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「もう遅い」なんてことはない。あなたのペースで一歩ずつ踏み出そう〜北勢地域若者サポートステーション〜
「1人で悩んでないで、話しにおいでね。」
これは北勢地域若者サポートステーションの支援員が、就職に悩む人たちにいつも伝えている言葉です。
サポステは、15~49歳の無業状態の方を対象に自立・就労支援をサポートする機関です。県内には4つのサポステがあり、今回は北勢地域若者サポートステーション(ほくサポ)の取り組みをご紹介します。
ほくサポでは、就職活動に必要なスキルの習得だけでなく、支援員と相談を重ねながら個々の強みを引き出し、自信を持って社会に踏み出せるような準備をすることができます。また、就労体験ができるカフェ「スプラウト」では、実際の職場に近い形で “働くトレーニング” を行い、失敗を重ねながら成長できる機会を提供しています。
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「一歩踏み出したい」「でも不安がある」
そんな気持ちを抱えている方こそ、ぜひ足を運んでほしい場所です。
就労支援の取り組み
ほくサポがあるのは、近鉄四日市駅の近くの諏訪商店街。階段を上がり、扉を開けると笑顔で迎えてくれたのは、所長の小林理華さん。現在ほくサポには、小林さんを含め5人の支援員が在籍しています。
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来所したら、まずは面談からスタート。相談内容をしっかりと聞き、悩みに寄り添って社会復帰までの道のりを一緒に考えていきます。キャリアコンサルトや産業カウンセラー、臨床心理士などの資格を持った支援員が行うため、安心して相談することができます。
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「中には過去の就労経験からトラウマを抱えている方、引きこもりが長い方など、その手前で立ち止まっている人もたくさんいらっしゃるんです。まずは会話の中で悩みをときほぐし、徐々にその方の個性を引き出せるようにコミュニケーションを重ねていく。個性が出てきたらそれを全力でアピールできるように、就職活動の後押しをしていきます」
トレーニングカフェを通じて社会復帰へ
ほくサポの真向かいのビルの一階には、“働く”トレーニングカフェ「スプラウト」があります。こちらは、ほくサポを運営する団体が運営しており就労に向けて一歩を踏み出すための、ゆるやかなトレーニングの場です。本人の状態や希望を考慮して、仕事内容(清掃、調理、接客など)や勤務日数を決めて働くことができます。
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スプラウトは、自分に自信を取り戻し、次のステップに進むための場所。
「やはり最初は人と関わりたくないという人も多いので、まずはキッチンの中で調理を担当してもらって、慣れてきたら、できる方には接客にも挑戦してもらうようにしています。普通の飲食店だと、ミスをすると怒られることもありますが、ここでは何回失敗しても大丈夫。支援員が側でサポートしながら、少しずつ仕事を覚えていける環境なんです」
失敗は経験のもと。そうやってプラスに捉えることもトレーニングのひとつです。スプラウトで働くうちに、他人と接する恐怖心がやわらぎ、仕事に就くことができた方もいます。
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「場面緘黙症で5年ほど引きこもっていた方が、家族と一緒にサポステに来てくれました。家では話せるけれど、外ではほとんど言葉が出ないという状況でしたが、何度も支援員と話すうちに少しずつ言葉が出るようになりました」
とはいえ、「自分に何ができるかわからない」「いきなり仕事に就くのは怖い」と、不安は大きいまま。でもその方の挑戦したいという気持ちを感じたため、まずは1週間スプラウトで働くことを提案したそうです。
「店長と顔合わせをすることになったんですが、ちゃんとしなきゃと思ったのか、まるで面接のようにはきはき話し出したんです。みんな『すごいじゃん!』って驚いて。働いてみたら、仕事も問題なくこなせるし、最終日は接客にも挑戦したんですよ。本人も『やってみたら、できるんだ』と驚いていました」
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スプラウトの経験で自信を持ち、一歩踏み出した彼女。現在は清掃業に就いて働いているそうです。働くトレーニングは氷河期世代の方でも体験することができます。
「年齢を重ねるほど、『家にこもってる』『仕事に就いていない』そんな自分を責めてしまう。それならばここに来て、できることから始めてみてほしい。最初から出来なくてもいいんです。まずは “何かやろうとしている自分”を大事にしてあげてほしい。スプラウトは自信を取り戻し、次のステップに進むための場所なんですから」
「働く」を学ぶ集中訓練プログラム
ほくサポでは年に2回、40日間集中的に就職に必要な知識を学ぶ「集中訓練プログラム」があります。三重県内では、ほくサポでしか受けられないプログラム。就職に向けて準備ができていない方はもちろんのこと、就職活動中の方も参加することで新たな学びや発見、気づきがあります。
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「履歴書の書き方や面接など就職に関する講座だけでなく、簿記三級の資格が取れたり、メンタルヘルスについて学んだり、働くことについて多角的に学ぶことができます。氷河期世代は、“働く機会に恵まれず学ぶ事が出来なかった方もおられます。プログラムでは短期間で集中的に学び直し、就活に挑む力を身につけることができます」
4泊5日の合宿もあり、40日の間に「ともに頑張る仲間」ができることも。
「20〜40代の幅広い年代の方が参加されますが、中にはプログラムが終わっても連絡をとり合うなど、年代を超えた仲間ができています。仕事の知識だけじゃなく、人とどう関わるか、どうコミュニケーションを取ればいいのか。そんなことも改めて身につけられる機会になっています」
中にはプログラムをきっかけに7年間の引きこもり生活から脱出したという方も。自分のやりたいことを見つめ直し、現在は生きにくさを抱える方の支援員になるべく、勉強を始めたそうです。
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就職はゴールではなく、スタート
サポステには実際に職場での体験を行う「職場体験」というサポートもあります。現在、製造業、運輸、ビジネスホテル、介護など86社ほどの登録企業があり、その中から利用者が興味の持った企業を選ぶことができます。体験を行い「この仕事なら続けられそう」「職場の雰囲気が合いそう」と感じた場合は、求人に応募し、面接へ進みます。
「自分自身の作業ぶりを見てもらったうえで、採用が決まります。採用に繋がらなかった場合でも、企業の受け取り方が参考となり、比較的早く別の企業に就職することも多くあります。」
その後、実際に就職が決まった後も、サポステの支援は終わりません。定期的に面談を行い、1か月、6か月、1年…とフォローを続けます。
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「実際に働き始めると、職場での悩みやストレスを感じることも多いんです。これまでは継続して勤務することができなかった方が『サポステで会社では言えない愚痴や不安を吐き出せているから、続けられそう』と言って頑張っていらっしゃる。話すことで少し心の負担が軽くなることもあるんですよ」
中には1年ほど働いた後、サポステのサポートを卒業していく人も。
「 この仕事をやっててよかったなと思うのは、利用者さんが『就職決まりました!』と言いに来てくれたとき。『僕、もう大丈夫です』とサポステを自ら卒業してくれたときは本当に嬉しいです。スタッフみんな、この言葉が聞きたくて支援員をしているんですよ」
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心が折れてしまう前に
ほくサポで支援を受ける就職氷河期世代の中には、年齢を重ねるごとに「怖さ」が増し、ブランクを持つ人も多いそう。そのため、その人の持つプライドや価値観を尊重しながら、じっくりと話を聞くことを大切にしていると話す小林さん。
「自分はできるはずだというプライドが邪魔して一歩踏み出せず、すごく悩んでいる人も多いんです。面談を重ねるうちにガチガチだった考えが少しずつやわらいで、苦手なことや過去のトラウマと向き合えるようになると、道が見えてくる。そこまでどうやって進んでいくかを一緒に探っていくのが私たちの役割です」
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氷河期世代にとっての大きな課題は、求人が少なく、若い世代と比べてなかなか就職につながりにくいこと。ほくサポでは、氷河期世代歓迎企業を増やすべく、企業側にも理解を求め、採用の間口を広げる働きかけを行っています。
「今の若い世代はワークライフバランスを重視する傾向がありますが、氷河期世代の方々は 『働くことが大事』という価値観のもとで育ってきました。いわば、仕事に対するガッツや、貪欲なエネルギーを持っている世代なんです。そこに加えて、これまでの経験値もある。そういった強みを企業側に伝え、氷河期世代向けの求人を増やしたりする活動を進めています」
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サポステの利用には、49歳までという年齢制限があります。「だからこそ、少しでも早くほくサポに来て話をしてほしい」と小林さんは言います。
「心が折れてしまう前に、1人で悩まず相談に来てみてほしいんです。無理に『何かしなきゃ!』って焦らなくても大丈夫。プレッシャーを感じて苦しくなるくらいなら、一度その気持ちを手放してみてください。ただ話をするだけでも、大きな一歩になるから」
ほくサポは、ただの就職支援の場ではなく、働く前も、働いた後も、安心して話ができる「自分をさらけ出せる場」「自分が自分になれる場」。これからも多くの人を支え続けていきます。
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北勢地域若者サポートステーション
三重県四日市市諏訪栄町3-4 星座ビル2階
開所日:毎週火曜~土曜 (日曜、月曜、祝日、年末年始はお休み)
相談可能時間:09:30~18:00(電話予約可能時間)
来所相談 :10:00~16:30(来所相談にはご予約を)
電話:059-359-7280
※初回面談予約とお問い合わせはメールはこちらから
文・三上由香利(OTONAMIE)
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