最近相方に教えてもらって色々考えさせられたnoteを読んで思い出したこと。 〜あるはずのない何かと同人誌即売会におけるエンガチョを巡るミステリー〜(1)

前回の記事の最後に相方に教えてもらって色々考えさせられたnoteをご紹介した。
以下である。

この方の漫画家人生の回想から、昔の知り合いを思い出した。
もう時効だと思うのでその昔の知り合いとの仲を分断を後々招くことになった謎めいた現象について書こうと思う。
但し超長文注意。


売れるはずのない本

前回の記事でも触れたが、自分は仕事に余裕が出来たらひたすら公開するアテのない絵を量産していた。
それを勿体無がった相方が同人誌を作ろうと言ったのである。
しかし前回も書いたが私はペン入れをいくら練習しても1㍉も上達しなかったので無理だと思った。
そもそもその場限りの思いつきを描いてるだけで人気の二次創作とかでは全くなかったので、一体どこに需要があるのか?
と言ったのだが、相方が余りに熱心に本にしたがるので、鉛筆画を白黒コピーした5冊だけとかそんな感じで相方が作った。
それを持って地元の小さな即売会に出た。
コネもない、知り合いもない,呼び込みもしない、誰も知らないオリジナルキャラクターをただ並べただけで漫画も小説もない絵だけの白黒コピー本を無言で置いていたら、なぜか売れた。
不思議なこともあるものだと思い、需要があるなら
また作るか、とまた多分5冊くらいコピーして次の即売会に出した。
一応見てもらえてるみたいだからとカラーイラストも描いて持っていくようになった。
その時もぽつらぽつらと売れた。

ただ、何となく変な雰囲気を感じ始めていた。
そしてそれ以降、それまで順調に売れていた(とは言っても1回の即売会につき5冊くらいしか持っていってないのだが)本はパタリと売れなくなり、何故かお客さんの流れも周囲のスペースの人も私たちのスペースを遠巻きに、見ないようにしながら意識だけはこちらを探るような、そういった雰囲気だった。

誤解を恐れず表現すると、こちらと目を合わせない、こちらなんて見ていないというフリで「見ないようにしながら」見られて、その割にヒソヒソ周囲に何か言われつつエンガチョされているような状態だった。

あれだけ毎回本を買われたのに最終的にはエンガチョされる謎のスペース

…に私たちはなっていた。

雲上人との出会いは突然に

これらの出来事からその後詳細は省くがしつこくストーキングされ、そのストーカーが即売会主催者を急に始めたりと色々あって後に鬱を発症することになるわけだが、そんな感じでよくわからないままケチがついてしまった地元に見切りをつけ、少し離れた市のイベントに試しに出てみることにした。

が、数回参加するとそこでもほぼ類似の経過を辿った。
…ので,今度はもっと離れた大都市に出てみることにした。

そこで知り合ったのが冒頭に書いた、後に謎の絶交をされることになる知り合い…仮にAさんとする…である。

Aさんはそもそもサークルカットからダントツ上手かった。
デッサン力のしっかりした、骨太さを感じる絵が好みだったので早速本を購入したところ、話しかけられた。
昔は個人情報保護法とかなかったので、サークルカットに住所が書いてあったのだと思う(うろ覚え)
その住所を見て、Aさんもこちらに目をつけていたらしい。
というのはAさんは幼少時、私たちの地元に住んでいたというのだ。

不思議な偶然でAさんと仲良くなって、本の委託販売までしてもらえることになった。
Aさんは実はその当時一大ブームを巻き起こしていた某作品の二次創作がメインの活動で、全国でもそこそこ有名な、大手さんと言っていい個人サークルで主に活動していた(知り合った即売会は当時のAさんには珍しい一次創作オンリーイベントだったが)
しかも、私たちも愛読していた漫画の作者のプロの漫画家さんを含めた複数の先生のアシスタントもしており、言うなれば私たちから見ると雲上人と言っていい人だった。

プロへの道を諦めた私たちから見ればAさんは輝ける漫画人生の階梯を順調に駆け昇っているように見えた。
そういう経歴が記事の冒頭で紹介した、色々考えさせられたnoteの方と似ているのだった。
Aさんは高卒でアシスタント業に入ったと聞いたように記憶している。
そんなところも似ていると思う。
都会人は羨ましいと思ったような記憶がうろ覚えながらある。

そんなAさんから見ると、私たちの作った本はとても珍妙に見えたことだろう。
鉛筆描きを白黒コピー、誰も知らない一次創作のキャラクターに相方作のポエムを付けたもの(最初の本にはなかったが後に作った本では相方がちょっとだけ詩をつけるようになった)がチラホラ、そして漫画はなく(ペン入れ、描きたいシーン以外描きたくない私に描けるはずがない)、小説もなく、どこにこんなもんに需要や売れる要素があるのか、皆目わからなかったことだろう。
普通の同人作家ができることが一切できず(ペン描きできず、漫画も書けず、小説もない本である)、貧相で拙いコピー本を片手に余るくらいの数を持って参加する。
完全に売れ筋路線に逆行している。
なのになぜか、(片手に余る数とは言え)時々売れるのだから、Aさんには訳がわからなかっただろう。
それは当然だ。なぜなのか私たちにもわからなかったのだから。

雲上人は大事なことなので2回言う

そして何度目かAさんと同じ即売会で会ったある時、それは起きた。
Aさんに比すれば当然見劣りする私の絵の、私なりの描き方についての話題になった時、Aさんは突然叫んだ。
「見ないで描く!? 見ないで描く!!??」
どうやら大事なことなので2回言ったのだろうと推測する。

以前

というnoteにも書いたのだが、
「基礎画力のメタ化」(本人の描きたいもののイメージに対して、何も見ずに描ける要素=抽斗が多く、"ある程度"基礎画力が充足している状態)を習得できていないと、描き手の伝えたいイメージが伝わりづらくなってしまうと個人的な経験則として感じている。

Aさんとお付き合いしている頃にはまだ上記のように言語化されてはいなかったが、当時も体感としてはその萌芽みたいなものを感じていた。
なので、へたくそなペン入れの練習もずっとやってはいたが、何も見ないで人体の一部を繰り返しデッサンする、ポージングや手のいろんな表情を繰り返し描くなどということもずっとずっとやってきていたのだった。
やってきてはいたが、当時のデッサン明らかに変だったけどね…ダメ脳内補正が強すぎて…
イメージ通りになかなか描けないので本当に繰り返し繰り返し描いていた。
別に努力を自分に課してたわけでもなんでもなく、脳内イメージにジリジリとでも近づけて描けるようになるのが楽しかっただけなのだが。
(ダメ脳内補正については過去note

に書きました)

…なのでありのまま素直に「ポージングは写真や他人の絵とか特に見ないで描いてる」と何気なく口にしたところAさんから

「見ないで描く!? 見ないで描く!!??」

の絶叫を賜ることになったのだった。

雲上人は振り向かない

その後のAさんは「みんな見て描くのが当たり前」「どんな人気作家でもそうのはず」のようなことを超早口で捲し立てた後一言も口を聞かなくなり、こちらに視線を向けなくなり、私たちは何が彼女の琴線に触れたのかわからずただオロオロした。
そして精神状態最悪の中(地元の謎現象及びストーキングから来る鬱だったので)ようようやっと作った、精神状態をそのまま反映したいつにも増して辛気臭く地味でボロクソな私たちのコピー本が、なぜか1冊、2冊と売れ、その度にAさんの表情は般若のように強張っていった。
Aさんは当時の最大人気ジャンル二次創作の有名作家さんだったので、勿論私たちの辛気臭いコピー本の比でなくどんどん売れる。
私たちはAさんの本が売れる度に「わー!」と小声快哉と小さな拍手をしたのだが、Aさんの表情は益々硬くなっていったのだった。

結局強張った空気のままAさんとはそれっきり縁が切れた。
委託していた本の売れ残りを返してもらえないまま。

(続)

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