推しの、三角チョコパイ。
雨。こんな日はお買い物でも、と
もらった家具屋のクーポンを握りしめながら、街へと繰り出した。
大きな買い物をするつもりはないけれど、ちょっとした食器や小物、何か身につけるものでも。出会いがあったらいいなと期待して。
はじめて降りた吉祥寺駅の北側。
大きな公園側とはまた別の、個性が広がる街。
安定の百貨店やインテリアや洋服の路面店、ここにしかないコアな雑貨屋も心をホクホクにする。
京都の河原町のような、名古屋の大須のようにも近い、親しみを感じる。でもここはまた別のところ。
結局、お目当ての家具屋でウロウロするも、“ほしい”は見つからない。
何かを求めてるときほど、なにも手に入らないのだよなあ、とお決まりのパターンで店を後にする。
さてさて、
雨も強くなってきたところで雨宿りでもしますか。
昔ながらの喫茶店に、ふわふわケーキが売りのあのカフェ。行ってみたいはいくらでもあるのだけれど、雨の日はより安定を求める。
さくさくの甘〜い、あのデザートを…
今年もやってきました、三角チョコパイ。
冒険しない夫は、いつだってアップルパイ一筋。
Mサイズの珈琲をふたつ。すこしずついただきながら、夫とそれぞれの時間を過ごす。
「推しがさ~!」
「推しがね~!」
どうしたって聞こえてくる、隣のお声。コンフォートゾーンギリギリの席配置によるものか、それとも若くキーの高い声が私の耳に届きやすいのか。
両サイドにいる女子高生に挟まれ、うっかり楽しい話に耳を傾けてしまう。
…
推しのアイドルと同じ髪型にしたいけれど、最近ロングヘアからボブにイメージチェンジしてしまって、次のライブにはどうしたらいいのやら。
隣のクラスの推しは今日もすばらしくって嬉しくってやら。
軽快なリズムに、好きなことや好きな人のことが入り混じる。軽く流してるようで、しっかり相手の推しに興味を示してる。彼女たちの信頼が伝わってくる。
ちらりと、隣のトレーが目に入る。
同じ三角チョコパイ、の入れ物。
変わらない味。変わらないフォルム。
あの頃からちっとも変わらない。
推しってなんだ?よくわからないな、なんて思ってたけれど。実は話していることはひと昔前も今も変わってなくて。
方法は違えど、変わらない友情の形はあるのだろう。
こうして、この三角チョコパイが彼女たちの青春の一部になるのかなあ、と
アラサー女はこっそり
余計なお世話らしきものを、心の引き出しにそっと仕舞った。