【詩】旅する果実
旅する果実
熟れた無色の果実は
名前すら与えられずに
幾星霜を耐え忍んできた
橙の空を貫く巨樹から
かまいたちの手に掛かり
濁った大河に落とされる
雄大な水の塊に呑まれて
勇ましい流れの原動力が
念の群れだと思い知る
甘酸の水に打たれるたび
頑なな諦念に亀裂が生じ
青さを取り戻していく
活き活きとした水の中で
幾つもの黄昏と月に
果てなき想いを告げる
自由な灰色の大鳥に
優しく鷲掴みにされ
大いなる空に溶け込む
世界は色彩豊かで
世界は醜美に溢れ
世界は混沌を愛す
自由な灰色の大鳥が問う
「まだ名前が欲しいか」と
果実は無言のまま微笑んだ
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