それとも深い谷底からのしゅうしゅういう音?
あれはデートだったのかもしれない。
もう好きではなくなってしまった人との
一緒にいる喜びの無さを確認するためのデートだったのかもしれない。
もしくは、
数日前に出逢って、好きになれる要素を感じたから
デートに誘われてみたけれど、案外つまらないことに気づいてしまったのか。
気づいたところでわたしは言えない。
なんだかつまらないから早く家に帰りたいだの、
話題を出すのにさえ苦労するのにそれをスルーしないでだの、
あなたといることがプレッシャーになるだの、
言えないわ。
わたしたちは長くも短くもないカップルよ。
そして、長くも短くもあるの。
こうして海沿いで年に何度か会うくらい。
海じゃなくても食事をしたり買い物をしたり。
わたしたちは20年も交流を持ちながら、
どこがよそよそしく会うたびお互いのことが
少しずつわからなくなっていく。
いまどうしている?よりも
あの頃のあなたこうだったよね、という
黒歴史大暴露事件のほうが恒例。
あなたには「いま」や「今後」への
興味がないのでしょうか。
いつかの日言っていたよね。
君がどんどん遠くにいってしまうようだ、と
あの言葉は今も深く胸に荒々しく突き刺さっています。
わたしは遠くへ行きたい。
でもあなたもそうなのでは?
あなたの目指すものはそんな容易に
そんなさみしく同じ場所で留まっていては
なれないものなのではないんですか。
あなたこそもっと遠くに飛んでいく
しかも、わたしよりも速いスピードで。
そんな必要があるのだと思うのよ。
もっとお互い遠くに飛んでっちゃって
空のどこかで偶然会った時に
好きな人の話やかわいいコスメの話で
盛り上がるのでも遅くはないんじゃないかしら。
あなたに対して変な気構えをしてしまう自分が情けない。
気構えしてプレッシャーに負けて、
あなたのことはたくさんわかってるはずなのに
いまはもう、子どもの時のように
あなたに頼って世間知らずで無口でいて……
そんなことが出来なくなってきた。
今のあなたは地図が読めず、なんでも私に聞いて
わたしは頼りだったあなたが変わってしまって
なんとなくそのことへの
その時の流れでわたしたち、変わってしまったね、ということで
わたしは困惑して少しイライラしてしまうのだ。
あなたが他の人からも
こんなふうに思われてしまうのは
悲しい気持ちになるので、
改善点を伝えたくても、
全然いえない。言えないんだ。
もう彼女の気持ちを手に取り思いやることが
わたしにはできなくなってしまっかのだろうか?
〆
あれはキスだったの?
それとも深い谷底からのしゅうしゅういう音?
ーR.D.レイン