おしどり夫婦、パワー全開。
夫の両親は、仲がいい。
とても、とまではいかない。
が、まあまあ仲がいい。
義母曰く、「ズルズルきちゃった」関係。
義父曰く、「お母さんのおかげ」な関係。
互いのコメントに多少なりとニュアンスの差はあれど、今が良ければ全て良し!なおさまり具合。
うん、いい感じ。
ふたりの、性格や趣味嗜好はまるで違う。
義父は、仕事人間で外交的。初対面の人と気さくにおしゃべりをして、持ち前のコミュニケーション能力を発揮する(あれ、夫に似てる?)。好奇心旺盛で、スポーツマン。ゴルフにテニス、ロードバイクまで…多岐にわたる。
義母は、パンやお菓子作り、裁縫が好き。アウトドアよりも断然インドア派。家庭菜園で育てた野菜を、オリジナルにアレンジして近所の人たちに配るフレンドリーさ。スポーツするよりもお家でじっくり読書を嗜む。
ふたりで旅行に出かければ、方やずんずん先に行きたい人で、方やぼちぼち先に進みたい人。
どちらかのやり方を譲り合いながら様子を伺いながら。
義両親のお家に帰省したときのこと。
お外はいいお天気。
「バドミントンをしよう!」と義父は言った。
元バドミントン部の息子の輝かしい姿を久しぶりに見たい、という純粋な思いと、自身のスポーツができる機会を逃しまい!とする渾身の思い。色んな気持ちを大っぴらに、満面の笑みを浮かべる。
「ほいほい」
夫は、転がっていた体をひょいと二足歩行に立て直し、パジャマのまま庭に向かい、父の期待に応える。せっかくなので、妻も便乗して3人でワイワイと羽を打ち合う。
と、ぽつり義父がいう。
「母さんも一緒にできるといいんだけどね」
その表情は、少し寂しげに見えた。
その頃、義母は。
お昼ごはんの支度だろうか、キッチンに立っているのが見えた。私はひと足先に羽遊びを切り上げ、室内に戻る。
「何を作るんですか?」
「パンを作ろうと思って」
義母お手製の手づくりパン!
ベーコンエピに、コーンバターを閉じこめたほっこりパンの二種。
慣れた手つきの義母に続き、見よう見まねで嫁もあとに続く。
と、ぽつり義母がいう。
「お父さんも一緒にできるといいんだけどね」
似たようなセリフを先ほど聞いたような…
ふたりとも、自分の好きなことをパートナーと一緒にできたらいいのに…と
心のどこかで思っているのかもしれない。
長年試したり試されたり。
叶わないとわかっていても、求めてしまう気持ち。
焼きたてほくほくのパン。
いい香りが部屋中にひろがる。
いつも言葉にはしない「欲」が湯気となって立ち上がる。やがて、空気の一部となり、ソファやカーテンへと「欲望」が匂いとなって染み込んでゆく。
ふたりの「欲望」は?
果たして、満たされる日はくるのだろうか…
・
今週末、義両親が東京にくる。
親戚たちの集いがあり、はるばるやってくる運びとなったのだ。
土曜日のお昼すぎに到着するらしい、と聞いていたものの。
あれ、何時だろうな、お昼ご飯はどうするのかな、と予定はふわふわしたままで。
そしたら、今日。
夫が帰宅するなりいう。
「明日の昼、ふたりでもんじゃ食べるんだって」
お昼を過ぎる時間帯。
わたしたちの食事が遅くなってはいけない、との気遣いも含めての発言だと思う。そのやさしさとは別に、私はなんだか嬉しくなった。
長年連れ添った夫婦が、もんじゃをつつき合う姿を想像して。
思わず、ぷぷぷ、としてしまった。
「もんじゃ並ぶかもね」
「並んだらいいよ。時間はあるんだから」
”同じ釜のメシを食べる。”
その絆があればあるほど、
「欲望」は「希望」へと満ち溢れるのかもしれない。