東京でも星はみえますか
こーくんが、東京に出る。私は東京が嫌いだ。何でもあるみたいな顔して欲しいものは何にも無いし、あんなにたくさん人がいるのにあの中のどこにも会いたい人がいないんだ。こんなに寂しい街を私は知らない。知ったかぶりしたお洒落な振りした東京が嫌いだ。
「どーせこーくんも東京に出るんでしょ」
「どーせとか言わない」
「はいはい」
いつかやりとりした言葉が現実になるのは、思ったよりも早かった。
こーくんなんて嫌いだよ。電車もろくに乗ったことないくせに。近所のおばあやおじいとは、訳の分からんくらい訛った方言で喋るくせに。それなのにこーくんは、東京に出ると言う。東京の方が選択肢が増えるから、夢にも一歩近付くから、そんな最もらしいことを言ってた。知らん、そがんこと。私はこーくんの何にもなれなかった。恋人にも、セフレにさえもなれなかった。友達なのかすら危うかった。でもずっと一緒にいた。今までは。私には一緒に東京に行くと言ってしまえる思いきりも決断力もない。情けない。だから当てつけみたいに、「すきでもない人と寝るのってどういう気分」と聞いてみたら、「どういう気分でもない」と言われた。こーくんは何でも出来るのに何故あんなに寂しそうなんだろう。いつも寂しそう。寂しいから、東京に行くんだ。寂しい人たちの中に紛れ込んでしまえば寂しいのが薄まるから。
「俺とさーは似てるよ」こーくんはたまに言う。どこが?って聞いても教えてくれない。私はこーくんに似ていない。だって、似てるんならもっとこーくんのこと理解できるはずだもん。似てるんなら大嫌いになるはずだもん。私もいつか、好きでもない人と寝る日が来るのだろうか。そこまで寂しいと思う夜に出会うのだろうか。東京は嫌いだ。生まれ育ったこのふるくさい町と同じくらい嫌いだ。こーくんなんて嫌いだ。早く東京に染まっちまえ。東京でも地元でもこーくんはこーくんでしかないことを思い知れ。そして、早く東京で寂しさを薄めて、そして、帰ってきて。ねえ、帰ってきて。寂しくてもいい、私も都会の除光液のにおいのする女の子になりたい。健全でいなくていい、私もこーくんの近くに居たい。人気者のこーくんじゃなきゃこーくんじゃない。でも、寂しいのに人気者になってしまうこーくんのことが大嫌いだ。世界でいちばん、大嫌い。わかりたい、わかりたいけど、わからない。わかってしまえば私もただの女の子になる。こーくんが何とも思わずに抱く、その辺の女の子になってしまう。好きだと言えなかった私は、こーくんという人のまわりをぐるぐるまわって、外側からずっと眺めて、でも、しかるべき距離を守った私は、私を保った。
こーくんがここを離れれば、これ以上心を乱されることもない、これは尊敬で、憧れで、恋なんかじゃない、才能に恋をしただけ、私は、私を泣かす人ばかり好きになる。きっと東京でもうまくやれる。こーくんは、うまくやれる。こーくんみたいな寂しい人は都会に出る方が安心できるのかもしれない。
「さーは俺と似てるよ」今日、またこーくんは私に言った。どこが、と問うと、自分を泣かす奴ばかり好きになってしまうカワイイとこ、だそうだ。じゃあ泣かさんでよ、笑わせてよ。それは言えない。こーくんは誰が好きなの、それはもっと言えない。黙り込んだ私に、「ずっと書き続けてよ、さーは書けるから大丈夫だよ」と言ったこーくんの声がなんだか優しくて、それがむかついて、コンバースのスニーカーで思いきり足を踏みつけたら痛がっていた。違うんだって、大丈夫じゃないから書いてるんだよ、早くやめてしまいたい、こんなこと、書かなくても幸せに暮らせるのならそれがいい。ずっと書き続けてよ、は、ずっと忘れないでよ、と、同じ意味だよ、こーくんは東京に行くくせに。私の目はやたらとちゃんと真っ直ぐ見て話をしてくれたくせに。本当は私のこと大事にしてたくせに。大事すぎて手出せなかったくせに。
別れ際、東京でも元気でね、と仏頂面で伝えたら、「どうしてそんなに棒読みなん」と楽しそうに笑っていた。「俺のこと忘れないでね」ってへらへらしながら言ってきたのが寂しさの引き金になって、涙がぶわっとこみあげてきて、それでも私は素直になれなかった。すぐ忘れるに決まってるじゃんって言ったけど、たぶんずっと忘れないと思う。だってこーくんは星座を教えてくれたから。残念ながら星がこの世から消えない限りは忘れてあげられないと思うよ、あーあ、私も何か、そういう消えないものを教えてあげられれば良かったな。
#チーム午前二時 、12月3日
チーム午前二時:2020年12月3日、夜中に思いつきで突如発足。部員一人。夜中に起きている人は誰でも入部可能。フィクションもノンフィクションも雑談も日記もハッピーもネガティブも全部。内容も設定もブレブレ。クリスマス付近までは毎日投稿の予定。あくまでも予定。