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仁左衛門さんの「霊験亀山鉾」は必見!
歌舞伎座で最初で最後の演目
2月大歌舞伎の第3部は、片岡仁左衛門さんの通し狂言「霊験亀山鉾 亀山の仇討」です。
2017年の国立劇場で催された際に初めて観たのですが、記憶とはいい加減なもので最初の幕が始まってもなかなか思い出せません(仁左衛門さん扮する藤田水右衛門はバッチリ覚えているのですが、仇討の場面から始まったことがぽっかり抜けていました)。
「石和河原仇討の場」では、毒を盛られて弱った状態で挑む石井とそれを冷めた目で見る水右衛門との対比がこれからの物語の展開を予期させるような不安を抱かせ、序章として興味深いです。
仁左衛門さん演じる悪役はほかの役者さんより凄みを感じるのは勝手な感覚でしょうか。これまで積み重ねてきた人生の喜びや悲しみなどの経験が役に乗り移っているような、そんな気にさせられるのです。そして、仁左衛門さんは色男を演じるよりも悪役が好きなのかなと勝手に思ってみたり。
そもそもこの演目は二世中村吉右衛門さんが1989年に国立劇場で復活上演された以降は仁左衛門さんしか挑んでいません。
しかも歌舞伎座では最初で最後の舞台。
「大入り」となっている劇場内では、物語が進むにつれて仁左衛門さん演じる冷血無比な水右衛門に観客は憤りを感じながらもその言動から目が離せないようです。
さらに仁左衛門さんは水右衛門とそっくりな男・八郎兵衛の二役を担います。
この八郎兵衛は前半ではワルではあるけれど悪人という雰囲気がありません。それが後半では振られた相手に再会して豹変します。水右衛門とはまた違う悪人の姿に見入ってしまいます。
国立劇場で観た、水右衛門から八郎兵衛への早替わりが鮮やかだったのはしっかり記憶にありました。今回も6年前と比べてもそん色のないものでした。
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あるインタビュー記事を読むと、仁左衛門さんは「どんな役でも演じると好きになってしまう」と答えています。
水右衛門と八郎兵衛の二役どちらも好きと答えておられましたが、どちらに重きがあるのでしょうか。
「焼場」の場面は壮絶ながら、見もの
「駿州中島村焼場の場」では、仇討ちの手助けをした芸者おつま(中村雀右衛門)が石井源之丞(中村芝翫)の亡骸を荼毘に付すために訪れた焼場であの八郎兵衛と再会します。
まさに前半では見られなかった八郎兵衛の凄みがここで現れます。
本水の雨が降る中、おつまと八郎兵衛の壮絶な立ち廻りが繰り広げられます。殺されまいと必死に逃げるおつま。相手の隙を見て反撃します。
息を止めて見入ってしまったのは、照明の演出です。
実際に降る雨のライティング。暗闇の中、ピカッと稲妻が光り、八郎兵衛の刺青が鮮やかに浮かび上がります。そのときの八郎兵衛の形相の恐ろしいこと。緊迫した場面ながらある種、浮世絵をリアルに見ているような美しさもあります。
最終的に八郎兵衛は井戸に落ちて死んでしまいます。おつまが何とか八郎兵衛から難を逃れたのもつかの間、今度はおりきと遭遇します。
源之丞が返り討ちに遭うよう策略したのがこのおりき。
焼場に持っていかれた桶の中には生きた水右衛門が入っており、ひょんなことから源之丞の桶と入れ替わってしまったのでした。おりきはそのため慌てて焼場を訪れるのですが、そこでおつまはようやく真実を知ることになります。
なんとかおつまが危機を脱したところ、桶を突き破って現れたのが水右衛門。ここからがまた凄惨で水右衛門の極悪非道を身に染みて感じさせられるのです。
源之丞の子を身ごもっているおつまを殺します。
水右衛門が自らが手にかけた人数を指折り数える場面は、背筋が冷たくなりました。
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どんな局面でも冷酷、冷静な水右衛門。
ニヤリとほくそ笑む表情も徹底的に悪が貫かれていて一ミリも情にほだされない人間として際立っています。
一世一代の演目がこれから続くのか
2022年2月には、「義経千本桜 渡海屋・大物浦」で「一世一代」と銘打って、平知盛役を演じておられました。
このときは20㌔以上ある衣装を着て臨まれたそうです。
こうして体力勝負となる舞台がこれからあまり見られなくなっていくのかと思うと、今のうちに舞台にかけられるものは見逃してはいけないと改めて思いました。
孫の千之助さんが最後の場面で大岸主税役で出演されていましたが、仁左衛門さんのこの役を継ぐことはないだろうなあと(基本女形のようですしね)。
御年78歳。3月14日には79歳を迎えられます。
舞台上ではそんな年齢を感じさせない機敏な動きと生き生きとした声で観客を魅了する仁左衛門さん。
世の中を見渡してこんな80歳近い人間はなかなかいないでしょう。
今回の「一世一代」が4作目となりますが、「映像ではなく少しでも生で観てほしい」という思いがあっての舞台だそうですから、できるだけ多くの方に足を運んでもらいたいと改めて思いました。