③こころの中の図書館~オールド・ワイズマンとの出逢い~
はじめにこちらをお読みください↓
こころの中の図書館~ビラ配りの老人と【僕】の旅の物語~はじめに~
②こころの中の図書館~プロローグ~と~ハムスターの回し車と自分時計~
◇◇オールド・ワイズマンとの出逢い◇◇
土曜の朝だというのに
スーツを着た男性達が
セカセカと駅へ向かって歩いていく姿を
遠くから眺めながら、僕も歩いた。
駅前では、絵を描いて販売する人。
希望を夢見て、路上でライブをする若者たち
誰かと会う約束をして待っている人。
そして、僕のように
きっと、何の目的もないけど
ブラつこうとしている人。
そんな人で溢れかえっていた。
目的のショッピングビルに向けて歩いていると
遠くの方で、年老いた男性が
ビラ配りをしているのが
目に入ってきた。
今でも、こんな風にビラを配る仕事があるんだな~
なんて、ネット世界に慣れた僕は
その古風なやり方が逆に新鮮に見えた。
この仕事って、どれぐらいの収入になるんだろう?
そんな現実的な考えしかできない自分が
少しイヤになった。
案の定、その年老いた男性が配るビラは
受け取ってもらえず・・・
まるで、存在さえしないぐらいの勢いで
老人の目の前を沢山の人が通り過ぎていった。
その光景が僕のこころをズキッとさせた。
その老人は、キョロキョロしながら
それでも、紙を配ろうとしている。
どちらかというと
シャキっとしたジェントルマンな老人という風貌じゃないからか
やっぱり、受け取ってもらえない。
その老人の手には、この調子じゃ
夕方までかかっても、配りきれないであろうビラが
束になっていた。
僕は、さっきのズキッとした心が
まるで、その老人の紙をもらえと言っているように
思えて、頭の中で繰り広げられる会話とは別に
足は、迷いなくその老人へと向かっていった。
自分の心と頭と身体がバラバラな動きをしている事に
気が付いて不思議な気分だった。
老人は、僕に気づき、声をかけてきた。
「こんにちは。今日はいい天気ですね。」
老人はそう言いながら、ゆっくりと空を見上げた。
ビラをすぐに渡そうとするかと思っていたから
会話をしようとする老人に少し戸惑った。
「あぁ、こんにちは。本当にいい天気ですね。」
老人は空を見上げながら
「今日の雲は、太陽の光と風と楽しそうに遊んでいる。
今日みたいな日は、本当は心の喜びにきづくことができる日なんです。」
と自然が織りなす動きと人とのこころの動きが
まるで似たような動きをするかのように言った。
なんか、不思議な事を言う人だなぁと
僕は思いながらも
そんな風に世界を見る
この老人の感性に少し惹かれた。
「ははは。変な事を言ってしまい失礼しました。
昔の人達は、こんな風に空を見上げて
世界の時間を感じ取っていたようで、
つい、私もマネをしたくなってしまいました。」
僕は老人が言う
昔の人達もこうして空を見上げて
世界の時間を感じ取っていたという事が
妙に気になった。
「いえ、いつも僕がいる世界では
そんな風に世界を見る人が少ないので
新鮮で面白かったです。
昔の人達は空を見上げて世界の時間を感じとっていたんですか?」
老人がビラを配る姿に少し同情をして
紙をもらおうと思っていただけなのに・・・
老人は、紙を僕に渡そうとしないし・・・
さらに僕は
なぜか、つい質問をしてしまった。
「そうなんですよ。いろいろな形で
空の動き、自然の動きを観察していましたね~。
江戸時代なんかも月の形を見て
日常を楽しんでいたでしょう?
お月見などはそのひとつです。
自然との対話を日々の暮らしの喜びや豊かさと
感じていました。」
老人が話すことは
何となく知っている事なんだけど
何かもっと秘密が隠されているような気持ちを
僕の心の中に巡らせた。
老人の話すことに惹かれながらも
途中、何度か
なかなか人に相手をしてもらえないから
紙を渡すのを引き延ばしているのか?とさえ
思っていたが
そんな興味深い会話をいくつか繰り返した後
ようやく、老人は、手に持った紙を
僕に差し出した。
その紙にはただこう書かれていた。
「あなたは、わたし達、
人間のこころの物語を描いた絵本が
沢山集まった図書館があったら
あなたはその図書館へ行ってみたいですか?」
その紙の文字を見て
僕は、ギョッとした。
今、ネットの世界や本の世界では
スピリチュアルと言われる精神世界などが
流行していた。
あぁ、宗教か何かの勧誘なのかと思った矢先
それを感じ取ったかのように
老人は、口を開いた。
「ははは。宗教か何かの勧誘と思われましたかな?
そう思っても無理はありませんね。
はたまた、スピリチュアルか何かのセミナーなどの勧誘かと?
スピリチュアルも宗教の哲学も関係はしますが
もっと、普遍的な知恵のようなものです。
先ほど、あなたとの会話の中でお話したような
自然との対話の知恵のようなものなんですよ。」
老人が言う言葉に
僕は意外にも不信感を感じなかった。
何となく
嘘を感じなかったし
ここまでの会話でもそれを感じていたから
僕はきっと老人の話す内容に惹かれたのだと感じていた。
それに僕は、仕事上
沢山の人と接する機会がある。
どんなに信頼できるような言葉を使っていても
正しく聞こえる言葉を使っていても
真実に聞こえるような言葉を使っていても
言葉の影に隠れた【なにか】が漂うことがある。
喉を通って出た言葉と
頭だけしか通過していない言葉があると
体験的に感じている。
この老人の話すことは
喉を通過した言葉だと感じた。
いつもの僕は
そうは言っても
この”なんとなくそう感じる”という
僕の感覚を捨てる事が仕事とさえ
思えるような社会にいるから
今日こそは・・・
自分のこの”何となくそう感じる”を
信じてみようと思った。
「あなたとの会話が興味深かったのもあるし
今日は、特に予定もない。
ぜひ、その図書館へ連れていってください。
その、人間のこころの成長物語の絵本を
僕も読んでみたいです。」
老人は、僕を真っすぐに見つめながら頷き微笑んだ。
その微笑みは
太陽の光と風の喜びのように見えた。
次回~こころの目を開く道~をお届けします。
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