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映画「花腐し」を観て(ネタバレ)

作品鑑賞後、感想を書いてからパンフや映画芸術を読んで補足してあります。所々、重複する部分がありますがご了承ください。




作品公開初日…の次の日に友人2人と見に行きました。
駅に隣接したビルにあるミニシアターでの上映で、客層は男性と女性半々くらいの割合。男性陣はほとんどが60代くらいでした。

座席数97席のミニシアター。
観客半分が男性という状態で、ピンク強めの映画を見るのは妙な緊張感があり、唾を飲み込むタイミングすら周りの様子を伺いながらでした。


作品は初っ端、男女が心中し浜辺に打ち上げられているシーンから始まります。
二人の手を繋ぎ結ばれたスカーフにピントが合っていて、そのアイテム1つだけで「心中」だと分かる。
バラバラに死んでいては、意味がないですからね。そこに愛があってもなくても。

シナリオでは「ホテルの浴衣帯で結ばれている」とあります。
2人は心中直前までホテルにいたのですね。

映画芸術 vol.485


栩谷が祥子の通夜に顔を出しますが、祥子の両親から門前払いを受けます。
叱責を受けながらも、コートを脱ぐ栩谷。
「顔くらい見せてください」とボソボソ言いながら無理やり家に上がってしまうのでは…と少しヒヤヒヤしました。

この時点ではまだ栩谷という人物を知らないので、そういう事をするのでは…と思いましたがマナーとしてコートを脱いだ栩谷を見て、きちんとした人だと思いました。
香典を出し、拒否される栩谷。無念。

駅のベンチに座り電車を待ち、傘を置き去りにして行きます。
祥子の件でぼ~っとしていて傘を忘れたのかなと思いましたが、この後のシーンでも何本か傘を放置します。
傘の置き去りには何か意味がありそうで無さそうな…?

この後、栩谷が夜道を歩いていくシーンがありますが、固定カメラの横を通り過ぎていくという撮り方…とても好きです。(上手く説明できない)
歩いていく後ろ姿をやや俯瞰で撮るのはよく見ますが、カメラに向かって歩いてくる栩谷…臨場感があって最高です。

今度は桑山の葬儀へ行く栩谷。
「喪服持ってたのか」
「いや衣装部に借りた」

このセリフに参りました。
栩谷が喪服なんて持っているはずがない。持ってないのが正解です。
今まで、冠婚葬祭に縁も興味もなかったのではないですか?
礼服なんて持ち合わせません。
解釈一致で嬉しくなりました。

シナリオでは、喪服についての言及はありません。
という事は、”栩谷喪服持ってるわけない説”は共通認識だった…。

映画芸術 vol.485

通夜に参列した映画関係者の口論のシーン最高です。
味がありすぎます。

周りが喧嘩を始めたって、煙草を吸い続ける栩谷。
一見落ち着いているように見えますが、よく見ると高速瞬き&目が虚ろで明らかに様子がおかしい。煙草も吸いすぎです。

それもそのはず。
同棲していた彼女が自分の仕事仲間(しかも親友)と心中したのですから。
観客はここでやっと何が起きたのか知らされますが、栩谷の狼狽しなさったらない。

栩谷は、動じないのではない。
感情が表に出て来づらいだけです。

新映事務所へ行き、書類を捲る栩谷。
指を舐めて書類を捲る仕草…好きです。
映画館で見たときは、壁に貼られたピンク映画のポスターに気を取られ、会話がうっすらとしか入ってきませんでした。

シナリオではこのあたりに、ピンク映画の監督を志す青年(渡辺)が登場します。事務所で寝泊まりする栩谷が対応しますが、事務所の経営が傾いていることを伝えると帰っていきます。
ここで、栩谷は青年に「将棋できる?」と訊ね将棋の準備をします。(が、対局ならず。)
栩谷は将棋ができるのです。(新情報⭐︎)

映画芸術 vol.485


マキタスポーツさんが「君は天然色」を歌い
媚び媚び拍手を送る栩谷。可愛らしい。

思い出はモノクローム、色をつけてくれ〜♪
という歌詞から繋がって、回想シーンがカラーになった事が粋だなと思いました。(パンフで荒井監督もおっしゃってました)

ここから、グングン話が進みます。
マキタスポーツさんの歌で、シーン切り替えと換気が行われた感じがしました。



梯子坂のシーン、ここはビジュアル的にも内容的にも重要なシーンです。
予告のこのシーンだけで虜になった人も多いのではないでしょうか。
”文學”を感じます…はたまたフランス映画か…
栩谷が肩をすくめ丸めているあの仕草…上着の中で暖められた栩谷のにおいが香ってきそうな…言葉にならないほど好きです。


いよいよ栩谷と伊関が対面します。
「ドア、壊すつもりか」伊関のまっすぐなはっきり通る声で耳がびっくりしました。耳が栩谷のボソボソモードでしたから。
でもこの音量に振り回される感じ…邦画です。

シナリオを確認すると、このシーンの伊関のセリフは殆どがシナリオ通り。
正体不明の男を表現するには、一定の音量で淡々と話すセリフ回しがかえってヤバさを引き立たせますね。
伊関のセリフはなんだか小説をそのまま読んでいるような、不思議な感じがします。

映画芸術 vol.485

シナリオでは、伊関が栩谷にタオルを渡すシーンはありませんでした。
伊関もたいがいお優しいです。

映画芸術 vol.485

ここからは栩谷と伊関のお喋りと回想シーンの応酬です。
流れる自然な会話。伊関にほだされる栩谷。
「キムってのはああ見えて…ああいうのが一番怖いんだよ…」
「調子に乗ってごねてると…まあ、俺の知ったことじゃないけど」
ちゃんと忠告する栩谷。お優しい性格なのです。

栩谷と祥子の回想シーンで栩谷が「怒るよ」というシーン。
とても好きですね。
本当に怒る人は怒るよって言わないんですよ~。


「傘のさし方知らないの」や評判の悪い映画は演出がダメだったのかとおちょくったり、マニアには受けてますもんね~といじる祥子。
こりゃ~遊び慣れてますし、栩谷が祥子に気があるのバレてますよ。
いたずらな祥子に感服です。

飲み屋を出て、傘を吹っ飛ばす祥子にも唖然。
ポッキーゲームしよ?(古)と同じくらいあざといです。
二人で濡れてしまえば、いくらでも口実が出来ますからね。
恋に落ちるには、2人が同じ状況で同じ困難に遭い、乗り越える必要があるんですよ。知らんけど。

シナリオではこの後、歌舞伎町のラブホテルのシーンがあります。
部屋の電話が鳴り、延長してくださいと言います。
その後、シャワーを浴びながら抱き合います。
ここがあのカットなのかな。
(あの風呂、アパートの部屋の風呂にしては広いと思ったんだ。)

映画芸術 vol.485

ちょっとシーンを飛ばしまして…
祥子のアパートで、栩谷と祥子が絡んでるシーン。
「あなたの綺麗な指で触られてるのね…」
このセリフを聞いて、頭が爆発しましたね…

煙草を吸うシーン、灰を落とすシーン、随所で栩谷の指を美しく映しているな(もともと綾野剛さんの指が国宝)とは思いましたが、このセリフ。
このシーンはドキドキしすぎて、自分の爪が自分の手に食い込んでました。


韓国スナックで栩谷と伊関が合流。
みんな大好き「キムチはタダよ」はアドリブだそうですね。
もちろんシナリオにもありません。

栩谷と伊関が同時にコートを脱ぐシーンも偶然だそうですね。(舞台挨拶)
あの瞬間の二人の所作があまりにも美しくて驚きました。


伊関の回想シーンで、交通警備員の格好をした伊関が登場。
スタイルが良すぎて惚れ惚れしましたが、シリアスシーンでしたのですぐ冷めました…。
栩谷「お前、最低だな」
伊関「うん…」
伊関は言い訳せずに認める良い子ですよ。

祥子のアパートで
祥子「…どうして、私を出してくれないの?」
(中略)
栩谷「次はお前向きのホン、書くよ」
この次、シナリオでは、祥子「…」となっていますが、劇中では「私向きってなに!?」と怒っています。
黙っていない。それでこそ祥子です。

家族はいらない、のシーンを経て祥子が朝帰りをしたシーン。
祥子は、栩谷のTシャツを着ますね。
あのシーン、私は胸が苦しくて苦しくて、とてもしんどかった。

栩谷に抱きしめてほしかったのでしょう。
栩谷の香りに包まれたかった。
本人はすぐ傍にいるのに、抱き締められることも抱き締めることも出来ない。
息を殺し、身をよじらせて泣く姿は、自分にも覚えがあるような気がしてとても平然とは見られませんでした。

気が付いていても、声をかけなかった栩谷。
あそこで声をかけていたら、状況は少し違っていたかもしれない。
でも、栩谷にはその勇気がなかった。
また子供や家族の話になるのなら、堂々巡りだから。
その話題によって自分の仕事の行先不安に直面するのも、嫌気がさします。


祥子の涙は、浮気をした罪悪感とかそんな単純なものではありません。
女優として仕事が揮わない事
栩谷に子を拒絶された事
浮気した事
昔、堕胎した事
自分に好意を持つ相手を利用した事
全部、全部が悲しく空しく辛い
自暴自棄になってしまった。
祥子の心はもうボロボロでした。
辛いです。

シナリオでは、このシーン翌朝の状況が書かれています。
祥子「昨日はちょっと友達と飲んでて遅くなっちゃった。気分が悪いから休む」祥子、布団にもぐり顔を隠す。
栩谷「大丈夫?」
祥子「(生返事)」

泣きはらした顔を見られたくもないし、栩谷に合わせる顔もない。
ここでようやく栩谷は「大丈夫?」と聞きますが、遅いです。…もう遅いのよ。

栩谷と祥子が結ばれたのがバスルームだったのに
関係に溝が入った会話のシーンもバスルームなのが、非常に因果ですね…つらい…

栩谷の「…誰なんだ」「…そうか」
ここで栩谷が感情を露わにしていれば…
でもここで冷静に話し合っても
「そんなに子供が生みたいのか」とか「桑山を子どもの父親にするのか?」とか余計な事言いそう…
頭で分かっていても、冷静になんてなれません。
栩谷も悪いけれど、祥子も悪いですからね。


韓国スナックに場面は戻り…
伊関と栩谷の話す女が同じ女だという事が分かります。
しかし、二人ともさして驚きません。

シナリオでは
伊関「!?」
栩谷「!?」
ってなってて可愛いです。

さて、このあたりで重要なシーンがシナリオに書いてありました。

(栩谷回想シーン)
事務所で栩谷がパソコンで仕事としていると桑山が入ってきます。

二人はビールを飲みながら話します。
栩谷「ホン、直してるのか」
桑山「うん。心中話にした」
栩谷「できたら、読ませてくれよ」
桑山「うん」
栩谷「…祥子、好きなのか」
桑山「…好きだよ」
栩谷「…」
桑山「でも、一度きりだと言われた」
栩谷「…」

桑山が祥子にあてた本(くちびる)は「心中話」になっていました。
さらに、祥子と桑山の関係を知った上で好きなのか問う栩谷。
この辺は女性の感覚では理解できそうにありません…。


シーンは変わり祥子のアパート。
カバンを持ちながらハシゴを下りる祥子を手伝う栩谷。

普段通りの2人の関係なら、祥子がロフトからカバンをポイと投げて
「危ないだろ…!なんか言ってから放れよ」とか言ってたはず…。
それを見て「ごめんごめん上手く避けたね」とロフトから顔を出して笑う祥子…(ほらもう辛すぎて幻覚が見えてきた…)

栩谷の「どこ行くの」「なんで今なの」が虚しく床に転がります。
祥子は笑顔で答えますが、心が栩谷の言葉をシャットアウトしているのが分かります。
栩谷の背中に送られる祥子のバイバイ。
ドアがパタンと閉まって、歩きだす頃には祥子は泣いていたでしょう。

栩谷が「待って、俺も行く」「実家だろ?挨拶しにいく」とか言ってたら、全部違ったかな…

栩谷は豆腐のパックの捨て方や油の捨て方について指摘しますが
あなたがその辺に捨ててきた傘やザリガニのケースを、私は忘れていませんよ。
でも、トースターは普通に戻すべきです…。

ここから伊関と栩谷の会話が続きます。
この二人の芝居をみっちり堪能できるなんて超贅沢な映画です。
映画史に残るのではないでしょうかね…

伊関のアパートでは、女性二人が絡まっており、後に伊関も参戦。
大変刺激的なシーンが続きます。
栩谷とリンリンのシーンは、脳が仕事を辞めたためあまり覚えていません。
「リンリンかわいいな…」しか覚えていません。

栩谷の「死のう…一緒に死のう…」という言葉。
あれは私…正直この作品の中で一番腹が立ちました。
言葉では言い表せません…誰か通訳お願いします。


栩谷がパソコンでシナリオを書き直すシーン。
あの演出はとても素敵でしたね。
書き直し、消し、書き直し、消し、
シナリオの中でようやく栩谷は祥子を抱きしめることが出来た。

階段に祥子が現れますが、美しい背中が映るのが印象的でした。
さよならの向こう側の歌詞である
”後ろ姿見ないでください”ともリンクするように。

栩谷は最後に何を見たのか。
その答えはそれぞれ観た者の胸の中にあって
思考を巡らせることが映画なのです…

監督に答えを聞くなんてのは無粋です(パンフより)


エンドクレジット後の二人のデュエット…
最高でしたね。
祥子は嬉しそうでした。
栩谷は桑山に張り合って威嚇のようにも見えました。
桑山は、祥子を愛しい目で見つめていましたが、栩谷が来て向きを変えました。

桑山の書いた台本の上に灰皿置いたり退けたり小さな攻防が愛しい。

あの一瞬が永遠に続けばいいのに。


しっとりこってりした映画でした。
私の大好きな映画の1本になりました。
何度も見たくなります。

梯子坂の階段に始まり
ロフトの梯子を下りる祥子
最後は彼女に導かれて階段をのぼる。
美しい映画でした。




おしまい。




















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