ザ・ストリートスライダーズ
小学六年生の頃から、ザ・ストリートスライダーズというロックバンドのファンだった。そう言われても、大半の塔の読者は知らないだろうが、デビュー前に出演していた福生のライブハウスでは、米兵達から「リトルストーンズ」と呼ばれていたと書けば、バンドの佇まいや音の雰囲気は伝わるかと思う。ストーンズとの大きな違いは、ヴォーカルのハリーこと村越弘明がリズムギターも弾く四人編成で、日本語で歌っていた点だ。
スライダーズの魅力を数え挙げればキリがないが、ここでは歌詞の美しさを特筆したい。短歌では一言では表現しがたい複雑な感情を天候や風景に託して詠むことがあるが、私にそのやり方を教えてくれたのは有名な歌人ではなくハリーだった。頑張れとか愛しているとか、そんな安易な言葉の代わりに、傘の中から見つめる雨、乾いた通りを吹き抜ける風、夜の雨に打たれているサインポールなどを感情を交えずに描写する方がずっと雄弁であるのだと、私はスライダーズの歌詞から教わった。
スライダーズはニ〇〇〇年に解散した。その後、ハリーはソロミュージシャンとして活動していたが、二〇二一年五月、がん治療中であることを発表した。それ以来、音楽活動はしていないが、先日、ハリーがデザインしたTシャツが発売された。
私は二〇一六年に第一歌集を出版した。『Midnight Sun』というタイトルは、ハリーの曲名を頂戴した。ハリーにも謹呈した、と言うか、扉のページに献辞を入れた。もしも、第二歌集を出す時には、引き受けてもらえるかどうかは分からないけれど、ハリーに装画を依頼したい。
「生きてて良かった」呟く男性客がいた福島いわきのライブハウスに
佐藤涼子
塔二〇一七年十一月号
※塔ニ〇ニニ年七月号「わたしのコレクション ロック・ポップスの歌①」より転載しました。
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