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トランプ政権と暗号資産 2024年11月時点

2024年11月6日の米国大統領選でトランプが勝利してから、クリプトカレンシー(暗号資産)価格が軒並み上がっています。
2015年からのドル建てビットコインの価格は以下の通り。

ビットコイン価格(米ドル建て)の推移 出所:Yahoo Finance、2024年11月24日時点

チャートを見るとこれまでのビットコインの最高値更新は以下のタイミングで起こっていることが分かります。

  • 2017年12月:日本で「仮想通貨」が大ブームに

  • 2021年4月:取引所のCoinbaseが米国NasdaqでIPO
    ※コロナ環境下での金融緩和で2020年後半から米国でCryptoがブームに

  • 2021年10月:ビットコイン先物ETFが米国で上場

  • 2024年3月:ビットコイン現物ETFが1月に上場し、大幅な資金流入が続く

  • 2024年11月:米国大統領選挙でトランプ氏勝利

なお、米国現物ETFの日次の純流入額/流出額と累積純資産額の推移は以下の通りで、3月までは累積のネット流入US$40bn(6.2兆円)程度、そこから9月6日までは累積でUS$12bn(1.9兆円)流出するも、足元まででネットUS$80bn(12.4兆円)程度の資金流入、現在では残高はUS$107bn(16.6 兆円)となっています。
※Grayscaleがもともと非上場投信としてビットコインTrustを発行しておりこれがETFとして上場しています。なので最初からAUMがUS$29bn(4.5兆円)あります

米国ETFへの資金流入状況

グローバルのETFの純資産額TOP100 はこちらです。一位のSPDR S&P 500 ETF TrustはUS$630bn(97.7兆円)、ビットコインでは合計でUS$107bn(16.6
兆円)で、銘柄としてはBlackrockのiShares BitcoinがUS$48bn(7.4兆円)がトップです。株式のETFと比べてもそれなりの規模になっていることがわかります。

これまでは日本、米国での仮想通貨、クリプトブーム、ETFを通じた資金流入期待(その後の実際の大型の資金流入)でビットコイン価格は最高値を更新≒暗号資産全体の時価総額も最大を更新しています。
今回の最高値更新はドナルドトランプの大統領選挙勝利をきっかけにしており、なぜトランプが大統領になると暗号資産価格が上がるのか、何が期待されているのかをまとめてみました。


トランプ氏の大統領選挙に向けた公約

トランプ氏が大統領選に向けて明確なスタンスを示したのは2024年5月25日にワシントンDCで行われたリバタリアン党全国大会です。
そこでトランプ氏は以下の発言を行いました。

米国を仮想通貨業界のリーダーに: トランプ氏は、「我々の国はこの分野でリーダーでなければならない。2位という選択肢はない」と述べ、米国が仮想通貨業界で主導的な地位を確立すべきと強調しました。

仮想通貨保有者の自己管理権の保護: 「米国に住む5,000万人の仮想通貨保有者が、仮想通貨を自分で管理できるようにする権利を支持する」と述べ、仮想通貨の自己保管の権利を擁護する姿勢を示しました。

仮想通貨の未来を米国内で構築: 「仮想通貨とビットコインの未来を米国で作り、海外に流出させないようにする」と述べ、仮想通貨の発展を国内で推進する意向を示しました。

共和党全国大会は同年7月15日から18日にかけて、ウィスコンシン州ミルウォーキーで開催され、この大会では、ドナルド・トランプ氏が2024年大統領選挙の共和党候補として正式に指名されました

トランプ氏はその直後、7月27日のテネシー州ナッシュビルで開催された「Bitcoin Conference」にも参加し、以下の内容のスピーチを行っています。

国家戦略的ビットコイン準備金の保有: トランプ氏は、アメリカが「戦略的国家ビットコイン準備金」を保有すべきであり、政府が押収したビットコインは「決して売却しない」と述べました。

ビットコインの国内マイニング推進: ビットコインは「アメリカでマイニングされ、ミントされ、作られるべきだ」と強調し、国内でのビットコインマイニングを推進する姿勢を示しました。

包括的な暗号資産政策の必要性: ステーブルコイン規制やビットコインのセルフカストディの権利などを含む、包括的な暗号資産政策の策定が必要であると訴えました。

民主党政権への警告: 民主党がホワイトハウスを維持することは暗号資産にとって大惨事になると述べ、「彼らがこの選挙に勝てば、あなた方は皆、いなくなる。彼らは凶暴になる。無慈悲になる。信じられないようなことをするだろう」と警告しました。

SEC委員長の解任計画: 当選した場合、初日に米証券取引委員会(SEC)のゲイリー・ゲンスラー委員長を解任する計画を明らかにしました。

米国が保有するビットコイン(シルクロード事件などで押収したもの)を売らない、という発言は、ドイツ政府の売りによってビットコイン価格が大幅に下がった直後だったのでマーケットから好感されていました。

また、国家戦略的ビットコイン準備金という概念も注目されてきています。国家として戦略的にビットコインを持っておこうぜ、という話ですね。

Bitcoin Policy Institutionというシンクタンクが戦略的ビットコイン準備金の意義について、まとめたものを要約したのが上記のKojiさんのTweetです。

9月11日のハリス氏との公開討論でも何かCryptoの話題が出るかなと思って楽しみにリアルタイム視聴していましたが全く出ず、これを受けてビットコイン価格はやや下がるなどしていました。

その後もトランプ氏は、選挙キャンペーン中に暗号資産業界への支持を明確に示し、ビットコインのマイニング権利を擁護することや、民主党による暗号資産への抑圧を終わらせると発言しています。

トランプ氏のクリプトフレンドリーな行動

トランプ氏は今回の選挙以前にもクリプト好きっぽい動きをしてきています。
2022年12月にはTrump Digital Trading CardsというNFTを1個99ドルで発売。こちらがOpenseaのページです。

2022年12月に発売されたTrump Digital Trading Cards

2024年8月にはTrump Digital Trading CardsのAmerica First Editionというのをまた出しています。

2022年12月に発売されたTrump Digital Trading Cards America First Edition

これらのNFTの保有者はトランプと一緒のイベント(ディナーなど)参加への応募が可能になります。このほかにも2回NFTを発行していますがチェーンはPolygonを使っており、価格は1個99ドル相当です。

また、World Liberty FinancialというDefiプラットフォームの立ち上げも支援しています。WebsiteにいくとInspired by Donald J Trumpという言葉と共にトランプ氏の写真が掲載してありますが、運営主体は独立した別組織であることがディスクレイマーに記載してあります。

また、トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(DJT)が、インターコンチネンタル取引所(ICE)傘下のクリプト取引プラットフォームBakktの買収交渉の大詰めを迎えていることも11月19日に報じられています。

トランプ氏勝利後の米国での動き(噂含む)

トランプ氏が第47代米国大統領に就任するのは2025年1月20日の予定です。しかし11月6日の選挙以降、すでに米国における暗号資産周りの動きが変わってきています。

SEC(米国証券取引委員会)チェアマン(委員長)ゲンスラー氏の退任発表:
様々な暗号資産やイーサリアムのステーキングについて「証券ではないか」という疑義を呈したり、暗号資産業界の消費者保護態勢について警鐘を鳴らし続けてきたゲンスラー氏が2025年1月20日に退任することが11月22日に発表されました。ゲンスラー氏は2021年4月にバイデン大統領に指名されSECのチェアマンに就任しています。
これを受けて、SECと暗号資産関連企業との複数の訴訟が解決するのではないかという観測も出始めてきています。

暗号資産関連会社のIPOに向けた動き(観測含む): USではCoinbaseがNasdaqに株式上場していて2024年11月22日現在時価総額はUS$76bn(11.8兆円相当)ですが、大型の暗号資産関連銘柄は2021年4月に上場したCoinbaseくらいしかありません。トランプ政権下で暗号資産関連銘柄の株式上場が続くのではという観測が出始めています。

トランプ政権の人事(観測含む):ハワード・ルトニック氏を商務長官(日本でいう経産省と総務省みたいな役割)に指名しています。ルトニック氏は金融サービス会社カンター・フィッツジェラルドのCEOであり、暗号資産業界に積極的な支持を示しています。
また、ヘッジファンド経営者で暗号資産支持者のスコット・ベセント氏を財務長官に任命する最終段階に入っていると言われています。
また、暗号資産専門のポストを政府内に作るのではという観測も出ています。

イーロン・マスクの「政府効率化省(Department of Government Efficiency、略称DOGE)」の共同責任者就任:今回の選挙でトランプ氏の協力なサポーターだったイーロン・マスクが「政府効率化省(Department of Government Efficiency、略称DOGE)」の共同責任者に就任しています。
イーロン・マスクはミームコインのDOGE愛好家なので、完全に遊んでいるネーミングではあるのですが、選挙にブロックチェーンを使って効率化を目指す、などの具体的な内容も出してきています。

米国企業が発行するトークンの税制優遇(噂):米国企業が発行する暗号通貨に対するキャピタルゲイン税が全て撤廃されるのではないか、という噂が11月14日に出ていました。本件はこれ以降追加の報道がないので、今のところただの噂だった可能性が高いです。

米国のブロックチェーン業界からの共和党への要望

米国のブロックチェーン協会が11月22日にトランプ次期大統領と新議会にあてて書簡を提出しました。新政権の就任後、最初の100日間で検討すべき優先事項を挙げています。全文はこちらです。

なお、ブロックチェーン協会のメンバーはこちら。取引所、VC、コインの発行体、アセットマネジメント、DeFi Platformなど幅広いプレイヤーが参加しています。

Blockchain Associationのメンバーたち

全文、長くないので日本語訳をそのまま貼ります。
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歴史的な選挙の結果を受け、仮想通貨業界は、あなたのリーダーシップの下で、米国におけるより友好的な規制環境への期待と楽観を抱いています。長年にわたり、アメリカの仮想通貨イノベーターたちは敵対的な規制体制の標的にされ、一部は海外に追いやられる状況に直面してきました。

あなたがワシントンD.C.に到着したことで、その現実を変える可能性が生まれています。

全米を代表するデジタル資産業界団体であるBlockchain Associationを代表して、私たちは、米国が再び技術革新における世界のリーダーとしての地位を確立できるよう、あなたと協力することを強く希望しています。
政権の最初の100日間で、国内のデジタル資産経済を支援するために取るべき5つの即時的なステップがあります。

  • 仮想通貨の規制枠組みを確立する
    マーケット構造とステーブルコインに関する立法は、議会が主導する超党派の取り組みとなり得ます。消費者を保護しながら、イノベーションを促進するデジタル資産に適した枠組みを構築することが重要です。

  • 仮想通貨業界への銀行サービス拒否を終わらせる
    仮想通貨企業や利用者は、不当に従来の銀行サービスへのアクセスを拒否されてきました。これは従業員への給与支払いや、取引先、税金の支払いにとって不可欠です。このような慣行は直ちに終了すべきです。

  • 新しいSEC(証券取引委員会)委員長を任命し、SAB 121※を撤回する
    仮想通貨業界は長らく敵対的なSECと、その「執行による規制」アプローチにさらされてきました。SECの新たなリーダーシップは、より公正で透明性が高く、効果的な規制環境を確保するために不可欠です。
    ※SAB 121については解説を加えています。

  • 財務省およびIRS(国税庁)に新たなリーダーを任命する
    デジタル資産に関する税務処理は不規則であり、「ブローカー規則」のような提案は、有望な企業やプロジェクトを業界から完全に海外へ追いやる可能性があります。また、財務省がソフトウェア開発者にとって歓迎される環境を作り、すべてのアメリカ市民のプライバシーを優先することも重要です。

  • 議会および連邦規制機関と連携するための仮想通貨諮問委員会を設立する
    産官連携は、業界に適した賢明なルールを確立しつつ、消費者を保護するために重要です。仮想通貨業界は、あなたの政権と直接関与することを強く望んでいます。

Blockchain Associationとその約100の加盟団体を代表して、米国が再び世界の仮想通貨の中心地としての地位を取り戻せるよう、あなたと協力する準備ができています。

仮想通貨のイノベーション、この新しい技術を切り拓く企業、そして金融やインターネットの進化という新しい時代を迎えるために深く貢献しているアメリカの労働者、イノベーター、そしてクリエイターたちへの尽力に感謝いたします。
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日本では資金決済法で暗号資産は定義されていますが、米国ではこれまで定めがなく、コモディティなのか、証券なのか、誰が管轄するのか、が不明瞭でした。
消費者保護とイノベーションを両立するルールを最初の100日で作って、というのが業界団体からのリクエストなのですが、このルールがほんとに100日でできるのか、どのような内容になるのかはアメリカのみならずグローバルの暗号資産業界全体に大きな影響を持つことになりそうです。

SAB 121の内容、影響

  1. デジタル資産の会計処理:

    • 仮想通貨取引所やカストディアン(資産管理会社)が顧客の仮想通貨を保有している場合、その仮想通貨を企業のバランスシートに計上することを義務付けています。

    • 顧客資産であっても、企業が保有リスクを負う可能性があるため、これを資産および負債として計上することを求めています。

  2. 価値の評価:

    • 仮想通貨の市場価値に基づいて計上します。

    • 仮想通貨の価値が変動するリスクも負債として記載する必要があります。

  3. リスクの開示:

    • 仮想通貨保有に伴うリスク(例: ハッキングや規制の不確実性)を投資家に開示する義務があります。


SAB 121の影響

  1. 仮想通貨企業への負担増:

    • 取引所やカストディアンは、顧客資産を自己の資産として計上するため、会計処理が複雑化しました。

    • このガイダンスにより、資本要件が厳しくなり、一部の企業が新たなコストやリスクに直面しました。

  2. 業界からの批判:

    • 仮想通貨業界は、SAB 121が「過剰な規制」であり、顧客資産を企業のバランスシートに計上するのは不適切であると主張しています。

    • 特に、資産を直接所有しない場合でもリスクを負うような会計基準に対して異議が唱えられています。

  3. 市場への影響:

    • 一部の仮想通貨企業は、規制コストの増加やリスク開示の義務が原因で、事業を縮小または海外移転することを検討しています。

第1期トランプ政権での実績

暗号資産政策への期待が高まるトランプ氏ですが、氏は2017年1月20日から2021年1月20日の間も米国大統領を務めていました。この期間は米国での暗号資産のブーム前だったこともあり、実は暗号資産に対してはかなり辛辣な態度をとっていました。

ドナルド・トランプ氏が2017年から2021年に米国大統領であった期間中、仮想通貨に関して以下のような発言を行っています。


仮想通貨への批判的な発言

  1. ビットコインや仮想通貨全般への否定的見解:

    • トランプ氏は、2019年7月11日にツイッターで以下のように述べています:

      • 「私はビットコインや他の仮想通貨のファンではない。それらはお金ではなく、非常に不安定で価値が基盤となっていない。」

    • 仮想通貨が違法行為を助長する可能性があると警鐘を鳴らしています。

  2. フェイスブックのLibra(現在のDiem)への批判:

    • フェイスブックが計画していたデジタル通貨「Libra」に対しても、強い懸念を表明しました。

    • トランプ氏は「Libraや他の仮想通貨が通貨になりたければ、新しい銀行章を取得し、他の銀行と同じようにすべての規制を遵守しなければならない」と発言しました。


規制の強化

  1. 財務省や規制当局の支持:

    • トランプ政権下で、財務長官スティーブン・ムニューシンは仮想通貨の規制を強化する方針を打ち出しました。

    • ムニューシン氏は、仮想通貨がマネーロンダリングや犯罪に使用される可能性を指摘し、政府が規制を強化する意向を示しました。

  2. SECの仮想通貨規制:

    • トランプ政権下で、米証券取引委員会(SEC)は仮想通貨を証券として規制する動きを強化しました。

    • ICO(イニシャル・コイン・オファリング)に対する規制が強化され、多くのプロジェクトが訴訟対象となりました。


トランプ氏の仮想通貨に対する態度は、伝統的な金融システムを支持し、仮想通貨を懐疑的に捉えるものが主流でした。
先ほどの2019年のTweetでも、「米国には実質的な通貨が 1 つしかありません。それはかつてないほど強力で、信頼性と安心感があります。それは世界のどこでも圧倒的に支配的な通貨であり、これからもずっとそうあり続けるでしょう。それは米国ドルです。」と言っています。

個人的な感想と今後の注目点

2024年5月のリバタリアン党全国大会、7月のナッシュビルのビットコインカンファレンスでの発言からは、トランプ氏が大統領になったらビットコインにフォーカスした政策をとるのかな、という印象を持っていました。
戦略的ビットコイン準備金やマイニング、セルフカストディなどを中心に。
しかし、今業界団体からトランプ氏が要望されているのはビットコインのみならず、米国企業がトークンを発行する場合含めた包括的なルールメイクです。
この点について、米国における「証券」と分けて、消費者保護を成立させつつルールを作るのはかなり難しいことなのではないでしょうか。
業界団体からは「100日」という期限も出されており、どのようなソリューションが提案されるのか注目すべきだと思います。
また、SECと暗号資産関連企業との訴訟がどうなっていくか、進展がある場合はどのようなロジックとなるのかも注目しています。

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