言の葉|今、黎明。

 今、黎明、僕は僕を見失いつつある。夢を語って、その夢のためだけに生きてきた自分が消えつつある。深夜から小さく鳴り続けていたどこかの虫の音が聞こえたり聞こえなかったり、朝日が見えたり見えなかったり、好きな言葉を口ずさめたり、口ずさめなかったり。━━あるべきだったものが、深夜から揺らぎ揺らぎ揺らぎ続けて、ついに夜明けに闇と共に晴れてしまった。

 人は多くのことを考え続けなければならない。それが原罪なのだと、無神論者が言う。何かを知ると言うことを覚えて、人はあるべき姿へと変わった。そしてそれは終わりではなかった。僕らはどうにも無駄なことばかりに悩んでる、考えている。きっといらないんだ。本当に無駄なことなんだ。いつから君のことを友達と呼んでいいのか、とか。本当は親友だと思っているけれど、君はどう思っているんだろう、とか。この感情を恋と呼んで、君を傷つけていいのだろうか、とか。この世界に生き続けていいのか、とか、なんのために目を開けているのか、とか。全部全部、無駄なものであるはずだ。

 だけど、どうしてもいつだって最後がちらつく。僕は最後に美しく死にたい。君にずっと覚えてもらえるように死にたい。生き続けるって億劫だ。でも君の生きる姿は美しいから、生きてほしい。わがままだよね、とか。それもまた無駄なんだ。そんなことに悩み続けて死にたくなってしまう、そんな僕がいるのだから。きっと君もそうなんだろ、死にたいと繰り返し言う君はもしかして鬱なのかもしれない、けど、みんな死にたいと思ってしまうから、だって君も死にたいって、死にたい君もいる。

 長く書きすぎてしまった文を見て、僕はハッと気づいた。君はこんな文章で救われる人でもなかった。君はあまり小説を読まない。きっと僕はこの口で直接言った方がいい。でも僕は大事な言葉を大切にできない。僕の口はカフカように嘘ばかり言う。蛇みたいに毒を吐く。だから文章で君を救いたい。救いたかった。
 
 黎明、僕は自分を見失ってしまったから、今文章を書いている。取り止めのない文章はそのまま僕だ。本当の理想を言ってもいいなら、他でもない僕が君を救いたかった。言葉でもなく、なんでもない僕が。そのためにこの罪を贖い続けているのだと思えば、この苦しみも生だと実感できるのだ。

 もうすぐ君は布団から出て、今日の準備をする。いつだって数秒で終わる今日を生きる前の準備。「生きてみよう」って言う一言。僕には言えない一言。だから君は強いんだ。
 きっと君は死にたくなったら死ねる。諦念が君を救ってしまう時、僕はきっと綺麗には死ねないだろうけど、君は少しだけ笑顔になって、そして消えていくんだろうな。それは僕への呪いだ。でもそれが相応の代償なのだ。生きることも、死ぬことも、救うことも簡単だけど何かを捨てないといけない。

 難しいなって思った。そしてまた、無駄なことを考え続けている朝。
 五時の空は燻んでいた。


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