【最近は、こんな感じ】 テクノと編み物。
上海で生活する女の子たちの日常って?
ファッション、メイク、食べもの、よく行くお店。あと、普段考えていること。悩んでいること。そして目標。
そんなあれこれを、同じ目線で聞いてみた。
@mie_shanghai
11 王烵萻
DJ D3M3NTORこと王烵萻さんとは、
古民家の庭で知り合った。
話に底がなくて、その日は昼下がりから
夜遅くまで飲んでしまった。
今日はどんな意外なエピソードが
聞けるのだろう。
――朱家角(上海市青浦区の古鎮)に住み始めたのはいつですか?
王烵萻 2019年です。ここを選んで来たわけではなく、偶然。親と喧嘩してしまって家に帰れなかったとき、友達が「来れば?」と呼んでくれたのがきっかけ。来たら、離れられなくなってしまった。
――最近は毎日何をしていますか?
王烵萻 ご飯食べて、寝て、音楽聴いて、本を読んで、映画観て、編み物。あとは、近所のカフェ『小宅珈琲』でひなたぼっこ。
――朱家角のいいところを教えてください。
王烵萻 静かでスローで空気がよくて、リラックスできるところ。友達が家族みたいなところ。上海の市街地はせかせかしている人が多いですよね? 友達とも、目的がないと会えないですよね? でも朱家角には用がなくても会える人がいっぱいいる。
――市内のイベントでも自作のニットを販売していたり、イラストを書いたりもしていますよね。デザイン系の勉強はしていたのでしょうか。
王烵萻 勉強は全然してないです。私、中卒だし。デザインとかより、新聞記者になりたかったな。戦場や紛争地域で取材したりする人になりたかった。で、当時「新聞を制作する会社」に入れるっていう話があって、「え!」と思って飛びついたら、新聞を刷る印刷会社だったことがあったり。そんな感じですね。絵はそのあと、タトゥーの師匠に弟子入りしたときに。自分で学費を払ってしっかり勉強したのはそのときくらいかな。
“毛糸が好きになってくれた”
――でも、編み物もかなりの腕前。デザインもゼロからですよね。
王烵萻 編みながら形を決める感じ。編み図みたいな、人が指定したものどおりにつくれないから。毛糸に、「何になりたいの?」って聞きながら編みます。だから、帽子を作ろうと思ってもバッグになったりする。
――編み物を始めたのはいつですか?
王烵萻 2021年です。朱家角に来てから。よくいっしょに遊んでいた編み物がうまい人がいて、でも私は全然興味なかったから、彼女が編み物に没頭しているときにまわりで「遊ぼうよー」としつこく誘っていたんですが、多分「うるせぇよ」と思ったんでしょうね。その人が編み方を教えてくれた。で、30分くらい教わったらけっこうできてしまって、すぐに「編み物、好きだ!」と思って今に至る感じ。夏も編んでます。
――烵萻さんの作品はほかにない感じだし、すごい才能を感じるのですが。
王烵萻 編み物のアーティストなんてほかにもたくさんいますよ。でも、私は毛糸のほうが私を好きになってくれた感じがする。そう感じたのは、編み物を教わったあの30分間です。
――ファッションにこだわりはありますか?
王烵萻 ないですね。最近の洋服の調達先は『Savvy』(音楽や古着、サブカル好きが集うイベントを企画するグループ)のフリマかな。会場の一角に、洋服を交換できるブースがあって。だからここ数年服は買っていません。そのほうがエコ。
――で、DJとしても本格的に活躍している。
王烵萻 始めて5年くらい。地方都市にも呼ばれたり、上海市内だと『Elevator』や『SYSTEM』で活動しています。好きなジャンルはテクノ、EBM、ハウス。でも、テクノがいちばん好きかな。ドイツにも行ってみたい。
“お勧めは広州。『中華一番!』が好きだから”
――影響を受けたDJやミュージシャンは誰ですか?
王烵萻 いちばん好きなのはDJ SNTS。ほんとにかっこいい。あとはDJ KRUSH。半野喜弘も好き。彼の映画音楽、すごく好き。あとは、子供のころ好きだったのは伍佰(台湾のミュージシャン)。与非門(広州のロックバンド)も好きだな。子供のころ夢中になった人が、今も変わらずライブやったりしているのがすごく感動する。私もバンドやりたいな。ボーカル担当で。有名になりたいな。
――烵萻さんもDJとして中国各地のイベントに呼ばれますよね。現時点ではまだ日本からの中国旅行は解禁されていませんが、初めて中国旅行をする人にお勧めの場所はありますか? 最近はどこに行きましたか?
王烵萻 最近行ったのは西安、青島、桂林、大理、成都、杭州、海南島。あと、友達の結婚式で内モンゴルにも行った。印象的だったのは、海南島の海口かな。古い民家がたくさんある。で、どの自転車もハンドルに茶碗がくくりつけてあって、ベルではなくてそれを棒で叩きながら路地を走ってるんです。四川省の楽山もお勧め。ものすごい大仏がある。雲南省もいつ行っても気候がいいのでお勧め。あとは広州。食べ物が全部おいしい。旅の日程を決めるなら、一週間は“食べる日”にしてほしいですね。『中華小当家!』の舞台だし。
――『中華小当家!』? あ、『中華一番!』の中国語名ですね。
王烵萻 幼稚園のころ、テレビで見ていちばん影響を受けたアニメ。今もすごく好き。かっこいい。料理ができあがるシーンとか、食材が新鮮すぎて餃子が動いたり。
――日本のアニメ好きは上海にたくさんいるけど、『中華一番!』がいちばん好きって、めずらしい……。
王烵萻 影響を受けたものはいろいろあって今すぐには思いつかないけど、間違いなく好きなのは『中華一番!』。
――では、10年後、王烵萻さんは何をしていると思いますか?
王烵萻 今住んでいるこの通りが再開発されるという噂があって、そうしたら引っ越さなければならないのだけど、荷物が多すぎてどうしたらいいかと悩み中。だから、10年後くらいに固定の荷物置き場がほしいですね。彼氏はすごい募集中。子供は痛いから生みません。でも、親がいない子供がたくさんいるでしょ? そういう子を引き取って育てたいなと思ったりもしています。
(取材日:2023年2月16日 撮影地:朱家角)
<彼女のお勧め>
『小宅珈琲』(上海市青浦区朱家角古鎮東井街27号)
☆友達が開いたカフェ兼居場所。庭のある文化財住宅を店舗にしている。
『Elevator』(上海市徐匯区南丹東路265号B1)
☆クラブではここがいちばん好き。音が安定していて心地いい。お酒のメニューもよい。
『大眼麺館』(上海市黄浦区魯班路101-103号)
☆すごいおいしい。上海の伝統的な麺料理店で、炒めたての具材をのせてくれる。
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萩原晶子
フリーライター。上海にて2007年頃よりガイドブック、ファッション誌、機内誌、ウェブなどの記事を手がけている。
カルチャー誌『Ketchup.』(上海と東京で販売)など。
ins:@hagiwara_akiko_
微博:Akiko06
photo
阿部ちづる
2006年にフォトグラファーとして独立。ファッション誌、ビューティー誌、週刊誌、写真誌等のグラビア、ポートレート写真を撮影。アイドルグループやグラビアモデルからのアーティスト写真撮影で指名されることも多く、女の子の新鮮な表情を切り取る。
佐々木希『ささきき』(集英社)、武田玲奈『Rena』(集英社)ほか多数。
ins:@chizuru0821
https://lov-able.com/photographer/chizuru-abe