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”夫吸い”がやめられないの。
「猫吸い」という言葉がある。
いや、そういった行為がある、といった方がいいのかもしれない。
猫愛好家の方が猫の身体に顔を埋めて息を吸い込むことを、そう呼ぶらしい。あいにく私は猫と生活をともにしていないので、「猫様」を「吸う」ことができないのだが、そうしたくなる気持ちは苦しいほどわかる。
ミステリアスな目線に、ピンと尖った耳(個猫差はあると思われる)。もふもふした身体の毛を、持ち前の鋭い舌でていねいに愛でて綺麗を保つ。その意識の高さに思わずくらっとするのに、
すんすん歩いていたかと思えば、あちらこちらでころころし始めたり、お日様に当たってぽかぽかと身体が温まれば、嬉しくってのどをごろんごろんと鳴らし始める。
その存在とギャップに、わー!となり、気がつけば猫様の身体に己の顔を埋めていた、ってことは十分にあり得る。いたって正常な人間の行動だと思う。
こんなに猫がいる生活を想像できるのに、我が家には猫がいない。不思議、とすら思う。
では、どのようにしてこの欲求を満たしているのか、と自分に問う。
あ、私は「夫吸い」をしているではないか。
それも毎日。何度でも。
朝、目が覚めてごはんの支度をしていると、目がまだ開いていない夫がふらふらと寝室からやってくる。そこで1日の始まりである「おはよう」の”吸い”を行う。
会社に送り出して、こちらも出勤をして。
夕方になれば帰宅をして、ひとり晩ごはんを食べる。
夜遅く、クタクタの夫が家に帰ってくる。
そこで、本日2度目である「おかえりなさい」の”吸い”が行われる。
お風呂で身体をあためて、お布団に入る。
川の字に並べたシングルサイズのぬくぬくお布団。少し夫の敷地にお邪魔をして、三度目である「おやすみなさい」の”吸い”を行い、無事眠りにつく。
ハグ、に近い。だが、目的が異なる。
ハグは抱きしめ合い、互いの存在や温かさを確認し、安心感を得るような行為なのに対し、
”吸い”は、相手の身体に顔を埋め、細胞までたどり着くような吸引力で、匂いをめいいっぱいに吸い込む。時には、相手のエネルギーまで得ているような気がしてくるこの行為は、「互い」というよりも「一方的な」欲求を満たす行いでしかない。
それでも、「夫吸い」をやめられないワケ。
それは、夫が愛しい、ことに他ならない。
どちらかというと中性的な夫は、生物が本来持っているであろう、男性の匂い、というものを持ち合わせていない。だからと言って、女性的な香りがするわけでもない。
夫本来の匂いに、妻と同じ生活の匂いがする。
それがたまらなくいい。
あと、動物的な要素、も大きいと考えている。
夫を「吸いたい!」と思って吸っているわけではない。気がついたら夫を「吸っている」のだ。これがスタンダード。
動物が本来持ち合わせている、帰省本能的なものなのか。どうにかして夫を吸わないと!と知らず知らずのうちに、ルーティン化してしまっている。
もう、どうしようもない。
この「吸い」を、夫はどう思っているのか。
「無」だ。
一方的に「吸い」の対象とされている猫と同じように、夫も特に抵抗をしたり嫌がったりもしない。じっと構え、「何やってるん」というだけ。
”夫吸いをやってるのよ”
とは打ち明けはしない。
だって、これは私の秘密だから。
こっそりと「夫吸い」を続けること。
これはやめられそうにない。
今回も、珈琲次郎さんの企画に参加させていただきました☕️✨
お題は「秘密」です🤫
またしても締切日滑り込みなのは、これも癖になってしまっている証拠なのでしょうか(ああ、やめられそうにない←コラ)。
いつも楽しい企画をありがとうございます\(^o^)/✨