超個人的!2020年印象に残った論文5選
みなさん、今年はどんな論文に出会いましたか?私は今年もたくさんの論文に触れることができました。その中から個人的に特に印象に残った論文を5本厳選して、エモを共有したいと思います!
第5位 卵巣と精巣を併せ持つモグラ
最初はこれ!Scienceに掲載された、ゲノム再編成によって卵精巣が進化したメカニズムに迫った論文。イベリアモグラのメスは不思議なことに、卵巣と精巣が合わさった卵精巣と呼ばれる器官をもつ。この研究によって、イベリアモグラではクロマチン構造が変化していることが明らかに。精巣を獲得したことで雄性ホルモンが増加し、筋肉が増えて地中生活により適応できた可能性が示唆された。遺伝子の変異ではなく、ゲノムの構造変化によっても新しい器官が進化しうることを示唆した点で大きな発見だったのではないだろうか。この論文はゲノム解読やHi-C、○○-seqを駆使していて、オミクス時代を象徴する論文であるように感じた。これからますます非モデルを対象に不思議な生命現象を解き明かす研究が増えてくるのではないだろうか。そんな期待も込めて。
第4位 腸が砂糖を味わい行動を制御
腸で砂糖を感知して脳に作用し、行動が変化することを示した画期的な論文!Natureで掲載。人工甘味料は砂糖と同様あるいはそれ以上に甘く、味覚では区別がつかない。ところがどっこい、腸は砂糖と人工甘味料を区別できることが発見された。マウスに砂糖入りの食べ物と人工甘味料入りの食べ物を選ばせると、最初は両者を同じくらい摂取するが、しばらくすると砂糖入りの食べ物ばかり選ぶようになる。これは腸が砂糖を認識し、迷走神経を介して砂糖を優先的に摂取するように脳に働きかけるためだ。人工甘味料にダイエット効果が認められないのはこのためかもしれない。ここ数年で迷走神経の分類が進み、遺伝子マーカーが同定されたことが功を奏し、今年はこの論文をはじめ迷走神経の役割を解明したいくつもの研究がトップジャーナルを賑わした。
第3位 性的寄生の免疫遺伝学
Scienceに掲載された、メスのアンコウが既存の免疫システムを捨てたために、オスが異物として排除されないことを示唆した論文。チョウチンアンコウのオスはメスに寄生する、というか精巣を残して融合する(性的寄生)ことはたぶんご存知だろう。では、なぜオスがメスの免疫系に排除されないのか疑問をもったことはあるだろうか?私はちっとも疑問に思わなかったし気づかなかった...性的寄生をする種としない種のゲノムを比較したところ、性的寄生をする種は既存の免疫系を捨てていたことが明らかに!免疫系を捨てた、あるいは既知の免疫系をもたない生き物はアンコウの他にもコウモリなどが知られている。こうした生き物の未知の免疫系の中に、組織移植やワクチン開発にブレイクスルーを巻き起こす発見があるかもしれない。
第2位 睡眠不足による死亡リスク
Cellに掲載された、睡眠不足になると腸で活性酸素種(ROS)が蓄積するために短命になることを発見し報告した論文。ROSは高い酸化力をもち、DNA等を傷つけて老化やがんの原因になることが知られている。睡眠不足になった動物の様々な臓器でROSの蓄積を検証した結果、腸で特異的にROSが蓄積し細胞死が起こっていることが発見された。さらに、腸のROSを中和すると睡眠を阻害しても個体の寿命は短縮しないことが証明された。この論文のすごいところは、基本的にはショウジョウバエを使いながらもマウスでも検証を行っている点。睡眠不足に陥った腸でのROS蓄積はハエでもマウスでも観察されていて、動物共通のメカニズムである可能性が示唆された。睡眠の適応的意義はいくつか仮説が提唱されているが、ROSの解消が有力になるかも。
第1位 左巻きDNAによる記憶制御
1位は迷わずこれ。Nature Neuroscienceに掲載された、「左巻きDNA」が記憶の制御に関わっているという論文。もちろん、"ふつう"のDNAは右巻きだ。ところが記憶形成時には右巻きDNAが左巻きになり、記憶消去時には左巻きが右巻きに戻る。この発見は、DNAが塩基配列としてだけではなくその構造によっても情報を可逆的に記録できることを明らかにした点で大きな意義があったのではないだろうか。免疫分野でも左巻きDNAが遺伝子発現制御に関わっていることが明らかになっていて、今後「左巻きDNA」が新たな"エピジジェネティック"制御として注目を集める感じがビンビンする。あと、この論文は主張のインパクトやわかりやすさとは裏腹に実験デザインがややこしくて、読むのに随分と苦労した。その意味でも、今年最も印象に残った論文となった。
いかがでいたか?迷いに迷ってこの5本を選びました。論文のリンクも埋め込んでいますので、気になる論文があればぜひのぞいてみてください。どれもすばらしい仕事です。
来年もおもろい研究に出会えますように...
それではよいお年を!