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その変態性は伝播する熱源

アルというマンガサービスでライターとして活動しています。midori(みどり)です。

わたしは星野源さんが好きだ。

というのも、自分が感じた心の機微や物事に対しての「好き」を表現するとき、よく星野源さんのことを思い出すからだ。彼からむんむん漂ってくる好きへの「変態性」や「執着心」なんかを自分でも意識するようにしている。

ただし、ドラマ逃げ恥を一切見てない事を先に謝罪しておきたい。

■笑わない男

星野源さんを知ったのは『コウノドリ』という大人気ドラマに出られていたのがきっかけだった。当時、コウノドリのマンガを熱心に追いかけていたわたしは、生意気にも「このマンガは絶対実写化に向いている。」という大御所評論家ぶった確信があったので、ドラマも律儀に追いかけていた。

星野源さんの役柄は、「医療はサービス業ではない」と患者を一蹴するような冷酷さを持つ産婦人科医・四宮。冷静な判断力と仕事への哲学から彼は終始クール笑わない人物であった。

これはわたしの個人的なフェチの話になるのだが。ドラマ、アニメ、マンガ、そういった物語の中では、普段へらへらしているのに決めるところでは決めるキャラが好きだった。なぜならわたしは『シティーハンター』の冴羽獠を理想の男性として見て育ってきたからだ。

つまり何が言いたいかというと
この四宮という男はわたしの好みではなかった。そう、なかった。

2015年に放送がスタートした第1シーズンの最終回で、ドラマを代表する名シーンがある。その時にわたしはこれまでクールで冷静だった四宮という男の熱い感情の大放出に触れることになる。主演の綾野剛さんと星野源さんのそのびりびりと頭から痺れるようなシーンは、今でも脳みそに焼き付いている。

そこから、わたしは星野源という俳優が気になり始めたのだった。

■伝播する熱

ドラマ『逃げ恥』での大フィーバー、ドラマの楽曲でもあった『恋』の大ヒット、わたしもその年は、例にもれず恋ダンスを踊っていた。ドラマは一話も見てないのに。

歌手として、俳優として多彩な顔を見せる星野源さんには、文筆家という顔もある。あと、ラジオなんかではど下ネタも軽快に話す。そういえばステイホーム期間には「うちで踊ろう」も話題になった。

そしてわたしが、「あ、これは」と一番影響を受けたのが、星野源さんがご自身のラジオで『おジャ魔女カーニバル‼』の魅力を語っていた内容を見た時だ。

書き起こしをされているかたもいらっしゃいました。すごい。

さっと目を通していただければ分かるように、誰もが一度は聞いたことのある『おジャ魔女カーニバル‼』について、かなり暑苦しいことを言っている。前半は技術的な話をしているけど最終的には「なんか好きだし、元気出る」と割とシンプルな話に帰結していく感じがすごくリアルだなと。

わたしも好きなものの話を語るときってこうだよな。と

そして大事なのは、これを知らないおっさんが言ってようが、星野源さんが言ってようが、ある程度の「変態性」を感じられるなということ。そしてこの「変態性」や好きなものへの「執着心」みたいな熱が他人に伝播していくものの正体なのではと考えている。

実際、おジャ魔女世代で『おジャ魔女カーニバル‼』をもちろん知っているわたしでも、この話を聞いて改めて曲を聴くという行動をした。確かになんか、リズムが聞こえてきた。それ以来、この赤の他人に行動を起こさせることが表現の到達点のひとつでもあるな、と感じるようになったのだ。

心に残り続けている数多くの表現たちは、転機となるような行動のきっかけをくれるし、重要で忘れがたい行動を後押ししてくれたりもする。そして、それがわたしだけじゃない何万、何千、何億人もの人の心に刻まれるようになると、その表現は歴史になっていくのだろう。

■表現の先

書いたレビューで実際にマンガを購入してくれた人がいたという喜びや、おすすめした本を面白いと言ってもらえたときの喜びは凄まじいものがある。やはり人間は共感してもらえると嬉しいものだ。

わたしが星野源さんの『おジャ魔女カーニバル‼』の解説に対して、「すごい暑苦しいし難しい話してるし、とりあえず色んな音楽が好きで、この歌詞が好きでたまらないんだなこの人は。」という感想を持ちその結果

『おジャ魔女カーニバル‼』を聞いてみた。
星野源さんのことがまた一つ気になった。

わたしも自分の「好き」を表現するときには少し暑苦しくても、より熱を帯びて「変態性」と「執着心」をはらんだ文章や表現が出来ればいいなと思っている。

もしかするとその熱はもっとライトに触れたいと思っている人を離脱させてしまうこともあるかもしれない。けれどそこで離脱せずに付き合ってくれる人は、最終的に行動に繋げてくれたり、わたし自身に対しても興味を持ってくれる可能性が高いのではないだろうか。

■働く男

そして最後に、ここまで読んでいただいて星野源さんの「変態性」や「執着心」について少し興味を持った方がいたら、ぜひこの本を手に取ってみてほしい。そして感じてほしい。

40万部突破の帯には「すごく変な本です」とご自身のサインを添えて書いている。完全に同意である。ほかのエッセイも読ませていただいているが、この本は特に変な本なのでジャンル分け出来ない。けれどすごく面白い。

冒頭、働くことに対する哲学が語られたかと思えば、雑誌『ポパイ』で連載していた20本を超える映画コラムが始まる。そして唐突にショートストーリー。これまでの自身の楽曲についての振り返り、そしてまた唐突に歌詞とギターコードを書いた歌ってみようのコーナー。歴代の出演作、その時の裏ではなにが起こっていたのかの手書きメモが添えられた年表。「星野源ってどんな人?」という関係者の証言をあつめるインタビューにピース又吉さんとの対談。カオスである。

そんなカオスさの中にある熱をぜひ楽しんで欲しい。

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