読書メモ『水車小屋のネネ』最日小#27
『浮遊霊ブラジル』、『この世にたやすい仕事はない』に続き3冊目の登場の津村さん。気に入っているんだと思う。
しゃべる鳥のネネを中心とし、あるコミュニティーの人と人のつながりを50年に渡って描くハートフル系群像劇。
気づけば各章の終盤でウルウルしてしまう感じでよくできているし、この世界にずっと浸っていたいと思わせてくれるような心地いい小説。
ネネがとてもかわいくていじらしくてほっこりする。変に人にこびないところもいいんだけど、上記の心地よさはどこから来るのか。
おそらく『生活』を描くのが上手なんだと思う。序盤はとくに「これは貧困をテーマにした小説なのかな?」と思うくらいカツカツの生活が続くのだが、主人公の一人の姉がアルバイトをし、その給料で物を買い、図書館に行き、という日々の営みやその判断などの描写がとてもリアルで、いつの間にかその『生活』のロジックの中に自分が入り込んでいる感覚になるんじゃないかと思う。
この『生活』を淡々と描いていく感じは以前読んだ作品にも通底していて、この作家さんのお気に入りポイント。本作はさらに人とのつながりや、そこから生きる意味を見出していくという大きくかつポジティブなテーマをきれいに描いていて、傑作と言える作品になっていると思う。おすすめです!
あとは、50年という長期間を描くにあたってラジオから流れてくる洋楽を上手く使っていて印象に残る。サブスク時代、これを聞きながら読むのも楽しい。
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