またトラ (3): トランプ再選の理由 / 民主党(バイデン)の失策

 いくら共和党支持者内でトランプ・ファンが多いといっても、民主党支持者には圧倒的に彼は毛嫌いされているし、特定の党を支持しない有権者のうちでもトランプ・ファンはとても少ない。ではなぜ、トランプは勝てたのか? それは民主党がダメダメだったからである。人格的、倫理的、法的に問題だらけのトランプにさえ勝てないほど、国民の支持を十分に得られなかった。2024年の選挙は、国民の多くがトランプに賛同したから、ではなく、国民の多くが民主党の馬鹿げた政策に我慢できなかったからである。そしてカマラ・ハリスは候補者として弱すぎた。

 そもそも2020年にバイデンがトランプに勝てたのは、バイデンが「政治経験豊富なセントリスト(中道派)だから、ナンセンスではないまともな政治をやってくれるだろう」との期待があったからである。ところが、その期待は大きく裏切られた。

国民の支持を得られなかった主な問題はインフレと移民問題
 選挙後の調査で、トランプに投票した人の多くはその投票理由として、インフレと移民問題を挙げている。
 このうちインフレについてだが、コロナ後のインフレ傾向は世界的なものであり、必ずしもバイデン政権の失策だとはいえないが、コロナ後の景気回復のために財政出動と称して行ったことのうち、的確な財政出動ではなく、単なるバラマキも多かったという話も聞く。しかし、財政出動をしなければ、不景気になり、失業が増えたかもしれない。ともあれ、アメリカは不況にならずにインフレを抑え込むことができたし(ソフト・ランディング)、株価は順調に上昇し、定期預金、マネーマーケットなどの金利上昇による恩恵もあり、失業率は低く、経済は順調・・・と報道されているし、実際そう考える人(アッパーミドルクラス以上)は多い。しかし、そういった知識も経済的恩恵もなく、食料および生活必需品の価格高騰に翻弄されるミドルクラス以下の一般庶民にとっては、経済が順調だとはとうてい思えない。
 移民問題については、日本でも報道されている通りである。正規の手続きを経ない、多数の移民が南米から入ってきたが、それはトランプ政権の厳しい移民規制政策をバイデンが撤回したことによる。悲惨な国を脱出してアメリカン・ドリームを目指してジャングルを突き切って命からがらアメリカにやってきた人々に手を差し伸べようという、いかにも民主党左派の考えに老齢でややモウロクしているバイデンが押されたわけだ。(但し、入ってきた移民の多くは民主党が強い州に移動してゆくだろうし、そうなると、民主党が強い州における人口が増える⇒下院議員の割り当て人数も多くなる、という目論見であったという説もある。)メキシコとの国境を実質的にオープンにしたことについては、反発を招いたのは、当然といえば当然である。アメリカは移民で成り立った国であり、今でも日本などと比べると圧倒的に移民を受け入れている国である。しかし、法律に従って移民希望者を選別し、選ばれた人だけを移民として受け入れることは多くのアメリカ人が今日も支持していることなのに、国境をあえてガードせず、どこの誰とも分からない大量の移民の流入を許すなんて、反発を招かないほうがおかしい。ところが民主党左派の人々は、実におめでたい人々で、「景気後退しないのは、移民の人々のおかげ。安い賃金で、一生懸命働いてくれる移民の方々、有難う!」という記事が、ワシントンポスト誌に載っていたが(ワシントンポストは、左寄り過ぎな記事が散見される)、これには呆れてしまった。

民主党左派が主張する、マイノリティ(要するに「可哀想な少数派の人々」)のための政策を重視しすぎ: 学生ローン返済免除とDEI
 
ここで言う「可哀想な人々」とは、学生ローンの返済で生活苦を抱える人々(多くは有色人種)、そして往々にして差別の対象になり得る、特に性的マイノリティの人々等である。
 バイデンは非常にプログレッシブな民主党左派の意見ばかりに耳を傾け、この可哀想な人々を助けるべく、学生ローンの返済を免除し、性的マイノリティの権利を過度に促進しようとした結果、それ以外の大多数の「普通の人々」の反発を買ったのである。
 学生ローンの返済免除のことは、別の機会に書いてみるつもりだが、要するに、お金を借りて大学で勉強したが、卒業後は思ったほどの収入を得られず、ローン返済に苦労している人のローンを政府が代わりに払ってあげようというものである。なぜ大学のローンを、大学に行かなかった人々も納める税金で肩代わりしなければならないのか? お金を借りた人の個人責任はどうなっているのか? バイデンはこの決定の説明として「なぜなら、彼らは政府の助けを受ける価値がある人々だから」というなんともお粗末な弁明しかしていない。その免除額合計が比較的少額ならばともかく、なんと$1750億ドル! 
 DEI: Diversity(多様性)、Equality(平等)、Inclusion(許容)は、基本的には大切なことである。しかし、どんなことでもそうだが、あまりにも正義を押し付けられると嫌になってくることが多い。特に、マイノリティ(特に性的マイノリティ)の権利を促進しようとすることは、反感を買いやすい。"woke" "wokeism" という言葉が最近よく使われている。もともと、1930年代に黒人が自分たちはアンフェアな扱いを受けているということに「気付く、目覚める」という意味であったが、今では行き過ぎたプログレッシブ的な考え、またはそういう考えを持つことを指す。特にLGBTQを擁護しようとする民主党の姿勢は、時として度を越していて、いかにもWokeである。保守的な人々にとっては、Woke = 汚らわしい、ということになるようだ。トランスジェンダーについては、「差別をしてはいけない」ということはほとんどの人(保守であっても)が既に認めている。だが、刑務所に入っている囚人に対して、囚人の希望に応じて税金で性転換の手術をする、というのはどうだろうか(2019年のあるインタビューでカマラ・ハリスはそれを支持するとはっきりと語っているし、それがトランプの反ハリスキャンペーンに使われた)。また、男性⇒女性のトランスジェンダーが女性のスポーツに参加するのはどうか。今回の選挙では、このことに関するトランプ側のビデオ・メッセージが大当たりして、そのことで選挙の勝敗が決まったといえるくらいだ。Gabriel Ludwigという、性転換手術を受けて女性となった元男性が、カリフォルニアのとある大学の女子バスケットボール・チームに参加していたときの写真がそのメッセージに使われた。メッセージは「Kamala is for they/them」と(⇩の写真が表示される),「 President Trump is for you(ごく普通の若い夫婦と幼い子供の家族写真が表示される)」というものだった。

Gabriel Ludwig氏(左)

 They/themというのは、男か女かどちらか、というカテゴリーには私は属さない、と決意する人達がインスタなどで自分の名前の後に付ける。若いプログレッシブな人達でこういう形で自己表現する人はかなり多いので、「普通の」人々は結構イラッとしてしまう。このトランプ側のメッセージは、こういった、あまりにプログレッシブな事柄にイラッとする、という人々の感情にうまくアピールしたといえる。
 バイデン政権はLGBTQの人々をスタッフとして200人以上起用しており、運輸省長官の Pete Buttigieg 氏のように、実力のある人がたまたまそうだったというよりは、LGBTQであるが故に採用された人が多いような気もする。特に、原子力エネルギー局の Samuel Otis Brinton 氏に至っては、「バイデンはちょっとふざけてんじゃないの?」 というのが現時点では普通の人の一般的なリアクションといえるのではないだろうか。バイデン政権に対するネガティブキャンペーンにBrinton氏の写真⇩が使われたのは言うまでもない。

Samuel Otis Brinton氏


 この性的マイノリティ、特にトランスジェンダーを擁護しなければならないという信念をもった民主党左派は、大多数の普通のアメリカ人から見ると実に「Out of touch(現実から離れてバブルの中に入っている)」であり、「民主党は、このひどいインフレ、押し寄せる不法移民で我々は脅かされているというのに、考えていることといえば、このThey/themの人々の権利を擁護することばかりだ!」と国民は怒り、それがトランプ票につながった。元男性の大柄なトランスジェンダーが女性のスポーツに参加するのは、常識的に考えてフェアではないし、対戦する女性アスリートが衝突して怪我をする可能性も高くなるという安全性の問題もある。ところが民主党左派は、トランスジェンダーの権利ばかり主張して、トランスジェンダーと競争させられる女性アスリートにとってフェアであるか、安全であるかどうかはお構いなし。中道派の民主党議員、Seth Moulton氏は「民主党は、とにかく誰も傷つくことがないように(つまり、LGBTQ の人々の気に障らないように)配慮することに注力しすぎで、大多数の人々の正直な感情をきちんと受け止めることは二の次になっている。私には娘が2人いるが、自分の娘が元男性のトランスジェンダーとスポーツで競争させられるのは正直言って嫌だ。でも、今の民主党ではそういうことを表立って言えない雰囲気がある」と発言したところ、やはり民主党左派からこっぴどく批判を受けている。
 キリスト教では大事な日であるイースターとわざわざ同じ日を「トランスジェンダーを讃える日」としたことも、そのように決めたバイデンの感覚は正常とは思えず、特にキリスト教徒にとっては、自分達に嫌がらせをしているのか、とカチンとくるものがあるだろう。LGBTQ の人々を差別してはいけないというのは納得できるが、彼ら/彼女ら/They があたかもヒーローであるかのように持ち上げようとするのは別の話だ。持ち上げようとするから反発(バックラッシュ)が生じる。バイデンおよび民主党左派は、自分達の正義感を押し付けることで、ごく普通の一般的な大多数の人々、昔からの文化、伝統を大切にしたいという人々の感情を逆なでするようなことをしていること、それが民主党離れを起こしていることになぜ気が付かないのだろう。

 


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