃除を済ませ、正月準備も終えていることだろう。我が家は大掃除はできず、いつもの掃除の拡大版くらいで、正月飾りだけ整えた。あとは年末年始の食事の準備だ。スーパーに行くと、お正月食材がたくさん並んでいる。小分けの商品を買ってお重に詰めるだけでも立派なおせち料理ができる。いい時代だと思う。

昨今はローストビーフだの蟹づくしだの、和洋折衷だの、中華風だのいろいろなおせちがあって、買うにしても迷う楽しみがある。買うという選択肢があるだけでもありがたい。私も2020年のお正月は少人数用のおせちを買った。

父親が旅館の料理長をしている友人がいて、お正月はいつも3ヶ所のおせちを取り寄せて試食がてら食べるのだと聞いたことがある。豪華なお正月料理だね、と笑って聞いたが、実は私は買って食べたおせちは、何が美味しかったかあまり覚えていないことが多い。目には鮮やかで楽しく美味しいのだが、おせちは手料理のものが好きだ。

自家製おせちは作るものと買ってきて詰めるだけのものとあり、見た目にも立派とはいえない仕上がりだが、やはり自分で作ると愛情が湧くのか、不細工だけれど美味しいのだ。なので今年は作ることにした。

2022年の元旦に食べるおせち。なんにしようかな。20年来愛用している会津塗の三段重があり、おせち作りはこの三段をいかに埋めるか考えるところから始まる。

家族が好きなもの・・・数の子、田作り
私が好きなもの・・・かまぼこ、伊達巻、きんとん
この5つは必ず入れる。伊達巻は自分で焼く。厚く焼けないのでナルトみたいな伊達巻になるけど、甘すぎず好きな味になる。きんとんはさつま芋を蒸して潰して裏漉ししてバターと砂糖とメープルシロップを入れて洋風仕立てにするのがうちの味。巾着型に仕上げるのもうちのスタイル。

肉っぽいものも欲しいよね。ちょうど長崎から届いたばかりのだるま放牧豚の塊肉があるから、塩胡椒とハーブを表面にまぶして寝かせてから焼いてローストポークにしよう。黒豆は自分で煮たら美味しいけれどいつも余るので今回は買うか。海老は茹でたやつにスパイシーなトマトサルサを添えてシュリンプカクテルにしよう。酢だこときゅうりとプチトマトのマリネ、大根と人参の紅白なますに、松前漬けは面倒だから人参とさきイカをお酒と醤油で和えるいか大根でいいや。お煮しめはいるよね。れんこんの黒酢きんぴらも作ろう。魚は鰤の照り焼きかなあ。昆布巻きは少しだけは作れないからなしか美味しそうな市販のものがあったら買うか。
これだけあったら三段埋まるんじゃない?足りなければまたその時にある物を詰めたらいいか。そうだ、スモークサーモンとハムも買っておこう。おせちじゃなくても使えるし。まあ、そんなところで。

自分会議終了。

これを書いている時点ではこのおせちは作っていないので写真はないが、過去に作った自分おせちはこんな感じ。この時の海老は有頭海老を中華風に味付けたものだった。伊達巻ときんとんがうちのおせちの象徴的存在。

うちのおせちの中に、本当はあと一つ入れたいものがある。それは、子供の頃食べたおせち料理には必ずといっていいほど入っていた水羊羹だ。

水羊羹といえば、俳句の夏の季語であり、おおかたの地方では暑い季節に好んで食べられる和菓子であろう。けれど、私が生まれ育った土地では冬に食べる物であった。
私は栃木県の宇都宮の生まれで、父の生家は日光市にある。栃木でも日光地方だけなのかもしれないけれど、水羊羹は冬の名物で、母の作るおせちにも、親戚の伯母たちが作るおせちにも、水羊羹が入っていた。

いわゆる煉羊羹と違って、水羊羹は甘く冷たく、口の中に入れるとホロリと溶けて喉を通っていく。子供の私にとっておせち料理はさほど魅力的な食べものではなかったが、お肉とかまぼこときんとんと水羊羹はよく食べた。

日光といえば世界遺産にも登録されている「二社一寺」の日光東照宮、二荒山神社、輪王寺があり、昔から多くの参拝客が訪れた。その参拝客向けに売られていたのが羊羹だ。そして小豆と砂糖と寒天と日光の名水で作られる水羊羹は、水分が多くて腐りやすいため、冬の雪の季節にのみ供されるものであったようだ。

日光駅から日光東照宮に向かう日光街道沿いには、昔からの羊羹店がいくつもある。特に三ツ山羊羹本舗と鬼平の羊羹本舗と吉田屋ようかん本舗は互いに目と鼻の先にある。ちなみに鬼平は「おにへい」ではなく「きびら」と読む。小学校だったか中学校だったか、この羊羹店の親戚筋の同級生がいた。名前はもちろん鬼平くんだった。

どの店の水羊羹もそれぞれに美味しいが、母は三ツ山が一番といって、そこでしか買わなかった。久しぶりに食べたいなあと思って、ネットで検索してみたら、湯沢屋という上記三店以外ではあるが、やはり老舗の和菓子屋の水羊羹が通販されていたので取り寄せた。それがタイトルに入れた写真である。

さっそく緑茶を入れて、日光水羊羹を食べた。固形お汁粉みたいな感じで、本当に口の中でほろっと溶けていく感じなのだ。子供の頃から当たり前に食べていたのでこの食感が私にとっての水羊羹なのだが、長じていろいろな地方、デパ地下和菓子店の水羊羹を食べてみたら、日光水羊羹以上に柔らかく瑞々しいものがなかった。水羊羹は日光に限る。日光に来ることがあったら是非食べてみてください。

水羊羹を食べながら過ぎゆく2021年に思いを馳せる。東京オリンピックってそういえば今年だったんだよな、とそれが遠い過去に感じられるくらい、今年も色々なことがあった。

中でも、ずっと書きたいと思っていた50音で綴る食のエッセイを書けたことは、私にとって大きな出来事であった。始めた時は年内に終えるつもりだったが、終わらなかったのは食の思い出に真摯に向き合ったからだ。…ということにさせてください(笑)。来年もこのエッセイを続け、完結させるという目標があることがうれしい。

不定期の食べ物語りを楽しみにしてくださっている方がいることに感謝し、幸せを感じて、この回が2021年の最終回となります。良い年を迎えてください。2022年は「む」からスタートします!

★★★いつも読んでくださってありがとうございます!「スキ」とか「フォロー」とか「コメント」をいただけたら励みになります!最後まで、食の思い出にお付き合いいただけましたら嬉しいです!(いんでんみえ)★★★

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