青森県知事がフランスからの高レベル放射性廃棄物を門前払いする?!=TRU廃棄物って何?
青森県知事が高レベル放射性廃棄物の受け入れ拒否
10月11日の朝日デジタルにこんな記事が掲載されました。以下引用します。
「フランスには低レベル放射性廃棄物(TRU)が約1800本分ある。輸送に約10年かかるため、33年までの返還が難しくなった。一方、放射線による影響を等しい形でガラス固化体にすれば約20本分ですみ、輸送期間を短縮できる。このため電事連はTRUをガラス固化体に交換した上、同村にある「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」で貯蔵する案を打診した」「『理解できない。協力もできない』。宮下知事は青森県庁を訪ねた電事連の佐々木敏春副会長に対し、ガラス固化体の受け入れ拒否を明言した」
低レベル廃棄物約1800本と高レベル廃棄物約20本を交換
10月10日に電気事業連合会(電事連)が以下のような発表をしています。この内容を青森県知事と六ヶ所村村長に説明したところ、知事の怒りを買い「門前払い」という強い言葉で拒否されてしまったようです。
仏国からの返還廃棄物についてhttps://www.fepc.or.jp/about_us/pr/oshirase/__icsFiles/afieldfile/2024/10/10/press_20241010_1.pdf
「仏国からの返還低レベル放射性廃棄物の受入れ」 のうち固型物収納体に関する内容の一部変更についてhttps://www.fepc.or.jp/about_us/pr/oshirase/__icsFiles/afieldfile/2024/10/10/press_20241010_2.pdf
高レベルな放射能をもつ低レベル放射性廃棄物
交換する「低レベル放射性廃棄物」は低レベルと呼んでますが、TRU(超ウラン)廃棄物とも呼ばれるとても放射能の高い廃棄物です。
経産省のHPでは「低レベル放射性廃棄物」は以下のような驚くべき定義??になってます。
***高レベル放射性廃棄物以外の放射性廃棄物を「低レベル放射性廃棄物」と呼びます***
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/gaiyo/gaiyo01.html
高レベルガラス固化体以外はどんなに放射能の高い廃棄物でも「低レベル」なんです。
TRU廃棄物のままでは受け入れられない
2010年3月、電事連は「2013年からの返還廃棄物の受け入れ開始に、低レベル廃棄物貯蔵施設の建設・完成が間に合わないため、高レベル廃棄物貯蔵施設で受け入れる」と発表しています。https://www.fepc.or.jp/about_us/pr/sonota/__icsFiles/afieldfile/2010/03/02/gaiyou20100302.pdf
六ヶ所村にある日本で唯一の「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」には、現在1830本のフランスとイギリスから返還された高レベル放射性廃棄物が管理されています。この施設の収容可能本数は2880本で、空き容量は1050本です。
もし、交換をせず、TRU廃棄物が1800本フランスから返還されてきたら、容量オーバーになって受け入れられなくなります。
電事連の今年10月10日の発表には「輸送期間が間に合わない」との理由が書いてありましたが、貯蔵施設が満杯になることには全く触れていません。こういう姑息なごまかしが、青森県知事の不信感をますます増大させているのだと思います。
30年から50年間保管する約束
1995年4月、フランスから初めて高レベル放射性廃棄物が返還されてきました。その時の約束は「30年から50年で最終処分場へ運び出す」というものでした。来年4月にはちょうど30年になりますが、最終処分場は文献調査にようやく3か所目の自治体(佐賀県玄海町)が手を挙げたところ。21年後に運び出せるめどはまったくたっていません。
TRU廃棄物は高レベルガラス固化体といっしょに地層処分
TRU廃棄物は高レベルのガラス固化体と一緒に地層処分することが決まっています。最終処分場を受け入れる自治体は、TRU廃棄物の地層処分も一緒に受け入れることになります。TRU廃棄物は地層処分して10年くらいたつと放射能が漏れてくるという指摘もあります。(*1)TRU廃棄物の方が高レベル放射性廃棄物より始末に困る放射性廃棄物といえるかもしれません。そういう意味でも、この低レベルと高レベルの交換は電事連そしてNUMO(地層処分の実施主体)にはありがたい話なのでしょう。
だからといって高レベル放射性廃棄物の地層処分が安全にできるというわけでは決してありません。
昨年10月30日、地学の専門家ら300名以上による「世界最大級の変動帯の日本に、地層処分の適地はない」という
声明が発表されました。
https://cnic.jp/50160
「激しい変動帯の下におかれている日本列島において、今後 10 万年間にわたる地殻の変動による岩盤の脆弱性や深部地下水の状況を予測し、地震の影響を受けない安定した場所を具体的に選定することは、現状では不可能」(*4)
トイレなきマンション=原発
「当初イギリスとフランスに再処理を依頼したとき、使用済核燃料を海外に運んでしまえば、それで廃棄物問題は解決だと思っていた」、「取り出したプルトニウムから発生する利益で、再処理費用は賄えると思っていた」、「高レベルのガラス固化体やTRU廃棄物が返還されてくることはまったく想定していなかった」と神田啓治京大名誉教授が発言したのを聞いたことがあります。
当初の海外再処理契約には廃棄物の返還条項はなく、イギリスとフランスが「再処理でできた廃棄物は全て返還する」と言い出して、慌てたというのが実態です。
宮下青森県知事の不信の原因
宮下青森県知事は、六ヶ所再処理工場の度重なる完工延期に電事連への不信感が募っていたと思われますが、2020年12月、当時むつ市長だった宮下氏が、電事連からの「むつ市の中間貯蔵施設を電事連で共用したい」という申し入れを拒否した時からの電事連に対する不信感も、今回の拒否の大きな要因のひとつではないかと思います。
むつ市中間貯蔵施設への使用済核燃料搬入を関電が画策?
2018年1月「使用済み核燃料 関電、青森で貯蔵検討」という記事が日経新聞に載りました。
この記事が掲載されると、宮下当時むつ市長は不快感を示し、関電の使用済核燃料を受け入れることはないと表明しました。関電は6月に以下のような発表までしてなんとかこの話をもみ消そうとしました。
2020年12月、関電ではなく、今度は電事連が表にでて、中間貯蔵施設の共用使用を持ちかけますが、宮下当時むつ市長にただちに拒否されました。
関電はずっと「使用済核燃料の県外搬出」を福井県に約束しています。福井県との約束を守るために、むつ市に使用済み燃料を運び込もうと画策したことが「福井県が要らないものを青森県に持ってくるのか」と怒りを買ったのです。
以下の東京新聞の記事で、宮下当時むつ市長はインタビューに答えて「仮に『東北電力の使用済み核燃料を一斉に福井で受け入れてください』と言ったら、そうですかと受け入れますか? それと同じだ。以前の誘致は新しい産業を興し、持続可能な地域にしていくんだという、私たちの希望と意思があったからやった。今、私たちのそうした思いがない中で物事が決まるなんてことは可能性がゼロだ」と話していました。
原発再稼働優先の核のごみの押し付けあいに、不信感が募ったのだとおもいます。
核燃料サイクルは回っていない
核燃料サイクルは回っていません。放射性廃棄物を青森県の六ヶ所村やむつ市に押しつけて核燃料サイクルが回っているようなふりをするのはやめるべきです。
使用済核燃料の持って行き場がないなら、まずは原発を止めることです。
脱原発しかない!!
*1 10年で漏れ出すとNUMO技術部長も認めるTRU廃棄物放射能 (日本消費者連盟関西グループ発行「草の根だより」2008年4月号掲載記事に加筆)
「高レベル廃棄物を地層処分した場合でも遠い将来地表に漏れ出してきて被曝することが前提ですが、放射能の地表への到達は処分から数万年後とされていました。ところが、TRU廃棄物ではなんと約10年後に漏れでて被曝すると予想されています。最大被曝予想量も400倍となっています」
*2 TRU廃棄物とは
https://www.inss.co.jp/wp-content/themes/inss/images/research/nuclearpv/ncc177-179.pdf(原子力安全システム研究所のHPより)
[簡単に] ウランより重い放射性物質を含む、半減期が長い低レベル放射性廃棄物
[詳しく] 原子力発電の燃料をリサイクルする際にできます。低レベル放射性廃棄物(高レベル廃 棄物ではない放射性廃棄物)に分類される廃棄物です。主にウランより重い(原子番号が 大きい)放射性物質が含まれています。代表的なものとして、プルトニウム、ネプツニウ ム、アメリシウム、キュリウムなどがあり、これらの中には半減期がとても長いものがあ ることや、内部被ばくで問題となるアルファ線を出すものもあるために、相応の処分方法 が必要となります。 なお、TRU 廃棄物には、上記のプルトニウムなどの TRU(超ウラン元素)が含まれます が、TRU でない放射性物質も含まれています。その代表的なものがヨウ素 129、炭素 14 で す。
*3 NUMO(地層処分の実施主体)のHPから
*4 高レベルと低レベルの交換の比率については「英国からの代替取得について」にイギリスのものが発表されています。フランスも同等ではないかと思います。https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kankyo/g-richi/files/sanko2_3.pdf
*5 「世界最大級の変動帯の日本に、地層処分の適地はない」という声明については以下のnoteをご覧ください
*6 タイトル画像は絵本『さすらいの高レベルくん』表紙
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