見出し画像

燃料デブリを取り出す費用は6兆円?! =廃炉等積立金とは=


デブリ取り出し6兆円、廃炉費用全体で8兆円

福島原発の溶け落ちた燃料デブリのたった3gを取り出す試みが初日から失敗して大々的に報道されていましたが、このデブリの取り出し費用は6兆円、福島原発の廃炉処理に関する費用全体の総額は8兆円かかると計算されています。
デブリ取り出し費用は廃炉等積立金から出されることになっています。この積立金はあくまで燃料デブリの取り出しまでの費用で、取り出した後のデブリの管理や処理に関する費用は含まれていません。廃炉等積立金は東電が毎年積み立て、廃炉計画に基づいて、毎年取り戻しています。

年に2500億円から2900億円の取り戻し計画

毎年4月に、東電と原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)とで、福島原発事故炉の3年間の廃炉計画をたて、廃炉等積立金から取り戻す金額が決められます。*1
2024年4月発表の取り出し計画が最新のものです。(タイトル画像)
取り戻そうとする廃炉等積立金の額、廃炉等の実施内容及び廃炉等の実施時期 2024年4月8日

https://www.tepco.co.jp/press/release/2024/pdf2/240408j0102.pdf

これをみると2024年度が2540億円、2025年度2930億円、2026年度2945億円の3年間の取り戻しが計画されています。(予備費を含む)このうち燃料デブリ取り出しのためには、222億円、299億円、491億円を取り戻す計画になっています。3年間合計で1012億円です。

2017年度から始まった廃炉等積立金

廃炉等積立金という制度は2017年度から開始されました。取り戻し計画が発表されたのは2018年度からで金額は(予備費を含めて)2018年度が2183億円、以降1949億円、2115億円、1847億円、2376億円、2690億円、2024年度は2540億円。7年間合計で1兆5702億円となっています。(3年間の計画のうち、発表時の年度分だけを集計)

東電はどんな経営状態になっても積み立てなければならない

以下の日経の記事(2017年2月7日)によると、
「廃炉作業はこれからが本番。2020年代前半に溶け落ちた核燃料(デブリ)を取り出す難工事を迎える。毎年度の必要資金は今より増える。そのときまでに支出に見合うだけの金額が積み上がっている保証はない」「積み立て不足に陥ることは廃炉費用の負担の枠組みの破綻を意味する。追加の国民負担が生じかねない。当然、経営責任も問われる。毎年度3千億円を出し続けるのは簡単ではないが、もうこの道しか残っていない」と書かれています。
今後東電がどんな経営状態に陥っても毎年「廃炉等積立金」を捻出し続け、8兆円を自力で用意しないといけない。足りなくなることは想定していないそうです。

赤字決算だった2022年度も2700億円積み立て

廃炉等積立金の積立金額は、毎年3月末に、賠償の一般負担金と特別負担金と一緒に原賠機構により通知されます。*2
2017年度は3913億円、2018年度3611億円、2019年度2804億円、2020年度2600億円、2021年度2601億円、2022年度2700億円、2023年度2601億円となっています。
2022年度は、東電が大幅な赤字決算となり、電気料金を値上げ、賠償の特別負担金はゼロになった年ですが、廃炉等積立金は2700億円を積み立てていました。

東電パワーグリッド(PG)の託送料金から1213億円

2022年度の廃炉等負担金について
2024年2月19日   東京電力HD株式会社https://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_electricity/pdf/0054_05_03.pdf 

赤字決算だった2022年度に注目してみました。
上記の資料を読むと、東電ホールディング(HD)が積み立てた2701億円の廃炉等積立金のうち、1213億円を東電PGが廃炉等負担金として捻出していることがわかります。
(どちらも1億円ずつ数字が違うのは四捨五入によるものと思われます)
(↓ p2とp3を画像貼り付け)
託送料金の利益から負担する廃炉等負担金は、2017年度から始まっていて1268億円、2018年度1408億円、2019年度1233億円、2020年度1345億円、2021年度1221億円、2022年度1212億円、2023年度1242億円となっています。
東電から電気を買っている顧客だけではなく、原発が嫌だから自然エネルギー中心の新電力から電気を買っている人も東電PG管内に住んでいる人は負担しています。他社の管内ならもっと託送料金を下げるような経営状態でも、福島原発事故の廃炉処理のために高い託送料金を負担するような仕組みになっています。ちなみに送配電事業は地域独占で、電力自由化後も託送料金は総括原価方式で料金が決められています。廃炉等負担金は費用として計上され、利潤は確保されています。(注:東京電力は東電HDとなり、送配電部門を分社化して東電PGとなりました)

廃炉等積立金 2701億円 廃炉等負担金 1213億円 
2022年度廃炉等負担金の算定根拠


6兆円試算の為替レートは1ドル100円

東電改革提言(2016年12月20日) *4
https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/genshiriyou/pdf23/hatsuden-siryo5-6-3.pdf の P18、19で 
燃料デブリ取り出しの費用が6兆円と試算されています。
これは経産省(原子力賠償機構)が試算したものではなく、専門家がアメリカ、スリーマイル原発事故のデブリ取り出しの費用をもとに計算したものだそうです。
スリーマイル事故の処理費用が9.73億ドル。
スリーマイル事故のデブリの量が約136t。
福島事故は1基あたりのデブリの量が最大2倍で、かつ3基。物価高騰の状況も考えて、福島事故のデブリ処理にはスリーマイル事故の50倍から60倍かかるとして、6兆円となっています。
ところが、この時の為替レートは1ドル100円。9月1日現在1ドル146円ですからそれだけを考慮しても、6兆円から8兆7600億円に膨らみます。物価も高騰していますから、今計算し直せば9兆円を超えるのではないかと思われます。

福島原発事故の廃炉完了の定義がない

昨年の汚染の残る処理水の海洋放出開始時にも問題になっていましたが、福島原発事故炉の廃炉完了についての定義がありません。いったい福島原発がどういう状態になることが廃炉完了なのか、めざすべき姿がだれにもわかっていないのです。
そんな状況で、廃炉に何年かかるか、費用がいくらになるかわかるはずがありません。

そもそもデブリは取り出せるのか

「燃料デブリの取り出しは無理だ」と主張する専門家は多いです。
反対を押し切って強行した海洋放出のときもそうでしたが、批判的な専門家の意見は聞かず、自分たちに都合のいいことを言ってくれる専門家の意見だけを聞いて、一番都合のいいシナリオを押し通し「廃炉が進んでいる感」を出しているだけのようにみえます。
そもそも、デブリは本当に取り出せるのか、いろいろな専門家の意見を聞いて、現実を直視した議論が必要だと思います。

福島原発事故炉廃炉完了の定義を決めてください

以下はこのnoteに使った数字などの原資料です。

*1 廃炉等積立金の取り戻しの額の計画
取り戻そうとする廃炉等積立金の額、廃炉等の実施内容及び廃炉等の実施時期 2018年4月11日https://www.tepco.co.jp/press/release/2018/pdf1/180411j0101.pdf

取り戻そうとする廃炉等積立金の額、廃炉等の実施内容及び廃炉等の実施時期 2019年4月日https://www.tepco.co.jp/press/release/2019/pdf2/190404j0101.pdf

取り戻そうとする廃炉等積立金の額、廃炉等の実施内容及び廃炉等の実施時期 2020年4月8日
https://ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/oshirase/sonota_20200408bt.pdf

取り戻そうとする廃炉等積立金の額、廃炉等の実施内容及び廃炉等の実施時期 2021年4月12日
https://ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/oshirase/sonota_20210412bt1.pdf

取り戻そうとする廃炉等積立金の額、廃炉等の実施内容及び廃炉等の実施時期 2022年4月12日
https://www.tepco.co.jp/press/release/2022/pdf2/220412j0101.pdf

取り戻そうとする廃炉等積立金の額、廃炉等の実施内容及び廃炉等の実施時期 2023年4月14日
https://ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/press/at2023/20230414hbt1.pdf

取り戻そうとする廃炉等積立金の額、廃炉等の実施内容及び廃炉等の実施時期 2024年4月8日

https://www.tepco.co.jp/press/release/2024/pdf2/240408j0102.pdf

*2 廃炉等積立金の額

令和5事業年度 廃炉等積立金の額 260,183,717,918 円

https://ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/press/at2024/20240329bt.pdf

(参考)算定根拠について ・ 令和5事業年度の廃炉等積立金額については、原子力損害賠償・廃炉等支援 機構法第 55 条の 4 第 2 項の規定に則り、中長期的な支出の見通し及び令和6 事 業 年 度 に お い て 見 込 ま れ る 支 出 を 賄 う た め に 十 分 な 額 で あ る 、 260,183,717,918 円(廃炉等積立金の運用益 183,717,918 円を含む)とした。
(参考) ○原子力損害賠償・廃炉等支援機構法 抄 (廃炉等積立金の額) 第五十五条の四 (略)
2 廃炉等積立金の額は、次に掲げる要件を満たすために必要なものとして主務省令で定 める基準に従って定められなければならない。
一 廃炉等の実施に関する長期的な見通しに照らし、廃炉等を適正かつ着実に実施するた めに十分なものであること。
二 廃炉等実施認定事業者の収支の状況に照らし、電気の安定供給その他の原子炉の運転 等に係る事業の円滑な運営に支障を来し、又は当該事業の利用者に著しい負担を及ぼす おそれのないものであること。
○原子力損害賠償・廃炉等支援機構の廃炉等積立金管理等業務に係る業務運営並び に財務及び会計に関する省令(平成 29 年経済産業省令第 76 号) 抄 (廃炉等積立金の額の設定基準) 第四条 法第五十五条の四第二項に規定する主務省令で定める基準は、次の各号に掲げる ものとする。ただし、第一号の規定により得た金額が第二号の規定により得た金額を超え る場合は、当事業年度終了の日における廃炉等積立金の残高、廃炉等実施認定事業者の収 支の状況その他の事情を勘案して、廃炉等を適正かつ着実に実施するために十分な額で あることとする。
一 翌事業年度の廃炉等の実施に要する費用に充てる資金を確保するに当たって必要な 金額以上であって、廃炉等積立金の額を定める時点において予見することができる将来 にわたって廃炉等の実施に要する費用に充てる資金の金額から当事業年度終了の日に おける廃炉等積立金の残高を控除して得た金額(当該金額が零を下回る場合は、零とす る。)を翌事業年度から当該費用に係る最終事業年度までの年数で除して得た金額以上の額であること。
二 翌事業年度の廃炉等の実施に要する金額に廃炉等積立金の額を定める時点において 翌事業年度終了の日に保有していると見込まれる資金の金額を加えた金額から、当該廃炉等実施認定事業者の認定特別事業計画の実行に係る所要の金額を控除して得た金額を超えない額であること。

令和4事業年度廃炉等積立金の額 270,077,183,348 円

https://ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/press/at2023/20230331bt.pdf

令和3事業年度廃炉等積立金の額 260,181,527,000 円

https://ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/press/at2022/20220331_2bt.pdf

令和2事業年度廃炉等積立金の額 260,005,237,742 円

https://ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/press/at2021/20210331_2bt.pdf

令和元年度廃炉等積立金の額 280,425,068,810 円

https://ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/press/at2020/20200331bt.pdf

平成 30 年度廃炉等積立金の額 361,138,259,461 円

https://ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/press/at2019/20190329bt.pdf

平成 29 年度廃炉等積立金の額 391,315,880,000 円

https://ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/press/at2018/20180330bt.pdf

*3 事故炉の廃炉等に係る積立金制度の創設
2017年4月 立法と調査 参議院経済産業委員会調査室
ここに鋭い指摘があります。

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2017pdf/20170403041.pdf

P49 (2)廃炉等積立金
ア 廃炉等積立金の原資
廃炉等積立金の原資の確保について、基本指針では、原則として、東京電力グループ 全体で総力を挙げて責任を果たしていくことが必要であるとし、送配電事業における合 理化分についても確実に廃炉に要する資金に充てることを可能とする制度整備を行うこ ととしている。 改正案で措置する事項ではないが、廃炉等積立金の原資を捻出するものとして、審議 会で検討が行われ、送配電部門において、託送収支の超過利潤が一定の水準に達した場合や、託送料金の単価と実績単価の乖離が一定の比率に達した場合においても、廃炉に充てる分については、託送料金の値下げを行わない仕組みを講ずることとされている。しかし、送配電部門の合理化による成果は、託送料金の引下げによって需要家に還元 されるべきものである。東京電力の合理化による資金確保と言うものの、実質、需要家 が一部を負担していることにほかならない。また、他の電力会社に比べ、東京電力管内 だけ託送料金が高止まりしたり、競争環境にある小売や発電部門に比べ、送配電部門に 対する合理化負担が重くなる可能性がある。さらに、合理化が想定どおりに進まなけれ ば、そもそも積み立てるべき原資が捻出できないこととなる。

*4 燃料デブリ取り出し6兆円の計算根拠
東電改革提言 2016年12月20日

https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/genshiriyou/pdf23/hatsuden-siryo5-6-3.pdf

○福島第一原子力発電所 1~3 号基と TMI-2 を比較すると、デブリ取出しについて、以下の相違点があ る。 ・ 1 基当たりの取出し量が最大 2 倍程度(1F 約 290 トン、TMI-2 約 136 トン) ・ デブリの位置が炉内全体に分散 ・ 放射線量が高く大規模な遠隔作業に依存 ・ 格納容器の閉じ込め機能に損傷があるため附属的な系統設備が不可欠 ・ 取出すべき基数が 3 倍 ○福島第一原子力発電所 1~3 号基のデブリ取出しに向けて確保すべき資金について、TMI-2 の事例 を参考に、上記の相違点を踏まえつつ最大値を推測すると概ね 25~30 倍程度となり、これに物価上 昇率を考慮すると約 50~60 倍程度となる。 ○上記の倍数が確保すべき資金に比例すると仮定し、機械的に実績値に乗じる形で計算すれば、確保 すべき資金の最大値は 9.73 億ドル×100 円/ドル×約 50~60 倍程度=最大約 6 兆円程度 と計算される。

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?