「もう一回、着て見られましたか?」 「はい、先ほど着てみました」 「そうでしたか、なら大丈夫そうですね」 結城さんの時折、あざとい仕草を見せる。しかし、かわいい娘を演じている姿は、人間味が感じられ嫌いではない。 「私、事務所にスタッフコート取りに行ってきますので、少し待っていてくださいね」 先ほどまでは、何とか理由をつけて仕事を断るとつもりだったが、結城さんの遅刻という急展開により、今更、言い出せる状況でもなくなってしまった。 この仕事をやった後、自分は今まで通り、大学内で
「入ってからやってく方が楽だと思うので、頭の方からかがむようにして入って。おっと、言い忘れてた、着るときに靴は脱いでお願いします」 靴を脱ぎ、かがむようにして頭の方から入っていく。着ぐるみ内はかなり狭く高さもなかったため、かがむというよりは、地面を這うような形で着ぐるみ内へ入ることとなった。 キャラクターの目の部分は透明なアクリルのような素材で出来ており、そこから視界がとれる構造になっていた。しかし、視界穴は、自分の目線よりかなり低く、見えるのは無機質なフロアだけだ。 「
関係者以外立入禁止と書かれたドアをノックする。 「どうぞ~」 どこか聞き覚えがある声だなと思いつつ、重厚感のある銀色のドアノブに手をかけた。 「失礼します。本日、バイトでお世話になります”安野秀樹”と申します。宜しくお願いします」 事務所には、スタッフコートを着た白髪混じりの男性が一人、コーヒー片手にパソコンと対峙していた。向こうもこちらに気づいたようで、表情に笑顔を作りこちらへ向かってきた。 「初めまして。本日、イベント責任者を務めています”小野田”と申します。こち