プーちゃんと足の悪いおじさん
「ただいまー!」
昨日、娘のプーちゃんは弾んだ声で学校から帰ってきた。
学年末テストの初日だったが、自分で納得できる出来だったのだろう。
おかえりと迎えると、案の定テストが簡単だったと教えてくれた。
「それでね」
まだ声が弾んだままだ。ほかにもいいことがあったのかな?
プーちゃんは「足の悪いおじさん」に会ったそうだ。そして、そのおじさんに1000ルピア(日本円で10円ほど。安い駄菓子が買える金額だ)を渡したんだ~と言う。以前お菓子を買ったときのお釣りがポケットにあったらしい。
*
足の悪いおじさんは、隣のお家に住んでいる。年は50歳代後半ごろか。脳梗塞で倒れて以来麻痺した右半身を引きずりながら、ほぼ毎日、私達の家がある路地から大きな道にでる角のところまで行って、座って物乞いをしている。
着やすい服を選んでいるのだと思うが、いつも白のランニングシャツ(タンクトップ)と半ズボン姿である。坊主頭で、これだけ聞いたら裸の大将という出で立ちだ。だが、やんちゃだったらしい昔の面影は健在で、ガタイがよくて目がギョロリと光っている。なかなかにイカツイ。
おじさんは、自分の前を横切る人なら誰にでも「おい」と声をかけて片手を差し出す。とはいえ、差し出す手と言葉のぎこちなさ&見た目の怖さが災いして多くの人が無視する。いくらかでも渡す人は少数派だ。
私は小銭か小額紙幣の余裕があればお渡しするし、なくても挨拶は欠かさずにしていた。なんといってもお隣さんだしね。娘も同様に挨拶をしていた。
が、私に「ちょっと!あの人に挨拶なんかさせなくていいのよ」と言ってくるご近所さんや、娘に「あのおじさんに挨拶したら(握手をする)手が汚くなるよ」とか「病気になるって」と噂する学校の友達もいる。
違うよ、あのおじさんはバイキンじゃないんだ。脳梗塞という病気になったらから体が動かなくなっているんだよ。そう娘に教えていた。我が家はインドネシアのおばあちゃんも日本のおじいちゃんも脳梗塞で同じように体が不自由になっていたので、プーちゃんはすぐに納得した。
*
プーちゃんは、私が見ていないところでもおじさんにお金を渡したんだなぁとニコニコと相槌をうっていると、プーちゃんはさらに嬉しそうに話を続けた。
「あのね、お金を渡したらね、おじさんがね、ほんとのほんとに嬉しそうな顔をしたんだよ。ニパーって!!!」
プーちゃんはおじさんの真似をしてすごくすごく嬉しそうな顔をした。
「そうなんだ。プーちゃんはどんな気持ち?」
「ハッピーだよ。プーちゃんはいいことができたのも嬉しいけど、そのおじさんの顔を見たときのほうがもっともっとハッピーだった。ママはプーちゃんがどうしてユーチューバーになりたいか知ってる?」
脈絡のない問いに思われるかもしれないが、プーちゃんのなかではつながっている。だって、プーちゃんがユーチューバーになりたいのは、プーちゃんの作った動画でみんなをハッピーにしたいからだもん。
「そうそう、正解。それを今日見たんだよ!」
両手をブンブンと振りながら話す姿からプーちゃんの興奮っぷりが伝わってくる。
私はプーちゃんに一度も「いいことをしなさい(善行を積みなさい)」「人が喜ぶことをしなさい」などと教えたことはない。だけど、プーちゃんは小さなときから「まわりの人が幸せになったら私も幸せ」と知っている。うん、標準装備されているみたいなんだ。
プーちゃん、その相手を幸せにすることが自分の幸せ♪という考えはねぇ、イスラームの言葉でなんていうのかは知らないけど(きっとあると思う、誰か教えて)、仏教では自利利他円満っていうんだよ。そしてそれはママの目指す姿なんだ。プーちゃんは自利利他円満を感じる才能があるね。今日からママの先生だな。
ママはね、あなたの感性に感動しているんだよ。
(完)
最後まで読んでくれてありがとう。
お互いサマサマ幸セナン♪
(みどり @hijau39)
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以下もプーちゃんのお話です。良かったら読んでみて下さい。
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