Nuck管水腫・女性の鼠経ヘルニア
鼠経ヘルニアは圧倒的に男性に多い疾患で、これは鼠経管を通るものの違いによると言われています。男性では鼠経管は精巣が陰嚢に移動するときの通り道であり、精巣につながる精巣動静脈と精管が通っています。女性では子宮円靭帯という子宮を支える索状物が通っています。この子宮円靭帯が形成される際に腹膜が鼠径管内に引き込まれますが、多くの場合生後1年程度で閉鎖します。この腹膜が閉鎖せず袋状に残った状態になることがあります。腹腔内との交通を保ったまま残ると鼠経ヘルニアとなります。交通がなくなり嚢胞状に残ると中に水が溜まり「水腫」という状態になり、これをNuck管水腫と呼びます。
Nuck管水腫は女児での発症が大部分ですが、成人女性でも稀に見られます。鼠径部にしこりとして触れることがあり、時に痛みなどの症状をともなうことがあります。またNuck管水腫に子宮内膜症という別の病気が合併することがあります。子宮内膜症とは子宮の内側の組織が身体の様々な場所に発生する病気で、生理周期と同期して疼痛が生じたりしこりが大きくなったりします。鼠径部の子宮内膜症は約0.4~0.8%程度と稀ではありますが、Nuck管水腫の約10%程度に子宮内膜症が合併するという報告もあります。
Nuck管水腫の治療は穿刺吸引と手術です。穿刺吸引し中にたまった液体を抜くことで、しこりが小さくなります。ただし穿刺吸引を行っても液体は再度たまってくることが多いです。根治的な治療としては手術になります。手術は鼠経ヘルニアの治療と大部分は同じです。鼠経ヘルニアとの違いはNuck管水腫を完全切除する必要があるということです。鼠経ヘルニアの治療目的は腸管が脱出しないようにすることであるため、腹壁の穴をメッシュで覆うことが出来れば、飛び出している腹膜の袋(ヘルニア嚢)を完全に切除する必要はありません。Nuck管水腫の場合は水腫そのものが症状の原因であるため切除する必要があるわけです。さらに鼠経ヘルニアの合併もしくは、将来的なリスクがあると判断される場合にはメッシュによる腹壁の補強も必要になります。
Nuck管水腫は鼠経ヘルニアに比べると稀な病気ではありますが、比較的若い女性に多い疾患です。足の付け根(鼠径部)のしこりが気になる方、鼠径部に痛みがある方の中に、Nuck管水腫が原因で悩んでおられる方がいます。
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